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『ポルノ時代劇 忘八武士道』:1973、日本

 凶状持ちの浪人・明日死能は、橋の上で襲ってきた連中を斬った後、奉行所の捕り方役人に包囲された。死能は「もう斬り飽きた」と呟き、川に飛び込んだ。「死んでいくのが地獄なら、生きていたとて、また地獄」と吐露して水没した死能だが、忘八者の元締め・白首袈裟蔵が彼を助けて三浦屋に運び込んだ。
 忘八者とは、「孝、悌、忠、信、礼、義、廉、恥」という8つの徳を全て忘れた無法者のことで、吉原の管理を任されていた。死能が「仲間になれって言うのかい」と言うと、白首は「なれますかい?」と問い掛けた。

 白首は死能に、女郎を吊るして股間を火であぶったり、犯して責めたりする様子を見せ付けた。「出来るかい、俺たちの真似が」と改めて尋ねた白首に、死能は「虫唾が走るぜ。俺を見ているようでな」と言う。白首は彼に、女衒の仕事をやるよう指示した。
 死能は忘八者の姫次郎に同行し、長屋を訪れた。そこにいる女・お紋を借金のカタとして連行するためだ。死能は抵抗するお紋の着物を斬り、裸にした。姫次郎がお紋を捕まえ、猿ぐつわを噛ませた。

 白首はお紋の手足を縛り、死能に「達磨抱かせとして2日2晩、絶え間なく男に抱かせる」と説明した。彼は「最初の晩に抱く男は競りで決める」と告げ、仕事料の五十両で競ってみるよう持ち掛けた。
 「気が乗らねえなあ」と言っていた死能だが、参加した男たちがお紋の肌を撫で回す様子を見て、五十両を出して落札した。死能はお紋の部屋に2人だけで残されるが、彼女を抱こうとしなかった。

 しばらくすると姫次郎が部屋に現れ、お紋の縄を解いた。お紋は笑いながら、自分が女忘八であることを明かした。それは忘八者の仲間になるための「人形試し」と呼ばれる試験だったのだ。
 お紋の着物を持って来た世話女から嘲笑された死能は頭に血が昇り、刀を抜いて彼女の耳を切り落とした。忘八者には、「損得に関わりの無いことには怒りもしないし笑いもしない」という掟がある。その掟を守れなかった死能に対し、白首は吉原から出て行くよう要求した。

 死能が吉原の出口に赴くと、外には白首が呼んだ大勢の捕り方が待ち受けていた。死能が捕り方を斬っていると、そこに吉原の総名主・大門四郎兵衛が現れた。
 彼は役人に、「この男は仲間の忘八者なので、手を引いてもらいたい。不服であれば老中に訴え出るように」と告げた。役人は納得できない様子だったが、大門が家康から拝領した葵の紋の鈴を見せたので引き下がらざるを得なかった。

 大門は死能を客分として迎え入れ、「仕事の邪魔をする人間を斬りまくってもらいたい」と述べた。吉原は初代総名主の頃から、幕府に莫大な茗荷金を渡してきた。しかし昨今、茶屋や比丘尼、夜鷹といった私娼窟が増えていた。武士の茶屋遊びが多いため、それらに関して町奉行は目こぼししていた。
 そこで、そういった連中を潰してもらいたいというのが大門の依頼だ。大門は死能に、二代目首切り浅右衛門が使っていた「鬼庖丁」と呼ばれる大刀を渡した。

 死能は茶屋に乗り込んで武士を斬ったり、湯屋で交わっている男女を捕まえて晒し者にしたりする。茶屋の旦那衆は浪人やヤクザを集め、百両の報奨金で死能の抹殺を依頼する。浪人たちは死能を待ち受けるが、数名が簡単に斬られると、慌てて逃げ出した。
 我慢しかねた町回り同心・加太三次郎が襲い掛かって来たので、死能は容赦なく抹殺した。白首は同心を斬ったことを懸念するが、それも大門の狙いの内だった。役人を斬るぐらいのことが無ければ、古狸の老中が動き出さないと考えていたのだ。

