見出し画像

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』:2019、アメリカ

 クロケット高校3年生のモリーとエイミーは幼馴染で、卒業式を翌日に控えていた。モリーはイェール大学、エイミーはコロンビア大学への進学が決まっていた。生徒会長を務めるモリーはエイミーを伴ってブラウン校長の元へ行き、年度末の予算について相談しようとする。
 ブラウンが面倒そうに「副会長のニックに話せ」と言うと、モリーは「ニックはプロムの企画のために立候補しただけで無能だ」と話す。しかしブラウンはモリーとエイミーの話を聞かず、校長室から追い出した。

 ニックは人気者で、モリーがトリプルAと呼んで見下しているアナベルも仲良くしていた。エイミーは誰からも支持されるニックを評価しているが、モリーは彼への不快感を隠そうともしなかった。教室へ移動したモリーとエイミーは、クロスワードパズル仲間である担任のファインから電話番号を教えてもらった。
 メキシコ系のテオがファインをパーティーに誘うと、モリーは「酔って暴れるくせに」と告げた。他のクラスのジャレッドが来て、卒業記念の品として自分の顔が印刷されたシャツを見せた。教室を出て行く時、ジャレッドはモリーだけに挨拶した。

 演劇部のジョージとアランは、夏休みの公演を告知した。モリーはアルバイト、エイミーはボランティアでアフリカに行くことを告げた。モリーとジョージは、互いに攻撃的な言葉を浴びせた。昼休み、モリーはニックに予算のことを話そうとするが、遊びに夢中だったので諦めた。
 モリーはエイミーがスケーターガールのライアンを見ているのに気付き、声を掛けるよう促した。エイミーはライアンと話すが、ニックがパーティーを開くと聞いただけで早々にモリーの元へ戻って来た。

 トイレの個室に入ったモリーは、アナベル、タナー、テオが自分の陰口を言って嘲笑するのを耳にした。個室を出た彼女は、イェール大学に合格したことを嫌味っぽく自慢した。するとアナベルは、自分もイェール大学に合格したことを明かす。
 それだけでなく、タナーはスタンフォードに進学し、テオはグーグルにスカウトされて就職が決まっていた。焦ったモリーは他の生徒にも卒業後の進路を尋ね、全員が一流大学や有名企業に進むことを知ってショックを受けた。

 誰よりも勉強したと自負するモリーは、他の生徒のように遊ばなかったことを後悔した。彼女はエイミーに、ニックのパーティーに行くと告げる。エイミーは「卒業の前日にトラブルが起きたら困る」と難色を示すが、モリーは「ライアンと仲良くなるチャンス」と説き伏せた。
 エイミーはモリーに、「両親に上手く話して。でもデートはダメ。私たちがデキてると信じ込んでる」と話す。モリーはエイミーの両親のダグとシャーメインに会い、「今夜、エイミーを泊めてもいい?残された2人の時間を大切にしたいの」と告げた。ダグは心配するが、シャーメインが承諾した。

 ニックは叔母の家でパーティーを開いていたが、モリーとエイミーは場所を知らないことに気付いた。モリーはジャレッドに電話を掛け、車で送ってもらうことにした。ジャレッドは親友のジジから電話を受け、「車に大切な物を忘れた」と言われる。
 小さなケースを見つけたモリーが蓋を開けると、白い粉が入っていた。ジジのドラッグだと思った彼女は焦るが、ジャレッドがビタミン剤だと教えた。ジャレッドは車を停めるが、そこは港だった。彼は船上パーティーを主催しており、そこにモリーとエイミーを招いたのだ。

 モリーとエイミーはニックのパーティー会場が分かっていないこともあり、とりあえず船に乗る。すると客はジジだけで、彼女はモリーとエイミーにイチゴを食べさせた。ジジはエイミーを甲板に連れて行き、ジャレッドはモリーにDJプレイを見せる。モリーが「お金で人気は買えない」と言うと、ジャレッドは「買えるはずだよ。両親も、その両親も、例を見て来た」と語る。
 「頑張るほど人は離れていく」とエイミーが指摘すると、彼は「君も努力家だ。そこが好きなのに」と口にした。ジャレッドが慌てて「変な意味じゃなく」と付け加えると、うろたえたモリーは「帰る」と甲板へ向かった。

