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『アンネの日記』:1959、アメリカ

 オットー・フランクはアムステルダムを訪れ、以前に隠れ住んでいた建物を訪れた。そこへ旧知のクラーレルとミープが来て、「無事で良かった」と告げる。ミープが自分の家で休むよう勧めると、オットーは「アムステルダムにはいられない。思い出が多すぎる」と断った。
 彼が「アンネにノートを探すよう約束した」と言うと、ミープは「日記なら元の場所に」と教える。オットーはミープからアンネの日記を受け取り、ページを開いて読み始めた。

 3年前の1942年、ユダヤ人のアンネ・フランクはナチスから逃れ、父のオットー、母のエーディト、姉のマルゴットと共にオランダへ移住した。しかしオランダもドイツに占領されたため、一家は隠れ家で暮らすことになった。
 フランク一家はオットーの知人であるファン・ダーン家の面々と共に、クラーレルが家主を務める建物で隠れ住むことになった。そこは1階が香辛料工場、2階がクラーレルと秘書のミープがいる事務所で、3階と4階と屋根裏部屋を改築した隠れ家が使われることになった。

 オットーはアンネたちに、工場の従業員がいる朝8時から夜6時までは音を立てないよう指示した。ファン・ダーン家は父のハンス、母のペトロネッラ、息子のペーターという3人家族だった。ペーターは猫のムッシーを飼っており、アンネとマルゴットはすぐに仲良くなった。
 アンネたちは従業員が仕事を終えて工場を去るまで、本を読むなどして静かに過ごした。オットーはクラーレルに頼んで、アンネのために日記帳を用意してもらった。アンネは喜び、初めての日記を書き始めた。

 ペーターは勉強が苦手で、「どうせ僕は劣等生だ」と漏らした。オットーは彼に、一緒に勉強しようと持ち掛けた。ハンスは煙草が切れて苛立ち、ペトロネッラと口論になった。アンネがじっと見ていると、ハンスは八つ当たりした。
 アンネの生意気な態度に腹を立てた彼は、「君みたいな娘は好かれない。男は従順な娘が好きだ」と言う。するとアンネは全く悪びれず、「私はパリに留学して女優か作家になる」と宣言した。アンネはエーディトから「口答えしないマルゴットを見習いなさい」と注意され、「口答えしないから扱き使われるのよ。私は自分らしく生きるために戦う」と反発した。

 ミープはアンネたちの元へ来て、田舎へ隠れることにした婚約者のラジオをプレゼントした。アンネたちはラジオで音楽を聴いて踊り、ニュースで戦争に関する情報を知った。
 ある夜、1人の男が事務所に入って来る音を耳にしたアンネたちは、秩序警察ではないかと怯えた。彼女たちは音を消し、身を潜めた。侵入者は泥棒で、事務所を荒らして去った。翌朝、クラーレルとミープがアンネたちの元へ来て、侵入者が秩序警察ではなく泥棒だったこと、闇配給帳の入っている金庫は開けられずに去ったことを伝えた。

 クラーレルはオットーに、歯科医であるユダヤ人のアルベルト・デュッセルを匿って欲しいと頼まれたことを明かした。協力を求められたオットーもエーディトも快諾し、デュッセルを迎え入れた。デュッセルはユダヤ人が次々に連行されていることを教え、アンネは親友のサンネと両親も収容所に送られたことを知った。
 クラーレルからは楽観的な情勢が伝えられていたため、オットーたちは大きな違いに困惑した。アンネはデュッセルが動物アレルギーだと知り、ペーターが部屋で猫を飼っていることを教えた。

 その夜、アンネは秩序警察に捕まる夢を見た。彼女は悲鳴を上げて飛び起き、エーディトが心配して駆け寄った。エーディトが優しい言葉を掛けて付き添ってやろうとすると、アンネは「そばにいてほしくない。パパを呼んで」と告げた。オットーが行くと、彼女は見た夢の内容を明かした。
 「パパだけを愛してる」とアンネが抱き付くと、オットーは「母さんのことも愛してほしい」と頼む。「ママは私を理解してくれない」とアンネが話すと、彼は「お前は母さんを傷付けた。泣いているぞ」と言う。アンネは反省し、「私は悪い子ね。二度としないと誓うわ」と口にした。

 空襲は激しくなり、アンネたちが暮らす建物は爆音が響いて大きく揺れることもあった。1942年12月7日、アンネたちはハヌカ祭を祝った。アンネは全員のために、それぞれ別のプレゼントを用意していた。
 誰かが事務所に来る音がしたので、一行は電気を消して身を潜めた。侵入者は泥棒で、金庫を物色する。ムッシーを捕まえようとしたペーターが大きな音を立ててしまい、泥棒は逃亡した。オットーは侵入者が秩序警察かもしれないと考え、様子を見に行くことにした。

 アンネは父が心配になり、ペーターに連れ戻すよう頼んだ。町を巡回していた夜警は、建物の扉が開いているのに気付いた。夜警が建物を覗いたのでオットーは身を隠し、アンネとペーターも息を潜めた。
 アンネが失神したため、ペーターが抱き止めた。建物の外に2人の憲兵が来たので、夜警は一緒に中を調べることにした。3人ともアンネたちには気付かず、建物を去った。

 デュッセルは「いつか泥棒は捕まり、ゲシュタポと取引する」と不安を吐露し、ペトロネッラは逃げようと提案する。しかしアンネたちには、どこにも逃げ場所など無かった。オットーは「少し前は終わりだと思ったが、こうして無事に生きてる。神に感謝しよう」と語り、皆でハヌカの歌を合唱した。
 年が明けるとムッシーは家出し、アンネたちは栄養不足で痩せた。ペトロネッラとハンスは口論が激化し、アンネは相変わらず母に反発していた。彼女は体の変化について考え、ペーターへの気持ちの変化も感じ始めていた…。

