『イヴの総て』:1950、アメリカ
6月、演劇界最高の名誉であるサラ・シドンズ賞の授与式が開かれ、演劇批評家のアディソン・ドゥイットも出席した。彼と同じテーブルには、大物女優のマーゴ・チャニング、劇作家のロイド・リチャーズと妻のカレン、舞台演出家のビル・シンプソン、演劇プロデューサーのマックス・フェビアンが並んでいる。
会長は長い挨拶を終えると、最年少で年間最優秀演技賞を受賞したイヴ・ハリンソンを絶賛した。出席者は拍手でイヴを祝福するが、マーゴとカレンは微動だにしなかった。
前年の10月、カレンはマーゴの芝居が上演されている劇場でイヴから声を掛けられた。イヴは毎晩その劇場に通っており、いつも楽屋口に言っていた。そのため、カレンは彼女の存在が気になっていた。カレンはイヴがマーゴの熱烈なファンだと知って、会わせてあげようと考える。
彼女が楽屋へ行くと、マーゴは付き人のバディーたちに横柄な態度を取っていた。マーゴはカレンから会わせたいファンがいると聞かされ、追い払うようバディーに指示する。しかしカレンから「いつも楽屋口に立っている少女」と聞かされると、彼女も気になっていたため、楽屋へ通すことを承諾した。
イヴは楽屋に入ると、前回の芝居を見て病み付きになったこと、マーゴとロイドの芝居しか見ないことを語る。絶賛されたマーゴも悪い気はせず、イヴの身の上話を聞く。
イヴはウィスコンシンで両親と暮らしいていたこと、家は貧乏だったこと、学校を辞めてビール会社の秘書として働き始めたことを語る。さらに彼女は、町に出来た演劇クラブで知り合ったエディーと結婚したこと、直後に彼が出征して戦死したことを語った。
イヴが故郷へ戻らずサンフランスシコへ留まって前回の芝居を見たことを話すと、マーゴは同情して涙を流した。バディーが皮肉めいた言葉を口にすると、マーゴは叱り付けた。そこへマーゴの恋人であるビルが現れ、これからハリウッドへ行くことを話す。
イヴが去ろうとすると、マーゴは「待ってて。彼を送ってから2人で話しましょう」と告げた。マーゴが席を外すと、イヴはビルに「なぜ演劇界最高の若手演出家がハリウッドに?」と問い掛ける。ビルは「今の演劇界は薄汚い劇場群だ」と吐き捨てるが、ハリウッドで映画を撮るのは1作だけだと告げた。
マーゴはビルを空港で見送った後、イヴを自宅へ連れ帰って住まわせることにした。イヴは今までバディーが担当していた雑用を引き受け、積極的に仕事をこなした。彼女はマーゴの芝居をステージ袖から観劇し、いつも感涙で迎えた。
ある夜、マーゴは交換手からの連絡で、ビルへの電話を申し込んだと言われる。まるで覚えの無かったマーゴはビルと話し、イヴの手引きだと気付いた。さらにマーゴは、イヴがビルに毎週欠かさず手紙を送っていたこと、彼は自分の指示だと思っていることを知った。
翌朝、マーゴはバディーに、「イヴは好き?」と尋ねた。バディーが「よそ見しないわね」と言うと、マーゴは「私にだけ誠実ね」と口にした。バディーは嫌味っぽい口調で、「良く観察してるわ。まるで教科書みたいに、手足の動きまで真似をしてる」と述べた。
ビルの誕生パーティーの日、マーゴは彼が自分の部屋に来ないでイヴと楽しく喋る様子を目撃し、苛立ちを覚えた。マーゴはイヴに用事を指示して立ち去らせ、ビルに嫌味っぽい言葉を浴びせた。
ビルが「イヴが話を聞きたがったんだ」と釈明すると、マーゴは「貴方はいつも彼女を褒めるわ」と不快感を示した。彼女が「私はあの子が鼻に付いてるの。全て私の真似をして」と言うと、ビルは「牙を剥くのもいいが、僕やイヴには噛み付くな」と注意した。
パーティーに出席したカレンたちもイヴを褒めるので、ますますマーゴは苛立った。アディソンは新進女優のカズウェルを伴い、パーティーに参加した。彼はカズウェルをマーゴに紹介し、マックスに自分を売り込むよう指示した。
マーゴはマックスから半月後にカズウェルのオーディションがあることを聞き、手伝う代わりにイヴを使ってほしいと頼んだ。「君が困るだろう?」とマックスが言うと、彼女は「私の所は片付いたわ。用の無い所に置いては宝の持ち腐れよ」と告げる。
「何をさせる?」というマックスの問い掛けに、マーゴは「脚本も直すし、来客も捌いてくれる」と述べた。マックスと入れ違いでロイドが来ると、マーゴは脚本の進捗状況を尋ねた。新作でマーゴは20歳のコーラという女性を演じることになっていたが、年齢を懸念していた。