 モリーはエイミーに声を掛け、船を去ろうとする。ジジが急に海へ飛び込んだので、モリーとエイミーは逃げるように船を去った。もう家に帰ろうと提案したエイミーに対し、モリーはニックのパーティーに行くと主張する。彼女はアランからのメールで、パーティー会場の住所を入手していた。
 エイミーが「1人で行って」と告げると、モリーは「マララ」と口にする。それは無条件で協力を求める時の合言葉で、エイミーはモリーに同行することを承諾した。

 モリーとエイミーが配送車を呼ぶと、運転手はブラウンだった。彼は教師の給料が安いこと、副業として本も書いていることを語った。少し気まずい雰囲気になりつつも、モリーたちはアランから教わった邸宅まで送ってもらった。
 そこはジョージの家で、殺人ミステリーの会と称する演劇イベントが催されていた。モリーとエイミーはジョージから、芝居に参加するよう要求された。奥の部屋に通された2人は、ジジがいたので驚いた。

 ジジはモリーとエイミーに、イチゴを強力なドラッグに漬けておいたことを教える。モリーたちは幻覚に見舞われ、フラフラになりながら屋敷を抜け出した。エイミーは「もう充分よ」と帰るよう求めるが、モリーは納得しない。
 ニックのパーティーにこだわる理由をエイミーが尋ねると、話を聞いていたジジが「恋ね」と指摘する。モリーは否定するが、ニックへの恋心が漏れた。エイミーは「本音を押し殺す必要は無い」と言い、自分を卑下するモリーを勇気付けた。

 モリーとエイミーはニックの叔母の住所を調べるため、図書館へ赴いた。ニックたちがリノ・ピザの箱で遊ぶ動画を見た2人は、ピザ店へ向かった。2人は配達車の後部座席に隠れ、配達員のパットを脅して住所を聞き出そうとする。しかし逆に拳銃で脅され、無茶な行動を注意される。
 住所を教えてもらったモリーたちは送ってもらえないかと頼むが、さすがに断られた。パットが去った後、エイミーは配達車に携帯話を忘れたことに気付く。モリーの携帯も、充分が切れて使えなくなった。

 モリーとエイミーが困っているとファインが現れ、車に乗せてくれた。ファインは2人を送り届けるだけでなく、パーティー用のドレスも貸してくれた。会場に入ったモリーは、ジジがいたので驚く。
 エイミーはモリーに背中を押され、ライアンに話し掛けた。彼女はライアンに誘われ、カラオケ大会の場所へ移動した。一方、モリーはニックを見つけ、彼に声を掛けて歓迎された。エイミーはライアンから「私のために歌って」とマイクを渡された、熱唱して拍手を浴びた。

 モリーはニックと一緒にビールを飲み、ビアポンに興じて距離を縮めた。ニックが「暴れてる奴らを止めて来る。ここで待ってて」と言うと、モリーは喜んで従った。エイミーはライアンに促され、プールに飛び込んで一緒に楽しもうとする。しかしライアンは彼女と離れると、ニックと抱き合ってキスを交わした。
 その姿を見たエイミーはショックを受け、プールから上がってモリーを捜す。彼女は帰ろうと促すが、事情を知らないモリーは拒んだ。エイミーは腹を立て、2人は激しい口論になった…。

 監督はオリヴィア・ワイルド、脚本はエミリー・ハルパーン&サラ・ハスキンス&スザンナ・フォーゲル&ケイティー・シルバーマン、製作はミーガン・エリソン&チェルシー・バーナード&デヴィッド・ディステンフェルド&ジェシカ・エルバウム &ケイティー・シルバーマン、製作総指揮はウィル・フェレル&アダム・マッケイ&ジリアン・ロングネッカー&スコット・ロバートソン&アレックス・G・スコット、製作協力はケイティー・バライン、撮影はジェイソン・マコーミック、美術はケイティー・バイロン、編集はブレント・ホワイト&ジェイミー・グロス、衣装はエイプリル・ネイピア、音楽はダン・ジ・オートメーター、音楽監修はブライアン・リング。

 出演はビーニー・フェルドスタイン、ケイトリン・デヴァー、ジェシカ・ウィリアムズ、ジェイソン・サダイキス、リサ・クドロー、ウィル・フォーテ、マイク・オブライエン、ビリー・ロード、ダイアナ・シルヴァーズ、スカイラー・ギソンド、モリー・ゴードン、オースティン・クルート、ヴィクトリア・ルエスガ、ニコ・ヒラガ、エドゥアルド・フランコ、メイソン・グッディング、ノア・ガルヴィン、ベン・ハリス、カイル・サンプルズ、デブ・ヒエット、ブルーシー・バーク、クリストファー・アヴィラ、ステファニー・スタイルズ、ジョン・ハートマン、アダム・サイモン・クリスト、ギデオン・ラング他。