 製作&監督はジョージ・スティーヴンス、原作はアンネ・フランク、戯曲はフランセス・グッドリッチ&アルバート・ハケット、脚本はフランセス・グッドリッチ&アルバート・ハケット、撮影はウィリアム・C・メラー、編集はデヴィッド・ブレサートン&ロバート・スミス&ウィリアム・メース、美術はライル・R・ウィーラー&ジョージ・W・デイヴィス、衣装はメアリー・ウィルス、音楽はアルフレッド・ニューマン。

 出演はミリー・パーキンス、ジョセフ・シルドクラウト、シェリー・ウィンタース、エド・ウィン、リチャード・ベイマー、グスティー・ユーベル、ルー・ジャコビ、ダイアン・ベイカー、ダグラス・スペンサー、ドディー・ヒース他。

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 アンネ・フランクの著書『アンネの日記』と舞台劇を基にした作品。監督は『シェーン』『ジャイアンツ』のジョージ・スティーヴンス。脚本は『哀愁物語』『ある微笑』のフランセス・グッドリッチ&アルバート・ハケット。
 アンネをミリー・パーキンス、オットーをジョセフ・シルドクラウト、ペトロネッラをシェリー・ウィンタース、デュッセルをエド・ウィン、ペーターをリチャード・ベイマー、エーディトをグスティー・ユーベル、ハンスをルー・ジャコビ、マルゴットをダイアン・ベイカー、クラーレルをダグラス・スペンサー、ミープをドディー・ヒースが演じている。

 ミリー・パーキンスは本作品でヒロインに抜擢されたが、その後は輝かしいキャリアを積み重ねることが出来なかった。たぶん、この映画以外で名前を聞いたことが無いという人も少なくないんじゃないだろうか。
 実際、「ミリー・パーキンスの代表作」として挙げられるのは、この映画ぐらいなのだ。以降は劇場映画のヒット作に出演することもなく、テレビドラマの世界に活動の舞台を移した。この映画での演技がそんなにダメだったとは思わないが、スターになるための運を掴み切れなかったってことかな。

 アンネはペーターと仲良くやっていたはずなのに、些細なことで彼と喧嘩になってしまう。デュッセルが来た時は歓迎していたのに、些細なことで嫌いになってしまう。「ママは自分を理解してくれない」と拒絶し、パパに甘えて不満を漏らしてしまう。
 そういった様子は、時代や状況に関係なく普遍的な「思春期の少女の様子」である。そういう普遍的な様子を描くことによって、余計に「戦時中に迫害されるユダヤ人ならではの出来事」が強く伝わるようになっている。

 アンネは決して「いい子」ではない。ハンスが言うように生意気な言動が目立つし、面倒も良く起こす。そのせいで、下手をすると秩序警察に見つかるかもしれない出来事まで起こしている。
 だが、まだ彼女は13歳だ。しかも、つい最近までは親友と会ったりして普通に生活できていたのだ。それなのに、急に外に出られず1日の大半は声を潜めて暮らさなきゃいけない状況に追い込まれた。それを考えると、どれだけ大変でストレスが溜まるのかは想像も出来ない。

 普通に暮らしていても、アンネの生意気な言動は「まだ13歳だし」ってことで、大目に見てもいいだろうと思えるモノだ。しかも本作品の場合、ものすごく特殊な環境に置かれている。なのでアンネが聞き分けの良くない言動を取ったとしても、同情の余地は充分すぎるほどに存在する。
 また、秩序警察に見つかるかもしれない出来事に関しては、親友が連行されたショックから「自分も収容所に送られるかも」と強い不安を覚え、悪夢を見て悲鳴を上げたのだ。だから、もちろん非難する気など微塵も起きない。

 言うまでもないだろうが、アンネを取り巻く環境は、どんどん悪化していく。単に町への砲撃が激化していくだけでなく、アンネたちが暮らす隠れ家にも確実に危機が忍び寄る。ストレスが溜まったり口論になったりする程度で済んでいれば、まだマシな部類だ。
 やがて物資の不足で生活は苦しくなり、体調を崩す者も出て来る。さらに倉庫係のカールが不審を抱き、クラーレルを脅して金を請求するようになる。カールは隠れ家に確信を抱いたわけではないが、「いつバレるか分からない」というギリギリの状況にあるってことだ。

 そんな中で、アンネにとってはペーターとの時間がわずかな安らぎや希望になる。彼女はペーターが自分よりマルゴットに惚れていると思っているが、そんなことは大した問題ではない。自分が誰かを愛することで、ある意味では現実逃避したのかもしれない。しかし配給帳の名義人が捕まり、クラーレルが潰瘍で入院し、事態は全く好転しない。
 ずっと重苦しさの日々が続く中、それが一気に晴れる日が訪れる。ラジオのニュースで、連合軍のノルマンディー上陸が報じられるのだ。それを知ったアンネたちは喜び、「もうすぐ自由になれる」と浮かれる。しかし我々は、アンネたちに幸福が訪れないことを知っている。

 やがてアンネたちは、泥棒の密告によってゲシュタポに隠れ家を発見される。覚悟を決めたアンネは、ペーターに「酷い世の中だから、何かを信じるのは難しい。でも、私は思うの。私と母の関係のように、きっと世界は変わる。いつか必ず。人間は本質的に善だと、私は信じている」と語る。
 しかし残念ながら、世界は基本的に何も変わっちゃいない。今も世界のどこかで、戦争や紛争によって多くの人々が辛い目に遭っている。「人間は本質的に善」という考え方では、世界は変わらないのだ。

(観賞日:2022年6月22日)

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