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『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』:1977、日本

 東京。失恋してヤケになった花田欽也は、勤めていた工場を辞めて真っ赤なファミリアを購入した。彼は仲間たちと会い、一緒に北海道へ行こうと誘う。だが、失恋をバカにされたことから喧嘩になり、一人でフェリーに乗って釧路に辿り着いた。
 一方、島勇作は刑期を終え、網走刑務所を後にした。欽也は駅前で女をナンパするが、相手にされなかった。勇作は食堂に入ってビールを注文し、一気に飲み干した。彼は醤油ラーメンとカツ丼も注文した。

 欽也は観光案内所の前で、東京から来たという小川朱実に声を掛けた。朱実が「網走刑務所へ行く」と言うと、彼は「俺も一緒だ。俺の車で行かない?」と誘う。朱実は困った様子で食堂に入ると、欽也も付いて行く。結局、朱実は欽也の車に同乗した。
 欽也が「あんまり喋んないな、内気なわけ?」と訊くと、朱実は「良く言われる」と答える。列車の売り子をしている彼女は、行く手を客が遮っていても退けてほしいと言えないほどだった。彼女は恋人の浮気を同僚に知らされ、勤務中なのに泣き出した。

 朱実と欽也は、小清水原生花園に立ち寄った。勇作は郵便局でハガキを購入し、局員に「速達で出すと夕張には、いつ着きますか」と質問した。ハガキを投函した彼が砂浜で佇んでいると、朱実と欽也がやって来た。欽也に頼まれ、勇作はカメラのシャッターを押した。
 欽也は勇作を車に乗せ、駅まで送ることにした。行き先を尋ねられ、勇作は決めていないことを話す。朱実たちが阿寒湖温泉へ向かうことを聞くと、彼は「温泉か、いいなあ」と漏らした。欽也は「行きますか、だったら。いいですよ、乗ってって」と誘った。

 旅館に到着すると、欽也は朱実と2人で1つの部屋を取った。隣の部屋に入った勇作は、温泉に浸かったり布団に入ったりしながら妻のことを妄想した。うなされて夜中に目を覚ますと、隣の話し声が聞こえてきた。
 欽也は朱実にしつこく迫り、キスだけは許してもらえた。欽也が強引に肉体関係を求めると、朱実は大声で泣き出した。そこに勇作が現れ、「いいかげんにしろ」と怒鳴り付けた。

 翌日、欽也が勇作を陸別駅まで送ると、朱実も車を降りた。欽也の車が去った後、列車が来るまで2時間もあることを知った朱実は、「やっぱり車に乗ってけば良かったかなあ」と漏らす。そこへ欽也が戻り、「みんなで食べようと思って」と購入したカニを見せた。
 3人は仕出しの店に入り、カニを頬張った。勇作は2人を残し、散歩に出た。その間に欽也は、朱実に「どうせ帯広まで出るんだろ。一緒に行こうよ」と持ち掛ける。勇作をどうするのか朱実が尋ねると、欽也は「あいつは関係ないじゃないか」と渋い顔になった。

 勇作が散歩していると、朱実を乗せた欽也の車がやって来た。欽也は挨拶して出発しようとするが、朱実が「乗ってかない?」と誘い、勇作も同乗することになった。
 欽也はカニにあたって腹を壊し、何度もトイレ休憩を取った。その間に朱実は、勇作に仕事や結婚のことを尋ねた。勇作は、炭鉱夫で独身だと答えた。朱実が「どうして結婚しないの?」と執拗に尋ねると、勇作は苛立ったように「結婚したが、別れたんだ」と返答した。

 向こうから大型の車が来たので、朱実はファミリアを移動させようとするが、誤って道から転落した。道に戻そうとするが、今度はアクセルを踏み込んでしまい、ファミリアは畑に突っ込んだ。
 勇作は近くに住む農夫に事情を説明した。農夫は、翌朝に知人がトラクターで車を引っ張の上げる段取りを付けてくれた。それまでの間、勇作たちは農夫の家で宿泊させてもらうことになった。

 勇作は欽也に朱実との関係を尋ね、「本気で惚れとるんやったら、もうちょっとマシな口説き方あるやろ」と諌める。欽也が軽い口調で「一種のプレーですよ」と言うと、勇作は険しい顔付きで「バカタレが」と怒った。彼は「おなごは弱いモンなんじゃ。男が守ってやらんといけん。大事にしてやらないけん」と説いた。
 次の朝、車で出発すると、勇作は「帯広で降ろしてくれ。夕張まで列車で行く」と言う。駐車場でヤクザが欽也に因縁を付け、殴り掛かった。勇作はヤクザを殴り倒し、ファミリアのハンドルを握って出発した。