―――――――――

 女優のオリヴィア・ワイルドが、初めて監督を務めた長編映画。サンフランシスコ国際映画祭の作品賞、オースティン映画批評家協会賞の新人作品賞、インディペンデント・スピリット賞の新人作品賞、ハリウッド映画賞のブレイクスルー監督賞など、数々の映画賞を受賞した。
 モリーをビーニー・フェルドスタイン、エイミーをケイトリン・デヴァー、ファインをジェシカ・ウィリアムズ、ブラウンをジェイソン・サダイキス、シャーメインをリサ・クドロー、ダグをウィル・フォーテ、パットをマイク・オブライエン、ジジをビリー・ロード、ホープをダイアナ・シルヴァーズ、ジャレッドをスカイラー・ギソンド、アナベルをモリー・ゴードンが演じている。

 モリー役のビーニー・フェルドスタインも出演していた『レディ・バード』は、やはり高校生の青春を描いた作品だった。数々の映画賞を受賞し、高い評価を受けた作品だ。そして個人的にも、優れた映画だと思っている。
 ただ、「Z世代の青春物語」としての色合いが濃い一方で、ジョン・ヒューズの青春映画を全否定するような内容だったので、そこは少し引っ掛かる部分があった。でも本作品は新世代の青春映画でありながら、ジョン・ヒューズ監督作品のテイストも感じさせる。

 モリーが人気者でモテ男のニックに惚れるが、最終的にはイケてないけど優しくて自分を思ってくれていたジャレッドとカップルになる辺りなんて、いかにもジョン・ヒューズっぽい。
 あと、モリーが勉強ばかりしていた設定も大きく影響しているのか、「いかにもZ世代だなあ」と年代の大きな差を感じることは、そんなに多く無い。モリーはスマホを使っているものの、動画をアップしたりユーチューバーとして活動したりしているわけでもないし。

 生徒の中にはアジア系もいればメキシコ系もいるが、人種によって差別されることは無い。エイミーは同性愛をカミングアウトしているが、そのせいでイジメを受けることも無い。
 誰かを見下したりバカにしたりすることはあっても、グループで個人を除け者にしたり陰湿なイジメの標的にしたりってことは無い。青春映画では御馴染みと言ってもいい、「イケてるグループがモテないグループを侮蔑していて」というスクールカーストも存在しない。

 ただ冴えないだけの凡庸な生徒は、1人も出て来ない(もちろん全く触れられないモブキャラは別にしてね)。変な奴や、そのせいで白い目で見られる生徒はいるが、みんな明るく前向きに生きている。人と違うことをネガティヴに捉え、陰気に心を閉ざすような生徒はいない。容姿によるコンプレックスに悩んでいる生徒もいない。
 みんなが基本的には平等の立場で、個性を主張している。これが多様性のあるべき姿なんじゃないかと思わせる。生徒と教師の関係は良好で、杓子定規で生徒を統制しようとする高圧的な先生もいない。

 途中まではトラブルやハプニングの連続で全く予定通りに行かなくても、モリーとエイミーは全くめげないし、軽妙なテイストで話が進む。だが、ようやく目的のパーティー会場に到着し、ニック&ライアンと会えて距離を近付けたかと思ったタイミングで、前向きな気持ちのままではいられない出来事が起きる。
 目撃したエイミーにとっても、まだ知らないモリーにとっても、ショッキングな出来事だ。これにより、作品の雰囲気が一気に変化し、シリアスモードに突入する。

 だが、モリーもエイミーも、辛い思いを抱えたままで終わることは無い。どちらにも、ちゃんとハッピーな結末を用意している。それ以外の面々に目を向けても、誰もが明るく卒業式を迎えている。「これがZ世代の高校生の現実」ってことじゃなくて、かなりファンタジーとしての色合いが濃いんだろうとは思う。
 実際の高校生だと、陰湿なイジメもあればコンプレックスに悩む生徒もいるだろう。でも、現実に即した内容じゃなくても、それは一向に構わない。きっと同世代の観客が見て、元気になれるはずだしね。

(2021/12.23)


この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?