「年は重要じゃないよ。君はまだ若い」とロイドが言うと、マーゴは「3ヶ月前に40の大台を超えちゃったのよ」と口にする。ロイドが「君の心配はコーラを演じることじゃない。ビルと喧嘩したからだ」と指摘すると、マーゴは「ビルは32歳で年相応だわ」と述べた。
一方、イヴはカレンに「チャニング先生の身の回りの世話は、私がいなくても不自由はありません」と言い、マーゴの代役がお産と聞いて自分にやらせてほしいと持ち掛けた。カレンは承諾し、周囲への説明も引き受けた。悪酔いしたマーゴはイヴやロイドに悪態をつき、憤慨したカレンは厳しく批判した。カレンはショックを受けた様子のイヴを励まし、先程の約束は守ると告げた。
半月後、マーゴがオーディションのある劇場へ行くと、外にいたアディソンが「もう4時だよ。オーディションは終わった」と告げる。誰がカズウェルの相手役を務めたのか尋ねるマーゴに、「君の代役だ。イヴ・ハリントンだ」と告げる。何も聞いていなかったマーゴは驚き、オーディションの出来栄えを訊く。
アディソンは「誰もカズウェルのことは覚えていないと思う。久しぶりに君のような名優が誕生した。イヴ・ハリントンだ」と言い、ロイドも絶賛していたことを話す。劇場に入ったマーゴの質問を受けたロイドは、イヴの演技を称賛した。マーゴは口汚く罵り、ロイドと激しい言い争いになった。マックスはロイドと同調し、マーゴは降板を口にした。
マーゴはビルに、「みんな私を何だと思ってるの?今日だって私が来ると知っていて、なぜイヴに代役をさせたの?貴方が練習させたんでしょう」と怒りをぶつける。ビルは「被害妄想だ」と否定し、「君は大女優なのに、なぜかイヴの何でもない言動にイライラする。いい加減にしてくれ。いつもは喧嘩しても仲直りできたが、僕の我慢にも限界がある」と告げて去った。
帰宅したロイドはカレンの前でマーゴへの怒りを吐露し、イヴのために脚本を書きたいと語る。カレンはマーゴに嫌がらせをしようと考え、イヴに電話を掛けた。
週末はマーゴ、カレン、ビル、ロイドの4人でドライブに出かける予定が入っていたが、ビルは来なかった。マーゴは平静を装って参加し、相変わらずの横柄な態度を取った。途中でガス欠になったため、ロイドはガソリンを買うため車を離れた。
ガス欠になったのはカレンの策略だったが、マーゴが素直に昨日の言動を謝罪して正直な気持ちを語ったので、「申し訳ないことをしたわ」と漏らした。イヴは劇場へ来なかったマーゴの代役で主演を務め、観客の喝采を浴びた。
出番を終えたイヴは楽屋へ戻り、ビルから称賛された。ビルはイヴに誘惑されるが、「僕はマーゴを愛してる」と告げて相手にしなかった。ビルが去った後、その様子を密かに見ていたアディソンが楽屋へ入って来た。激昂していたイヴは、謙遜した芝居に戻る。
アディソンが「そろそろ自分を主張していい頃だ。遠慮する必要は無い」と言うと、イヴは「私に何が出来ます?」と口にする。「私にはできる。君のことを新聞に書いてあげよう」とアディソンが告げると、イヴは食事の誘いを快諾した…。
脚本&監督はジョセフ・L・マンキウィッツ、製作はダリル・F・ザナック、撮影はミルトン・クラスナー、編集はバーバラ・マクリーン、美術はライル・ウィーラー&ジョージ・W・デイヴィス、ベティ・デイヴィス衣装デザインはイーディス・ヘッド、音楽はアルフレッド・ニューマン。
出演はベティー・デイヴィス、アン・バクスター、ジョージ・サンダース、セレステ・ホルム、ゲイリー・メリル、ヒュー・マーロウ、グレゴリー・ラトフ、セルマ・リッター、マリリン・モンロー、バーバラ・ベイツ、ウォルター・ハンプデン、ランディー・スチュアート、クレイグ・ヒル、リーランド・ハリス、バーバラ・ホワイト、エディー・フィッシャー、ウィリアム・プーレン、クロード・ストラウド、ユージーン・ボーデン、ヘレン・モワリー、スティーヴ・ジェレイ他。
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『呪われた城』『三人の妻への手紙』のジョセフ・L・マンキウィッツが脚本&監督を務めた作品。表記は無いが、女優のエリザベート・ベルクナーをモデルにしたメアリー・オアの短編小説『The Wisdom of Eve』が原作。
