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『ルパン三世 カリオストロの城』:1979、日本

 ルパン三世と仲間の次元大介、石川五右ヱ門の3人は、モナコの国営カジノの大金庫から売上金を盗み出した。だが、車を走らせて喜んでいたルパンは、札束が幻の偽札と呼ばれるゴート札だと気付いた。
 ルパンは「次の仕事は決まったぜ」と言い、次元と共に変装して、カリオストロ公国に入国した。人口3500人、世界で最も小さな国連加盟国であるカリオストロ公国は、ゴート札の震源地と言われていた。だが、これまでゴート札にちょっかいを出して、カリオストロ公国から出られた者は一人もいなかった。

 ルパンと次元が車のパンクを修理していると、ウェディングドレス姿の少女が車を暴走させて通り過ぎ、複数の男たちが彼女を追い掛けていった。ルパンと次元は車を発進させ、一味を倒して少女を助けた。
 しかし崖から転落したルパンが気絶している間に、少女は船で連行されてしまった。少女が残した手袋の中には、指輪が残されていた。その指輪の紋章に、ルパンは見覚えがあった。

 ルパンは次元を連れて、ある古城へ赴いた。そこは、かつて大公殿下の館だった場所だが、現在は廃墟となっている。城を管理している園丁は、7年前の火事で大公夫妻が亡くなって以来、荒れ放題になっていることを話した。
 大公を失った国は、摂政のカリオストロ伯爵によって統治されている。伯爵は大公の娘であるクラリスと結婚することで、大公の地位を得ようと企んでいた。そのクラリスこそ、ルパンが助けた少女である。

 ルパンは次元と共に、伯爵の城を眺めた。水道橋の向こうには、クラリスを連れ去った船があった。その奥に水門があることをルパンは知っていた。10年前、彼はゴート札の謎を解こうとして城に潜入したことがあったのだ。
 一方、城に帰還した伯爵は、執事のジョドーから、クラリスの逃亡を手助けした2人組の男のことを聞かされた。伯爵は、その2人を見つけ出すよう命じた。ベッドで眠っているクラリスの元へ向かった伯爵は、指輪が消えていることに気付いた。

 食堂で指輪を調べたルパンは、そこに死滅したゴート文字で「光と影、再び一つとなりて蘇らん」と書かれているのを発見した。指輪は400年前の物だった。ルパンはジョドーが監視していることに気付いていた。
 深夜、ルパンと次元の宿泊先を、ジョドーが率いる特殊部隊「カゲ」の暗殺集団が襲撃した。ルパンと次元は閃光弾を使って敵の目をくらまし、車に乗って逃走した。

 召使いとして伯爵の城に潜入していた峰不二子は、伯爵が印刷主任にゴート札を作らせている隠し部屋を覗いた。そこへジョドーが戻り、ルパンと次元を取り逃がしたことを報告した。伯爵は、ジョドーの背中にルパンの予告状を発見した。そこには「花嫁はいただきます」と書かれていた。
 ルパンは五右ヱ門を呼び寄せ、城を監視した。すると、インターポールの銭形警部が警官隊を連れて城に現れた。ルパンの予告状が届いたという通報があったからだ。その通報は、実はルパンによるものだった。

 伯爵は衛士隊の隊長のグスタフを呼び、銭形に協力するよう命じた。城は厳重な警備システムによって守られており、グスタフは銭形に「死にたくなければウロチョロするな」と告げた。
 夜、ルパンと次元はローマ水道を使って潜入しようとするが、別々になってしまった。パリからの電話で引き上げ命令を受けた銭形は、怒って伯爵の元へ向かう。ルパンは銭形に変装し、後を追った。

 グスタフは銭形の前に立ちはだかり、高慢な態度で追い払った。その直後、銭形に変装したルパンが現れ、「今ここに俺が来なかったか。そいつがルパンだ」と喚いた。
 ルパンに挑発されたグスタフは、衛士隊を率いて銭形を捕まえようとする。警官隊と衛士隊が争っている間に、ルパンは城の奥へと進む。乱闘から抜け出した銭形はルパンを捕まえようとするが、落とし穴に転落してしまった。

