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『ジョジョ・ラビット』:2019、アメリカ

 第二次世界大戦中のドイツ。10歳のジョジョはヒトラーユーゲントに入隊し、特別週末キャンプに参加することになった。不安を覚えた彼は、イマジナリー・フレンドのアドルフ・ヒトラーに相談した。ジョジョはアドルフに「お前は軟弱で人気も無いが、ナチスへの忠誠心はピカイチだ」と励まされ、元気に外へ飛び出した。
 親友のヨーキーと合流した彼は、キャンプ場へ赴いた。大勢の子供たちが軍服姿で集合すると、キャプテンKの異名を持つクレンツェンドルフ大尉が挨拶した。彼は戦争で右目の視力を失ったが、射撃の腕は抜群だった。彼は側近のフィンケルと、授業を受け持つミス・ラームを紹介した。

 子供たちは体力トレーニングや戦闘訓練の他、ラームからはユダヤ人に関する講義も受けた。その夜、ジョジョはテントとヨーキーと話し、「ユダヤ人を見つけたら殺す」とナイフで突き刺す真似をした。
 翌朝、教官から「敵に止めを刺す勇気がある奴は?」と質問された時、ジョジョは1人だけ挙手が遅れてしまった。すると教官は彼にウサギを渡し、殺害するよう命じた。ジョジョは怖くて殺せず、逃がそうとする。教官はウサギを捕まえて殺害し、遠くへ投げ捨てた。

 「臆病者め。父親と同じだ」と教官に嘲笑されたジョジョは、「父はイタリアで戦っています」と反論する。教官は「2年も音信不通だ。逃げたんだ」と言い、ジョジョを「ジョジョ・ラビット」と扱き下ろした。他の子供たちにも馬鹿にされて、ジョジョは逃げ出した。
 彼はアドルフに「ウサギは臆病じゃない。君はウサギのままでいい」と励まされ、元気に走り出した。彼は投擲訓練を指導するキャプテンKから手榴弾を奪い取り、思い切り投げる。しかし木にぶつかって跳ね返り、ジョジョの近くで爆発した。

 病院で治療を受けたジョジョは退院し、傷跡が残った顔を鏡で確認した。彼は「ユーゲントに入れない」と嘆くが、母のロージーは「貴方が生きているだけで充分」と口にした。ジョジョは外に出ることを渋るが、ロージーは勇気を持つよう諭して連れ出した。
 彼女は事務所へ赴いてキャプテンKを批判し、息子に責任ある任務を与えるよう要求した。キャプテンKは監督不行き届きとして、事務職に降格していた。彼はジョジョに、ビラ配りや召集令状の配達を任せることにした。

 壁にポスターを貼っていたジョジョは、広場で絞首刑にされたナチス反対派の面々の姿を目撃した。彼が目を逸らそうとすると、ロージーは「ちゃんと見なさい」と指示した。仕事を終えたジョジョが帰宅すると、母は不在だった。
 物音がしたので、彼は亡くなった姉のインゲが使っていた部屋に入った。ジョジョは屋根裏へ続く隠し扉を発見し、奥へ進んだ。すると屋根裏にはユダヤ人少女のエルサが潜んでおり、ジョジョは悲鳴を上げて逃げ出した。

 エルサが追い掛けて来ると、ジョジョはナイフで脅そうとする。しかしエルサはナイフを奪い取っており、ジョジョに突き付けた。彼女はジョジョに、「お母さんに招待された。私は客よ」と告げる。
 ジョジョが電話に目をやると、「通報したら、アンタもお母さんも協力者と言うわ。みんな死刑よ。私に会ったことをお母さんに告げ口したら、頭を切り落とす」と脅迫した。ジョジョはアドルフと相談し、家から出て行くようエルサに要求する。しかしエルサは拒否し、屋根裏に戻った。