 幕府は忍の黒鍬者を差し向け、死能を殺害しようとする。夜道を歩く死能と姫次郎は、町民に化けた黒鍬者の襲撃を受けた。黒鍬者は地面に油を撒き、そこに火を放った。死能が炎に包囲されたところへ、お紋を含む女忘八たちが駆け付けた。彼女たちは布を頭から被り、地面を転がって消化した。
 死能は無事だったが、姫次郎は大火傷を負った。「医者を呼べ」と命じる死能に対し、お紋は冷徹な態度で「無駄だと思います」と述べた。お紋は一足先に立ち去った直後、姫次郎は息を引き取った。

 お紋を除く女忘八たちが三浦屋へ戻ろうとすると、黒鍬者の頭領・黒鍬の小角が待ち受けていた。小角は女忘八たちを捕まえて連行しようとするが、死能が現れた。戦いの末に敗れた小角は、「所詮、泣きを見るのはお手前や我ら。阿呆な御政道じゃ」と言い残して死んだ。
 大門は御公儀の動きの鈍さに痺れを切らし、茶屋女1人を吉原に連れて来れば五両を出すという触れ書きを出した。それを見た町の男たちは茶屋へ乗り込み、次々に女を拉致した。

 大門は死能に、茶屋が大名や直参の後ろ盾で人を雇い、吉原を襲ってくるだろうという推測を述べた。その推測は当たり、約170名の刺客が集まった。死能と忘八たちが吉原で待ち受けていると、刺客がやって来た。戦いが始まった直後、火付留役・多門伝八郎が老中の言葉を伝えるためにやって来た。双方の代表者を評定所へ呼び出し、そこで採決を出すという。
 年が明けて出た採決は、廓の前での茶屋の営業を許可するが、大門の支配を受けるというものだった。ただし老中は大門に条件を付けた。それは死能を始末することだった…。

 監督は石井輝男、原作は小池一夫&小島剛夕(報知新聞連載 日本文芸社刊 講談社刊)、脚本は佐治乾、企画は俊藤浩滋&橋本慶一&三村敬三、撮影は鈴木重平、照明は若木得二、録音は中山茂二、美術は吉村晟、編集は市田勇、擬斗は土井淳之祐、音楽は鏑木創。

 出演は丹波哲郎、ひし美ゆり子、遠藤辰雄(遠藤太津朗)、内田良平、伊吹吾郎、相川圭子、一の瀬レナ、城恵美、池島ルリ子、久野四郎、佐藤京一、小島慶四郎、玉川長太、人見きよし、深江章喜、由貴リエ、小林千枝、北川マキ、丸平峰子、ダナ・ケイ、原田君事、蓑和田良太、滝義郎、鈴木康弘、高並功、島田秀雄、那須伸太朗、大城泰、市川裕二、土橋勇、宮城幸生、関戸純方、野口貴史、笹木俊志、浪花五郎、川谷拓三、畑中伶一、山下義明、池田謙治、牧れい子、林三恵、牧淳子ら。

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 小池一雄・作、小島剛夕・画の劇画『忘八武士道』を基にした作品。監督は『網走番外地』シリーズの石井輝男。
 死能を丹波哲郎、お紋をひし美ゆり子、大門を遠藤辰雄、小角を内田良平、白首を伊吹吾郎、女忘八4人衆を相川圭子&一の瀬レナ&城恵美&池島ルリ子、姫次郎を久野四郎、勘次を佐藤京一、晒し者になる湯屋の客を小島慶四郎と蓑和田良太、瓦版売りを人見きよしが演じている。
 クレジットは無いが、福本清三が岡場所に入り浸って女郎を抱く役人の役で1シーンだけ出演している(ただしセリフは無く、顔も写らない役)。

 主役の名前は明日死能で「あした・しのう」と読む。原作が小池一雄センセイなので、ダジャレである。
 そんな主役の死能を、丹波哲郎はノリノリで演じている。虚無を抱えたキャラなので徹底して無表情だが、っていうか丹波は基本的に表情の変化が乏しい役者だが、しかし内面ではノリノリなのだ。何しろ彼は原作を読んで強く惹かれ、自ら映画化の企画を持ち込んだらしいので。