マーゴをベティー・デイヴィス、イヴをアン・バクスター、アディソンをジョージ・サンダース、カレンをセレステ・ホルム、ビルをゲイリー・メリル、ロイドをヒュー・マーロウ、マックスをグレゴリー・ラトフ、バーディーをセルマ・リッター、カズウェルをマリリン・モンローが演じている。
アカデミー賞では作品賞&監督賞&脚色賞&助演男優賞(ジョージ・サンダース)&衣装デザイン賞&録音賞を受賞した。他にもカンヌ国際映画祭の審査員特別賞&女優賞(ベティー・デイヴィス)やゴールデン・グローブ賞の脚本賞など、数々の映画賞を獲得した。
冒頭シーンでは、演劇賞をイヴが最年少で受賞した授与式の様子が描かれる。アディソンがモノローグを語る中、周囲の称賛を受けるイヴにマーゴとカレンだけは拍手を送らない。ビルやロイドも拍手はするが、心から祝福する様子は皆無だ。どうしてなのか、イヴとの間に何があったのかという謎を提示して、それを解き明かすための回想劇が描かれる構成になっている。
回想に入ると、まずはマーゴの熱烈なファンとしてイヴが登場する。この段階では、まだ純朴な娘に過ぎない。そこから1年も経たない内に、イヴは演劇界に突如として現れたスーパースターとして絶賛されることになるわけだ。
イヴはマーゴと周囲の人々をバカみたいに持ち上げ、美辞麗句で称賛する。やたらと遠慮する態度を見せたり、マーゴとビルの2人の時間を設けるために切符の手配を買って出る気遣いを見せたりする。
マーゴはイヴの不幸な身の上話に同情し、ビルは素直で良い子だと感心する。イヴへの疑念や不信感を抱くのはバディーだけであり、その時点では「皮肉屋の彼女は根性が曲がっているだけ」という風に描写されている。
しかし映画が始まってから30分ほど経過し、イヴが「衣裳部へ返してきます」とマーゴのドレスを持って楽屋を出た直後のシーンで、話の雲行きが怪しくなる。マーゴはバディーから「衣裳部の組合がうるさい。服の運搬には誰も手出しさせない」と教えられ、イヴを呼び戻すため楽屋を出る。
するとイヴは何も気づかず、ドレスを自分の体に当てて姿見を眺めている。マーゴは微笑を浮かべ、彼女に声を掛ける。彼女はイヴの行動を、「自分に憧れる娘の、可愛げのある行動」として受け取ったのだ。
不意に呼び掛けられたイヴは、ハッとした様子で振り返る。顔を引きつらせていたイヴだが、マーゴが微笑で「取りに来させなさい」と言うと、ゆっくりと表情が柔和になっていく。ここでのイヴの表情の変化には、大きな意味がある。彼女はマーゴが解釈したように、憧れの気持ちでドレスを試しに当ててみたというだけではないのだ。
その時点で、実はイヴの中には強烈な野心が渦巻いており、いずれマーゴを踏み台にしてスターになってやろうと考えているのだ。声を掛けられた瞬間、イヴはその野心が露見したと感じ、顔を引きつらせた。そして、そうではないと悟り、偽りの姿に戻るのだ。
その段階では、まだイヴのドス黒い中身に気付くのは観客だけだ(というか、観客でも気付かない人は大勢いるだろう)。しかし、直後のシーンで、ついにマーゴも気付き始める。
イヴがビルへの電話を手配したり、手紙を送ったりしていたことを知り、「ただの純朴な田舎娘ではない」と感じるようになる。イヴが何から何まで自分の真似をしていることを思い出し、それも「自分への憧れから来る行動」だけではないように思い始める。
それだけでなく、マーゴには別の理由での焦りや苛立ちもある。彼女は自分がもう若くないことを意識しており、だから若くて美しいイヴにビルを奪われるのではないかと恐れている。今まで自分が築いてきた物を、全て奪われるのではないかと恐れている。
登場した時は横柄で嫌な女に見えたマーゴだが、実はそうでもないことが分かって来る。イヴの野心が見えて来るのと並行して、むしろ哀れな部分が見えるようになっていく。
しかし、まだマーゴとバディー以外の面々は、イヴを「田舎から出て来た素直で純朴な良い子」と思い込んでいる。ビルはイヴの本性に全く気付かず、苛立つマーゴの前で彼女を擁護する。「夢を負ってるだけの娘を、芸能界の汚い目で判断するのは反対だ。イヴは心から君を崇拝し、僕たちの仲を喜んでくれている」と非難する。