 ルパンは金庫を調べていた不二子に接触し、クラリスが北側の塔の頂上にいることを聞いた。塔に辿り着いたルパンは、クラリスに指輪を渡した。ルパンがクラリスを連れ出そうとしているところへ、伯爵がカゲを率いて現れた。
 伯爵はルパンを落とし穴に落下させ、クラリスに近付いて「2つの指輪が1つになる時こそ、秘められた先祖の財宝が手に入る」と告げる。その言葉を、ルパンはクラリスに持たせた指輪に仕込んだ盗聴器で聞いていた。その指輪は偽物だったのだ。

 ルパンは指輪に仕掛けたスピーカーで、伯爵に「本物は俺が持ってる。その子に指一本でも触れたら、こうだ」と言い、指輪を爆破させた。400年間の骸骨が転がる地下水道に下りたルパンは、銭形と遭遇した。
 翌朝、2人は襲撃してきたカゲを待ち受け、逃げた一人を追って脱出した。棺桶から外に出ると、その先には偽札工場があった。ルパンと銭形は、城を出るまで休戦協定を結ぶことにした。

 不二子がクラリスの元へ別れを告げに来た直後、落とし穴から煙が立ち昇った。ルパンと銭形が偽札工場に火を放ったのだ。ルパンたちは騒ぎに乗じてオートジャイロを奪い、クラリスを助け出そうとする。だが、ルパンはジョドーに撃たれて重傷を負った。
 伯爵はクラリスに「指輪を持ってこっちに来い。我が花嫁となればルパンは助けてやる」と告げた。クラリスが指輪を持って来るのを待って、伯爵はルパンを始末するつもりだった。しかし銭形がルパンを連れて城から逃亡した。

 ルパンは園丁の手当てを受けて匿われ、意識を取り戻した時には3日が経過していた。翌日がクラリスと伯爵の結婚式だと気付き、ルパンは大量の食料を腹に詰め込んで栄養を補給した。
 ルパンは次元たちに、かつて伯爵の城に潜入しようとして怪我を負った際、幼かったクラリスが水を飲ませてくれたことを語った。不二子がバイクでやって来て、結婚式にバチカンの大司教が来ることを報じる新聞記事を投げ込んだ。それを見たルパンは作戦を思い付き、結婚式に乗り込んだ…。

 監督は宮崎駿、原作はモンキー・パンチ、脚本は宮崎駿&山崎晴哉、製作は藤岡豊、プロデューサーは片山哲生、作画監督は大塚康生、美術は小林七郎、撮影は高橋宏固、録音は加藤敏、編集は鶴渕允寿、色彩設計は近藤浩子、音楽は大野雄二、選曲は鈴木清司、主題歌「炎のたからもの」はボビー。

 声の出演は山田康雄、増山江威子、小林清志、井上真樹夫、納谷悟朗、島本須美、石田太郎、宮内幸平、永井一郎、常泉忠通、梓欽造、平林尚三、寺島幹夫、野島昭生、緑川稔、阪脩、鎌田順吉、加藤正之、峰恵研、松岡重治、山岡葉子ら。

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 モンキー・パンチの漫画を基にしたTVアニメ『ルパン三世』の劇場版第2作。宮崎駿が初めて監督を務めた映画である。宮崎はTV版の第1シリーズ後半で演出を担当しており、そのためにルパンのジャケットは第2シリーズの赤色ではなく第1シリーズの緑色になっている。
 ルパン役の山田康雄、不二子役の増山江威子、次元役の小林清志、五右ヱ門役の井上真樹夫、銭形役の納谷悟朗といった声優陣はTV版と同じ。他に、クラリスの声を島本須美、伯爵を石田太郎、園丁を宮内幸平、ジョドーを永井一郎が担当している。

 先に引っ掛かる点を幾つか挙げておく。
 冒頭、ルパンは盗んだ札束を見て「ゴート札だ」と漏らしているが、どこを見てゴート札だと気付いたのかは全く分からない。ゴート札の特徴を、ルパンが指摘するようなことも無い。
 で、彼は「次の仕事は決まったぜ」と言ってカリオストロ公国へ向かうのだが、入国した目的が何だったのだろうか。結局、それは最後まで分からないままだ。

 銭形警部が埼玉県警の警官隊を引き連れて城に来た時、伯爵はグスタフに協力を命じ、後になってからインターポールの知り合いに連絡を取って引き上げを指示させているが、なぜ「インターポールを呼んだ覚えは無い」「ルパンの予告状など届いていない」と言わなかったんだろうか。そっちの方が、後になってインターポールに引き上げ命令を出させるよりも良かったんじゃないのか。