 夜になってロージーが帰宅すると、ジョジョは「屋根裏で物音がした。インゲのお化けだ」と言う。ロージーは「ネズミよ。駆除するまで入っちゃダメ」と釘を刺し、ジョジョを寝室で寝かし付ける。
 彼女は屋根裏へ行き、エルサに「息子か物音を聞いたと言ってる。息子はナチ教徒だから知られたら終わりよ」と警告した。ジョジョはキャプテンKに「もしもユダヤ人を見つけたら?」と尋ね、「俺らに言え。親衛隊が協力者も含めて殺しに行く」と告げられた。

 ジョジョはエルサに「条件を飲めば住んでもいい」と提案し、ユダヤ人について詳しい情報を教えるよう要求した。エルサは「ユダヤ人はチーズ、パン、肉、ビスケットを食べたらアレルギーで死ぬ」と嘘を教えるが、ジョジョは信じてメモした。
 夜、「イタリアが降伏した。もうすぐ戦争が終わる」とロージーが喜ぶと、ジョジョは「なぜそれが嬉しい?」と腹を立てて「ドイツが嫌い?」と訊く。「嫌いなのは意味の無い戦争よ」とロージーが答えると、彼は「我々の勝利で戦争は終わる」と口にした。

 ジョジョが「パパに会いたい」と言い出すと、ロージーは夫の真似をした。ロージーが外出するとジョジョはエルサの元へ行き、紙と鉛筆を渡してユダヤ人の住処を書くよう要求した。「なぜ私とつるんでるの?友達は?」と問われた彼は、「いるさ。ヨーキーだ。君には誰もいない」と反発する。
 エルサはネイサンという婚約者がいることを話し、「そいつはどこに?」と質問されると「反ナチ運動してる」と答えた。彼女はロケットの写真を見せ、「いつか2人でパリに住むの」と語った。

 ジョジョはエルサからネイサンはリルケを好きだと聞き、図書館へ赴いた。彼はリルケの詩集を見つけ、ネイサンを装って手紙を書いた。彼はエルサの元へ行き、「ネイサンの手紙を見つけた」と嘘をついて自作の手紙を読む。それは別れを告げる内容で、エルサは無言のまま屋根裏に引っ込んでしまった。
 罪悪感を抱いたジョジョは新たな手紙を書き、「やはり別れないことにした。生きていてくれ」という文面を読んだ。エルサが「また手紙が来たら知らせて」と頼むと、ジョジョは快諾した。

 翌日、ジョジョが「手紙は来ていなかった」と言うと、エルサはユダヤ人について話すと持ち掛けた。彼女は「昔、ユダヤ人は洞窟で生活していた。魔術を会得して、街に移り住んだ。動物に姿を変えた仲間もいる」と言い、嘘の姿をノートに描いた。
 ジョジョはアドルフから、「彼女がお前を誘導しようとしたら、反対方向に進め」と忠告された。ロージーはエルサに、「貴方はインゲに似てる。大人になるのを見たかった。代わりに貴方を見守るわ」と語った。

 翌朝、ジョジョは事務所へ行き、キャプテンKに「ユダヤ人を通報すればメダルが貰える?」と尋ねる。キャプテンKは「またユダヤ人の話か。敵が迫ってるんだぞ」と言い、アメリカとソ連からの防衛計画について説明した。ジョジョがエルサから教わった偽情報を話すと、彼は「想像力が豊かだな」と述べた。
 ジョジョはキャプテンKに指示され、ロボットの扮装で街に出て金属を回収する。その途中、彼はロージーがベンチにビラを置く様子を見た。ロージーが去ってからビラを確認すると、「ドイツを解放せよ」と書いてあった。

 ジョジョはヨーキーと遭遇し、「ユダヤ人を捕まえた」と得意げに語る。するとヨーキーは「僕も先月、捕まった奴らを見た。だけど期待外れだった。怖くないんだ。僕らと同じだった」と告げた。帰宅したジョジョがエルサと一緒にいると、ドアがノックされた。
 ジョジョがエルサを屋根裏へ避難させてドアを開けると、ゲシュタポのディエルツ大尉が4人の部下を従えて立っていた。ディエルツたちが家宅捜索を始めていると、キャプテンKがフィンケルと共に訪ねて来た。