しかし実のところ、マーゴよりも遥かにイヴの心はドス黒く汚れ切っている。そのことに気付いたのは、マーゴとバディーだけだ。
ビルの誕生パーティーの日、いよいよイヴの計画は本格的に動き始める。彼女は「こんなことをお願いしていいか分かりませんけど」と前置きした上で、カレンにマーゴの代役を務めさせてほしいと頼む。代役がお産だとマックスから聞き、絶好のチャンスだと考えたのだ。いきなりマーゴの代役をやりたいと言い出すなんて、かなり大胆な頼みだ。
しかも彼女は、代役で満足する気なんて毛頭無い。「あの役なら知り尽くしているつもりです」という言葉に、それが透けて見える。さらに「でも本番で先生の代役を務めるなんて考えられません」と言うが、それは明らかに「本番で代役を務める気満々」ってことを表している。その証拠に、カレンが「マーゴが休むことは無いわ。這ってでも出る」と告げても、「穴が開いたら」と口にしている。
代役をやりたいなんてマーゴに言ったら、怒りを買って拒絶されるのは分かり切っている。だからイヴはカレンに持ち掛け、周囲への説明まで頼んでいる。その辺りも、なかなか狡猾なやり口だ。しかし、もちろん「控えめで気遣いの出来る素直な女性」を装うことは忘れない。
だからマーゴが現れると急いで立ち上がるし、酔っ払った彼女に罵られても決して腹を立てない。それどころか、「自分はいいんです」という態度を取って周囲の同情を集めようとする。そんな芝居に、まんまとカレンやロイドたちは騙される。
カズウェルのオーディションで代役を務めた時も、絶賛されたイヴは「ただ台本通りに読んだだけです」と謙遜した態度を取る。マーゴが現れると、「遅刻なさったので助かりました。先生の前では震えて読めませんわ」と遠慮がちに言う。ただし、このオーディションでイヴを絶賛したのはロイドとマックスだけであり、ビルは何の感想も述べていない。
アディソンはオーディションの時の様子についてマーゴに問われた時、ビルは黙っていたと証言している。マーゴから色々と言われた時も、ビルはイヴを称賛していない。ひょっとすると、この辺りでビルは何となく気付いていたのかもしれない。
マーゴは劇場でビルを激しく非難するが、「僕は君を愛してる」といった彼の言葉で落ち着きを取り戻す。ビルが結婚を持ち出すと、「無理に結婚しなくてもいいわよ」と口にする。それは自分と彼の年齢差を考えてのことだ。
また、「我慢の限界だ」と言ってビルが立ち去ろうとすると、寂しそうな目で「イヴの所へ行くの?」と問い掛けている。そこでのマーゴには、可愛い女性としての一面が表れている。ずっと「大女優」として突っ張った生き方をしているマーゴだが、ビルへの愛は本物なのだ。
ガス欠のシーンでも、マーゴの素直な一面が描かれる。彼女はカレンに、「貴方たちを怒らせて悪いと思ってるわ。自分でも分からないの。まるで駄々っ子よね」と言う。
「ビルは貴方を愛してるわ」と告げられると、「私だって誰より彼が好きよ。女優としてではなく、愛されたいと思うの。ビルの思うマーゴ・チャニングは、10年経ったらいなくなるわ。残った私はどうなるの?年の差は大きくなっていくわ。女は老けるのよ」と弱気な本音を漏らす。
さらにマーゴは言葉を続け、「イヴに対しても冷たすぎたわ。若くて女らしくて控えめでしょ。ビルの好みなのよ。私が成功するために捨ててきた物よ。女に戻る時に必要だったのに、つい忘れてしまうのよね。どんな仕事をしていても、結婚しなきゃ女じゃないんだわ。夫が一緒じゃなきゃ女じゃないんだわ」と話す。
大スターとして全てを手に入れて来たように見えるマーゴだが、虚しさを抱えているのだ。どれだけ仕事で成功しても、私生活での愛が足りない寂しさを痛感しているのだ。「結婚こそが女性の幸せなのだ」という価値観は、今となっては不快感を覚える人もいるだろうけど、1950年という時代なので、そこは仕方が無い。
マーゴは不安を抱いているが、ビルは彼女を強く愛している。彼がイヴの罠から脱出した一番の要因は、マーゴへの揺るぎない愛だ。イヴは代役として舞台に立った後、楽屋でビルを誘惑する。「舞台の外でも真実を追及したら?」「初めて会った時から待ってたのよ」「私の成功は貴方のお蔭」などと、彼に語る。