 クラリスを助けようとしたルパンが、撃たれて重傷を負うという展開は、いただけないと感じる。そこは、別の形でクラリスの救出失敗を描いてほしかった。撃たれて深手を負って敗走するってのは、なんか粋じゃないんだよなあ。
 大体、そんなに重傷を負っていたはずなのに、3日後に意識を取り戻すと、もう怪我の影響なんてゼロで元気に暴れ回るんだし。そこは粋にやってほしかったなあ。

 ところで、アニメのルパン三世と言われて、まず最初に本作品を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。それぐらい、有名な映画である。
 公開された当時の成績は芳しいものではなかったが、映画評論家やアニメ関係者からの評価は高かった。そして、後になってから、一般の観客による評判も高まっていった。
 ただし、これを見て「アニメのルパン三世はこういう作品なんだ」と思う人がいたとしたら、それは残念な誤解である。あくまでも、これは宮崎駿監督が作り出した番外編として評価すべき作品である。

 ハッキリ言って、これは原作ともTVの第2シリーズとも、まるでテイストが違っている。宮崎監督はTVの第1シリーズに途中から携わっていたが、その第1シリーズ後半のテイストとも異なっている。
 何が違うって、ルパン三世が泥棒として活躍していないってことだ。この映画におけるルパンは、「西洋の城から美しいお姫様を救い出す正義のヒーロー」なのである。
 ザックリと言うならば、この映画のルパンは『未来少年コナン』のコナンや『天空の城ラピュタ』のパズーと同じ路線で、それの大人版といった感じだ。

 カリオストロ公国に入国したルパンは、クラリスが逃げるのを見ると、すぐに救出へと向かう。今回のルパンは、完全に正義の味方なのだ。「そこにお宝があるから」ということで行動を起こしたわけではない。
 カリオストロ公国に入ると、すぐにルパンの目的は「クラリスの救出」に変更される。それは「お宝を頂戴するけど、それと同時に彼女も助ける」ということではない。そこに財宝があるかどうかは無関係に、クラリスを救出しようとするのである。

 次元から「どっちに就く?」と言われたルパンが、嬉々とした表情で「女」と口にするのも、TVシリーズの彼からすると考えられない。
 TVシリーズのルパンが狙う女というのは、不二子に代表されるように、色気のある大人の女性ばかりだ。しかし今回は、クラリスのことを「俺の花嫁は?」と言うなど、まだ小娘の彼女に対して、明らかに女としての興味を示している。

 北側の塔に辿り着いたルパンがクラリスに「私の獲物は悪い魔法使いが塔のてっぺんにしまいこんだ宝物。どうか、この泥棒めに盗まれてやってください」と言うが、そのような紳士的な振る舞いも、TVシリーズのルパンからすると、らしくない。下品さやエッチな性格が全く出ていないからだ。
 また、TVシリーズではセクシー担当の不二子も、この映画では全く色気を振り撒いていない。

 そんなわけで、スケベ心もダーティーさも感じさせない本作品のルパンは、「ルパンであってルパンじゃない」という感じだが、だからと言って出来が悪い映画ということではない。
 むしろ、TVシリーズとは完全に切り離して、「児童向けアニメを多く担当してきた宮崎駿が監督を務めた作品」「ヒーローがお姫様を救うために活躍する冒険活劇」として考えれば、とても良く出来た映画だ。

 この映画の魅力は、何といっても数々のアクション・シークエンスにある。序盤、ルパンたちはクラリスを助けるために車を走らせる。車が跳ね上がり、壁を走り、森を突っ切る。壁を下りて一味を退治し、気絶しているクラリスを間一髪で助ける。
 ローマ水道から城に侵入したルパンは水と共に落ちそうになり、必死に泳いで上がろうとするが落下し、時計の機関部にある歯車に巻き込まれる。

 屋根に上がったルパンは、クラリスがいる塔までワイヤーをロケットで発射しようとするが、そのロケットが転がり落ちてしまい、拾おうとして追い掛けている間に加速が付き、その勢いで屋根をジャンプして塔にしがみ付く。終盤には、歯車を利用してのアクションが待っている。
 冒険活劇として素晴らしい出来映えだが、それは宮崎監督の力だけではない。映画を評価する時、大抵は宮崎監督だけが称賛されるが、実は作画監督を務めた大塚康生の貢献も大きいと思う。

(観賞日:2010年10月16日)

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