 で、何に対してノリノリかと言うと、それはエロである。それはもう、やる気まんまん横山まさみち状態だ。ひし美ゆり子のオッパイを揉みしだく姿を見ていると、それは演技じゃなくて欲望を満たしたいだけじゃいのかと思う。
 たぶん彼は、エロいことがやりたくて企画を持ち込んだんだろう。ただし、その姿勢は、正解っちゃあ正解だ。これは、ストーリーとかドラマなんて二の次で、っていうか極端に言えばどうでも良くて、とにかくエロを見せるために作られた映画なのだから。

 だからヒロインのひし美ゆり子を始めとして、女忘八を演じる女優たちは、「俺たちゃ裸がユニフォーム」のアパッチ野球軍なのかと思うぐらい、出番の大半で脱いでいる。ひし美は色んな男に肌を触られまくり、胸を揉まれまくる。
 ひし美はTVシリーズ『ウルトラセブン』のアンヌ隊員で人気を得たが、1972年に東宝を退社してからは、大胆なヌードを映画や雑誌で披露するようになったのだ。最初のヌードのシーンでブラの形に日焼けの跡が見えてしまうが、そこは御愛嬌ってことで。

 最初に女性の全裸が登場するのは、死能が意識を取り戻すシーン。彼が目を開けるとオッパイのアップで、裸になった2人の女が体を密着させている。さらに、忘八者について白首が説明するシーンでも、全裸の女が吊るされ、下から股間を火であぶられ、男に鞭で打たれて苦しんでいる様子が描かれる。忘八者の説明と、その映像、内容は合致していないが、そこは御愛嬌ってことで。
 さらに説明が終わると、女たちを男がセックスで責める様子が描かれる。特に無くても話に支障は無い映像だが、ポルノ映画としては必要だ。

 死能が火に囲まれるシーンでは、お紋を含む女忘八たちが駆け付け、頭から布を被ってゴロゴロと地面を転がり、消化する。で、死能が布を切ると、中から全裸の女たちが現れ、水を浴びる。
 その後、彼女たちは立ち去るのだが、なぜか着物を着けず全裸のままで走っていく。だから待ち伏せていた小角と女忘八が戦うシーンでも、全裸のままでキャット・ファイトということになる。で、小角は女忘八を圧倒するが、なぜか殺さずに拘束し、「存分に慰んでから殺してやる」と言い出す。こいつもエロい気持ちに満ちている。

 しかし残念ながら丹波哲郎や久野四郎とは違い、内田良平には女のオッパイをモミモミするキャンスは与えられていない。そこに死能が現れ、小角は倒されてしまう。で、死能に命じられて医者を呼びに行ったはずのお紋は、三浦屋に戻って外国人の女を責めて楽しむ。医者を呼ばないのはいいとして、なぜか縛られている外国人女が唐突に登場する。もうメチャクチャだ。
 で、そこに戻って来た女忘八たちは、「アンタだけ楽しんでズルいわよ」と腹を立てる。ちなみに、小角と戦う時は5人だったのに、戻った時は4人になっている。小角に1人が殺されたような描写も無かったはずだが、いつの間にか数が減っているのね。

 「石井輝男にエロを撮らせたらグロも付いて来る」ということで、グロ描写もある。オープニングから、死能が捕り方を斬ると血がドバッと出たり、手首がスパッと切断されたりする。
 ラスト、吉原を追放された死能が捕り方と戦うシーンでは、彼が斬った相手の足、耳、腕、頭が飛んでいく。ただし、ロに比べれば控えめだ。タイトルに「ポルノ時代劇」とあるように、この映画はエロがメインなのだ。

 ちなみに、最後の戦いで飛んでいく足、耳、腕、頭は、重力を無視している。どういうことかと言うと、斬られた後、並行か、もしくは少し上向きに飛んでいくのだ。ほとんどギャグである。
 あと、石井輝男はケレン味の人なので、アクションシーンでもケレンで味付けしており、特にスローを多用している。ただし、そうしなけりゃいかん事情もある。丹波はチャンバラが上手くないので、普通に演出したのでは今一つパッとしないんだよな。
 まあ、でも本作品ではチャンバラなんてどうでもいい。個人的には、ひし美ゆり子が脱ぎまくっているというだけで、充分に見る価値がある。

(2011/9.11)

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