 警察の検問に引っ掛かって免許の提示を求められた勇作は、免許を持っていないことを警官に告げる。彼は刑務所に殺人罪で入っていたことを話した。勇作は新得警察署に連行されるが、かつて彼の事件を担当した渡辺係長がいたことから、すぐに釈放された。
 警察署の前では朱実と欽也が待っていたが、勇作は「ここから汽車で行く。世話になったな」と告げて歩き出す。朱実の様子を見た欽也は、「俺、乗っけてやってもいいぞ」と言う。朱実は嬉しそうに勇作を追い掛け、車に乗ってもらった。

 走り出した車の中で、勇作は自分の過去を語り始めた。彼が刑務所に入ったのは、一度ではなかった。まだ若い頃に、つまらないケンカで入っていたことがあった。だが、彼は箔が付くという程度の感覚で、肩で風を切って暮らしていた。
 しかし30歳を過ぎて分別が付くと、自分の生活が嫌になった。このままじゃいかんと思った彼は、人生をやり直すつもりで九州を飛び出し、北海道へ渡った。

 だが、北海道で炭鉱夫として働き始めたものの、仕事は辛く、何も面白いことが無い日々が続いた。そんな中、勇作はスーパーでレジ係をしている光枝に惚れた。半年が経過して、ようやく彼は言葉を交わすことが出来た。やがて2人は結婚し、翌年には光枝が妊娠した。だが、力仕事をしたせいで、光枝は流産してしまう。
 病院に駆け付けた勇作は、5年前にも彼女が流産していると知った。勇作は隠し事をしていた光枝に怒鳴り散らし、家を飛び出した。夜の繁華街でチンピラとケンカになった勇作は、相手を殺してしまった…。

 監督は山田洋次、原作はピート・ハミル、脚本は山田洋次&朝間義隆、製作は名島徹、撮影は高羽哲夫、美術は出川光男、録音は中村寛、照明は青木好文、編集は石井巌、音楽は佐藤勝。

 出演は高倉健、倍賞千恵子、桃井かおり、武田鉄矢、渥美清、太宰久雄、赤塚真人、岡本茉莉、梅津栄、三崎千恵子、笠井一彦、里木佐甫良、小野泰次郎、河原裕昌(現・河原さぶ)、たこ八郎、山本幸栄、川井みどり、長谷川英敏、谷よしの、羽生昭彦、統一劇場ら。

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 1971年にニューヨーク・ポスト紙に掲載されたピート・ハミルのコラム『Going Home』を原作とした映画。ただし、コラムで書かれたのと同じ伝承をモチーフにした『幸せの黄色いリボン』というドーンのヒット曲があり、そちらから着想を得たのではないかという気もする。
 山田洋次監督はシナリオを作る際、映画『シェーン』を参考にしたらしい。勇作を高倉健、光枝を倍賞千恵子、朱実を桃井かおり、欽也を武田鉄矢、渡辺係長を渥美清が演じている。

 朱実は内気でオドオドした話し方だったのに、小便を済ませた後のシーンでは、堂々とした態度で饒舌に喋るようになっている。シーンが切り替わる間に酒でも飲んだのかと思うぐらい、ガラリと態度が変わっている。
 これが「欽也を警戒していたが、楽しそうな人だと感じて警戒を解いた」という変化なら、まだ理解できる。だけど、回想シーンでも客に対して囁くような声しか出せていなかったぐらい内気で気の弱いキャラだったはずの彼女が、饒舌に話したり、砂浜で元気に浮かれたりするのは、かなり違和感を覚える。

 欽也が砂浜で出会った勇作を車に乗せ、「温泉か、いいなあ」と漏らした彼に「行きますか?」と誘いを掛けるのは、キャラの動かし方として不可解。だって、欽也はナンパ目的で北海道を訪れて、その目的である朱実を車に乗せることに成功したばかりなんでしょ。だったら、他の男を温泉に同行させるのは、邪魔でしょうに。
 そこは「朱実が勇作を温泉旅行に誘い、欽也は本音では嫌なんだけど朱実の前でカッコ付けたいからOKする」という形の方がいいんじゃないか。

 カニを食べた後、朱実が勇作をどうするのか尋ねると欽也は「あいつは関係ないじゃないか」と言い、同情させることを露骨に嫌がるが、だったら最初に自分から温泉へ誘ったのは何だったのかということになる。旅館で叱られたのが嫌で、態度を変えたのか。そんなことで納得は出来ない。
 ここで欽也が勇作を乗せることを嫌がるので、同じパターンを避けるため、1度目は喜んで誘う形にしたのか。それも解せないしなあ。だったら食堂の場面はバッサリと削ぎ落せばいいだけの話だし。

