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『AKIRA』:1988、日本

 1988年7月16日、第三次世界大戦が勃発した。それから31年後の2019年、東京湾上に構築された都市“ネオ東京”。金田をリーダーとする職業訓練高校の生徒たちは、毎晩のように改造バイクを乗り回し、不良グループとの抗争を繰り返していた。

 金田の仲間である鉄雄はバイクで暴走中、顔が老化した不気味な少年と接触しそうになる。しかし、少年にバイクが衝突しそうになった瞬間、鉄雄は見えない力で弾き飛ばされ、重傷を負う。駆け付けた金田たちの前に、アーミーを指揮する大佐が姿を現した。

 大佐が部下に命じて金田たちを抑え付け、少年と鉄雄を連れて行ってしまう。少年は軍のラボから反政府ゲリラに連れられて逃亡した実験体26号のタカシだった。ラボで行われた調査で鉄雄の脳波が研究素材に適していることが分かり、薬が投与される。

 ラボを抜け出した鉄雄は金田と会うが、反抗的な態度を示す。急に頭を押さえて苦しみ始めた鉄雄はアーミーによって回収され、再びラボに戻された。ラボのベビー・ルームでは、25号のキヨコが“アキラ”の目覚めを予感させるような内容を大佐に告げる。

 金田は反政府ゲリラのケイと出会っていた。彼女たちは政府の最高機密である“アキラ”を追っていた。金田はケイたちと共に鉄雄を助けに向かうが、特殊な能力を覚醒させた鉄雄は、もはや誰の助けも必要としなかった。しかし、鉄雄は自分の能力をコントロールできず、暴走を始めてしまう…。

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 監督&原作は大友克洋、脚本は大友克洋&橋本以蔵、プロデューサーは鈴木良平&加藤俊三、作画監督はなかむらたかし、作画監督補は森本晃司、撮影監督は三澤勝治、編集は瀬山武司、美術監督は水谷利春、音響監督は明田川進、作曲は山城祥二、音楽は芸能山城組。

 声の出演は岩田光央、佐々木望、小山茉美、石田太郎、玄田哲章、鈴木瑞穂、大竹宏、北村弘一、池水通洋、渕崎由里子、大倉正章、荒川太郎、草尾毅ら。

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 漫画家の大友克洋が自ら脚本と監督を務めたサイバーパンク・ムービー。「映画的である」と評されることも多かった大友克洋の漫画が、実際に映画になったわけだ。
 この作品は日本だけでなく欧米でも高く評価され、日本アニメが世界で注目される大きなきっかけとなった。

 先に欠点を挙げておく。
 まず、ストーリーが分かりにくい。予習をせずにいきなり見た場合、おそらく理解不能だと言う人も多いだろう。アキラがどういう存在なのかということや、反政府ゲリラがアキラを見つけてどうするのかなど、説明が不充分な部分も多い。

 また、終盤の展開がイマイチということもある。正直なところ、鉄雄が宇宙にまで飛び出して行く辺りは、ほとんどギャグの世界である。
 問題点の多くはおそらく、製作当時にまだ原作の連載が続いていたことや、時間的な制約によるものなのだろうとは思うが。

 しかし、それでもこの映画は凄いのだ。
 これほどのアニメ映画が1980年代に作られたことは、まさに衝撃的である。アニメーション映画としては破格の製作費が投じられ、ハリウッドの実写映画に負けないぐらいのクオリティーを備えたSFアクションシーンを描き出すことに成功している。

 芸能山城組が担当した音楽の奥行きと広がり。圧倒的な情報の洪水。緻密に描き込まれた絵。走るバイクの疾走感。爆破シーンの迫力。ハイスピードで繰り広げられる世紀末絵巻。
 終末感と退廃感の中で、若者たちのパワー&エナジーが爆裂する。

 不気味な迫力のある映像が詰まっている。
 例えば鉄雄が腹部から内臓が全て落ちる幻覚を見るシーンや、巨大なぬいぐるみが溶液を垂れ流しながら襲い掛かってくるシーン。機械仕掛けになった鉄雄の左腕から配線が伸びていくシーンや、彼の姿がグロテスクに変貌していくシーン。

 この作品にはリアリティーがあるが、それはあくまでもアニメの中でのリアリティーであり、実写と同じリアリティーではない。実写と同じモノを作ろうとすると、アニメーションは死ぬ。
 この映画は生きている。
 それは、アニメの枠でリアルを消化し、吸収しているからだ。

(観賞日:2001年12月29日)


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