 2階で物音がしたので、ディエルツたちは調べに行く。するとエルサは堂々と姿を見せ、インゲとして振る舞った。彼女はインゲの身分証をディエルツに渡し、質問に答えた。ディエルツたちが去った後、エルサはジョジョに「戻って来るわ。バレたら殺される」と不安そうな様子で言う。
 ジョジョは「姉さんの死は誰も知らない。姉さんになれるよ。母さんに話す」と語るが、アドルフから「ナチスへの忠誠心はどこへ行った?」と苦言を呈された。街へビラ貼りに出たジョジョは、絞首刑に処されたロージーの遺体を発見した…。

 監督はタイカ・ワイティティー、原作はクリスティン・ルーネンズ、脚本はタイカ・ワイティティー、製作はカーシュー・ニール&タイカ・ワイティティー&チェルシー・ウィンスタンリー、製作総指揮はケヴァン・ヴァン・トンプソン、製作協力はT・K・ノウルズ&ジョン・オグラディー、撮影はミハイ・マライメアJr.、美術はラ・ヴィンセント、編集はトム・イーグルス、衣装はメイズ・C・ルベオ、視覚効果監修はジェイソン・チェン、音楽はマイケル・ジアッチーノ。

 出演はローマン・グリフィン・デイヴィス、トーマシン・マッケンジー、スカーレット・ヨハンソン、サム・ロックウェル、タイカ・ワイティティー、レベル・ウィルソン、スティーヴン・マーチャント、アルフィー・アレン、アーチー・イェーツ、ルーク・ブランドン・フィールド、サム・ヘイガース、スタニスラフ・カラス、ジョゼフ・ワイントローブ、ブライアン・カスプ、ガブリエル・アンドリュース、ビリー・レイナー、クリスチャン・ハウリングス、ギルビー・グリフィン・デイヴィス、ハーディー・グリフィン・デイヴィス、カーティス・マシュー、ロバート・イースト他。

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 クリスティン・ルーネンズの小説『Caging Skies』を基にした作品。ただし内容は大幅に改変されている。監督&脚本は『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』『マイティ・ソー バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティー。アカデミー賞で6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞した。
 ジョジョをローマン・グリフィン・デイヴィス、エルサをトーマシン・マッケンジー、ロージーをスカーレット・ヨハンソン、キャプテンKをサム・ロックウェル、アドルフをタイカ・ワイティティー、ラームをレベル・ウィルソン、ディエルツをスティーヴン・マーチャント、フィンケルをアルフィー・アレンが演じている。

 最初に1シーンだけ、気になることに言及しておく。もちろん意図的な演出ではあるのだが、ジョジョがロージーの処刑を知るシーンでは、遺体をハッキリと見せない。吊るされている膝から下の部分だけしか見せず、ロージーの顔をカメラに写し出さないのだ。
 ジョジョが脚にしがみ付いて泣く様子だけでも「ロージーの遺体だな」ったのは伝わるから、決して分かりにくい表現とは言わない。ただ、そんなに効果的だとも思わない。顔を見せずに描くなら、いっそのこと膝から下さえ見せず、遺体を見たジョジョの反応だけで表現してもいいんじゃないかと思ったりするし。

 冒頭、ザ・ビートルズの『I wanna hold your hand』のドイツ語バージョンを流し、ヒトラーに熱狂するドイツ国民のアーカイヴ映像を流す。「ビートルズに熱狂するのも、ヒトラーに熱狂するのも、大枠としては一緒でしょ」と言いたいわけだ。
 もしもビートルズが悪事を働こうと企んでいたら、その策略は熱狂的な信奉者によって実現に至っていたかもしれない。ヒトラーだって、今となってはユダヤ人を大量虐殺した残忍で非道な独裁者とされているが、当時は大勢の信奉者が熱狂していたのだ。