 勇作がヤクザを殴り倒した後、ファミリアのハンドルを握って出発するのは、展開として無理があるなあ。欽也が運転できないほどのダメージを受けたようにも見えなかったし。もし受けたのなら、「勇作が出発を促すが、欽也は頭がフラフラしていて運転できそうにない。朱実の運転も信頼できないので、仕方なく勇作がハンドルを握る」という手順を踏むべきだろう。
 っていうか、出発する際は運転するにしても、しばらくしたら交代しなさいよ。無免許なのに運転を続けるってのは、アホとしか思えない。あと、警察に免許の提示を要求された際、刑務所に入っていたことを言うのは分かるけど、訊かれてもいないのに罪名や刑期まで言うのは不自然。

 後半に入り、勇作が過去を語り出すと、しばらく回想シーンが続く。前半も何度か短い回想(妄想なのかな)が入るが、それは無くても良かったかな。で、その長い回想シーンでは、不器用な男女の関係が描かれる。
 勇作は「俺は不器用な男だから、思ってることが上手く伝えられなくて、すがるような気持だった」と語っているが、光枝も決して器用ではなく、不器用に生きてきた女に思える。

 勇作はスーパーで、光枝に「アンタは奥さんですか?」と尋ねる。「結婚してますか」でも「独身ですか」でもなく、「アンタは奥さんですか?」という言葉のチョイスが、不器用さを示していて良い感じ。そして「いいえ」という答えを聞いた後の嬉しそうな様子が、とても微笑ましい。
 ただし、先に光枝から「今日は休み?」と話し掛けているのは、ちょっと気になるけどね。それだと、まるで彼女の方も気があったように見える。そこは勇作サイドから話し掛けるべきだろう。

 勇作は雪道を光枝と歩いている途中、いきなりキスしようとする。光枝は顔を強張らせて拒絶し、その場を走り去る。翌日、勇作は出勤する光枝を待ち伏せ、乗り込んだバスを走って追い掛ける。
 嵐の夜、風の吹き込む部屋に勇作が一人でいると、光枝が現れ、「私、一度、結婚したことがあるのよ」と打ち明ける。そして座って向こうを向いたまま、「アンタ、それでもいいの?」と問い掛ける。ここ、彼女が背中を向けたまま問い掛けるというのが、いい感じだ。

 勇作が刑務所に入る経緯は、正直、ただのボンクラにしか見えない。自分から喧嘩を吹っ掛け、殴って立ち去ろうとしたチンピラの後を追い掛けて捕まえ、頭を縁石にガシガシと打ち付けて殺すんだから、情状酌量の余地が皆無だ。「誤って殺してしまった」というレベルではないからね。
 っていうか、そこでチンピラの頭を打ち付けて殺したのに、帯広の駐車場でヤクザに対して同じことをやっているのは、どういう神経なのか。まるで反省していないのか。

 原案となった話には登場しない若者たちが、勇作と「旅は道連れ」になるという構成になっている。勇作が重厚で寡黙、いかにも昔気質の性格というキャラなので、現代的でドライな付き合いをする軽薄な若者たちである朱実と欽也を用意したのは正解。対比になるし、軽薄で身勝手だった欽也が、勇作が自ら光枝に離婚を申し入れたことを聞いて涙ぐむ様子を見て、こっちの涙腺が緩む。
 もちろんクライマックスは感動的だが、夫婦の再会を喜ぶ朱実と欽也がいることで、その感動が増すのだ。

 身勝手と言えば、実は勇作も相当に身勝手な男である。自分で「強引に結婚した」と認める形で光枝と一緒になっておきながら、刑務所に入ると問答無用で離婚を要求する。そのくせ、出所すると「まだ1人暮らしで待っててくれるなら、黄色いハンカチをぶら下げておいてくれ」と未練がましいハガキを出す。
 そんな男を6年3ヶ月も待ち続ける女なんて、現実にはいないかもしれない。ただ、これは身勝手な男のファンタジーなんだよね。

 何十枚もの黄色いハンカチがたなびいているクライマックスに向けて、回想シーンで前フリが用意されている。病院で妊娠しているか検査することにした光枝は、早く結果を知りたがる勇作に、「妊娠が本当だったら、竿の先に黄色いハンカチを上げておく」と言う。そして勇作が帰宅すると、竿のてっぺんに黄色いハンカチが結び付けられている。
 そこで「通常なら、そんな形になりますよ」というのを見せておくから、一枚ではなく何十枚もの黄色いハンカチがたなびいている様子が、感動的なシーンになるのだ。

 幾つか不満な点も挙げたけど、やっぱりクライマックスは感動する。何度も見ている映画で、展開も分かっているんだけど、またラストでは泣いてしまった。
 ちなみにクライマックスってのは、「朱実と欽也がハンカチを発見し、車内で不安げになっている勇作に呼び掛け、外に出た勇作がハンカチを目撃し、光枝と再会を果たす」というシーンのことだからね。朱実と欽也がブチューとキスをするシーンのことじゃないからね。むしろ、それは邪魔だから。どうしてラストで、そんなキスシーンを用意しちゃったのかなあ。

(観賞日:2011年4月16日)

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