その時のイヴには、控えめで純朴な田舎娘としての姿など全く無い。色仕掛けで落とせると確信していたのだろう。しかしビルは「欲しければ追って取るよ。寄って来るのは嫌いだ」と言い放ち、冷たく拒絶する。そこはイヴの計算が初めて大きく狂った瞬間である。
イヴがビルを楽屋へ呼んで誘惑する時、その様子をアディソンは密かに見ている。その上で、アディソンは何も知らないフリをして「君のことを新聞に書いてあげる」とサポートを持ち掛け、食事に誘う。この時、彼は新聞に書くために必要だからという名目で、イヴの死んだ夫の名前や、マーゴの芝居を始めて見た時の劇場について質問する。
ビルを落として利用しようという作戦に失敗したイヴだが、「向こうからカモが寄って来た」と考え、食事の誘いを快諾して質問にも答える。彼女は「この男なら利用できる」と確信し、まだ目論み通りに成り上がる計画は進んでいると思っている。しかし実際のところ、アディソンはイヴが野心に満ちた腹黒い女だと見抜いている。質問をしたのは、そこでイヴの嘘を見抜くためだ。
アディソンの記事は、間接的にマーゴを批判するような内容だった。それを読んで激昂するマーゴだが、ビルが駆け付けると泣き出す。そして優しく抱き締めるビルに「大丈夫だ」と励まされ、彼と結婚することを決める。スターとしての鎧を外すことで、彼女は女としての幸せに向かって確実に歩みを進めて行く。その時点で、まだロイドはイヴに騙されており、彼女に新作のコーラ役を与えたいと考えている。
しかしカレンはイヴが卑劣な女だと気付いたので、それには真っ向から反対する。彼女は全面的に、マーゴの味方になっている。マーゴは自分の弱さをさらけ出し、素直になることで、愛と友情を手に入れた。一方、イヴは周囲の人間を欺き、利用することによって目的を達成していくが、人間として大切な物を失っていく。
イヴはコーラ役を得るため、ついにカレンの前でも本性を表す。自分を代役として舞台に立たせるために車をガス欠にしてマーゴが遅刻するように仕向けたのに、「コーラを演じさせなかったら、そのことをアディソンが新聞に書く」とカレンを脅すのだ。
しかし、マーゴはカレンやビルたちの前で、「もう年だし、結婚もするのでコーラ役は引き受けない」と宣言する。イヴは目的を果たすが、カレンはマーゴを裏切らずに済むのである。
まだイヴの野望は終わらない。ビルを取り込むことに失敗した彼女は、次の標的をロイドに定める。人気の劇作家と結婚すれば、女優としての地位は安泰だと考えたのだ。
そこで彼女はロイドを誘惑し、カレンと離婚して自分と一緒になるという言葉を引き出す。ここまではイヴの思惑通りだったが、そこにアディソンが立ちはだかる。
自分が完璧な勝利者だと思い込んでいるイヴは、ロイドと結婚することをアディソンに話す。するとアディソンは「誰とも結婚させない」と言い、イヴの経歴が全て嘘だったことを指摘する。策略家としては、アディソンの方が遥かに上だったのだ。弱みを握られたイヴは、彼の支配下で踊ることを余儀なくされる。
彼女は強い野心で計画を企て、成功への道を順調に進んでいた。しかし皮肉なことに、強すぎる野心が計画を狂わせてしまった。彼女の容姿や実力があれば、余計な策略で周囲を陥れなくても、きっとスター女優になることは出来ていただろう。皮肉なことに、自分の野心が真の実力を妨害してしまったのだ。
ラストシーン、イヴが授賞式を終えて帰宅すると、忍び込んだ女子高生のフィビーが待ち受けている。彼女がレポートを書くために来たことを話すと、イヴは追い出さずに泊めてやることにする。アディソンがトロフィーを届けに来ると、フィビーは嘘をついて中に入れない。トロフィーを受け取った彼女は、アディソンが来たことをイヴに言わない。
フィビーはイヴの見ていない隙に、彼女のガウンを着てトロフィーを掲げ、受賞した時のような芝居をする。いずれはフィビーがイヴのような存在に、イヴがマーゴのような存在にすることを暗示させて映画は終わる。一言で表現するならば、「因果は巡るよ、どこまでも」という話である。
(観賞日:2017年9月25日)
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