 ナチスやヒトラーを喜劇の題材として扱う作品は、これが初めてというわけではない。幾つかの作品が思い浮かぶが、かなりデリケートに考える必要がある。そうしないと、批判の対象になりやすい題材だからだ。実際、この映画にしても、ヒトラーの描写については一部から批判の声が上がっている。
 しかし個人的には、かなり上手く扱っていると感じる。ナチスについては過剰なほど神経質になる人もいるし、その気持ちも分からんではないけど、この映画は「そういうことじゃないでしょ」と感じる。

 ジョジョは10歳だから、簡単にヒトラーを信奉してナチス思想に染まってしまう。しかし、そんな彼を狂信的な人間だとは感じない。ただ幼いから良く分かっていないだけだと感じる。
 コメディーというジャンルに落とし込まなくても、きっとジョジョに対する嫌悪感や不快感は強くなかっただろう。そこにコメディーというジャンルが乗っかることで、何の問題も無くジョジョを「愛すべき未熟者」として受け入れることが出来る。

 ヒトラーに関する知識が乏しいから、ジョジョがイマジナリー・フレンドとして付き合うアドルフは本物と異なる部分も多い。ちなみに原作にはイマジナリー・フレンドのアドルフ・ヒトラーは登場せず、これはタイカ・ワイティティーが映画用に用意したオリジナル要素だ。
 このキャラクターを含めて、タイカ・ワイティティーは原作には無いコミカルな要素を大幅に増やしている。原作が好きな人からすると不満かもしれないが、この改変は良い方向に転がっていると感じる。

 ジョジョはユダヤ人を下等な人種だと断言し、「僕の先祖はアーリア人だ」とエルサを侮蔑して堂々と言い放つ。人種によってランク付けし、「ドイツ民族は優秀でユダヤ人は愚劣」と信じ込んでいるわけだ。ドイツが世界一であり、戦争に勝利することで世界が救われるのだと、本気で思っているのだ。
 そんなジョジョがエルサと何度も話したり接したりしている内に、少しずつ変化していく。幼いから簡単にヒトラーやナチスを妄信してしまうが、感受性か豊かなので、洗脳が解けるのも早いのだ。

 「ユダヤ人は殲滅すべし」ってことで燃えていたゲシュタポやユーゲントだが、アメリカやソ連、イギリスなど多くの国が攻め込んで来ると、もはやユダヤ人に対する敵意など、どうでも良くなってしまう。それどころではなくなるのだ。
 そして、かつてユダヤ人への差別的な感情から来ていた嘘の情報が、今度はアメリカ人やロシア人に向けられる。ヨーキーはヒトラーの死をジョジョに教え、「ヒトラーは裏で悪いことをやっていた。僕らは色々と間違っていたかも」と言う。戦況の変化によって、ジョジョを取り巻く環境も周囲の人々の考え方も価値観も大きく変化する。

 この映画は、ナチスドイツの狂気やナチスを信奉する人々の愚かしさを描こうとしているわけではない。タイカ・ワイティティー監督はドイツ人でもなければユダヤ人でもなく、「ナチスによるユダヤ人の迫害を決して忘れてはならない」と訴えようとしているわけではない。
 2019年という時代に、第二次世界大戦当時のヒトラー崇拝の問題を改めて掘り下げようとしているわけではない。ナチスを巡る物語を通して、現代の世界が直面している問題に意識を向けさせようとしているのだ。

 本作品についてタイカ・ワイティティー監督は、反ヘイトを風刺した作品だとコメントしている。現代社会では、世界的にヘイトが大きな問題になっている。特に先進国と呼ばれる国では、それが顕著となっている。ヘイトの蔓延は、国の分断に繋がるほどの社会問題と言っていいだろう。
 そんなヘイトがはびこる現代社会を風刺するために、ナチスを題材にしているのだ。そういう意味では、問題提起したかったテーマのために原作を利用していると言えなくもないので、原作ファンが批判するとしたら、まあ仕方がない部分もあるかな。

(観賞日:2022年3月4日)

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