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【365日のわたしたち。】 2022年2月26日(土)

久しぶりに念入りにファンデーションを肌に叩きつける。

最近流行りのアイラインの引き方も知らないから、
とりあえず、あの若かりし頃に身につけた技術を駆使して、少しだけ目尻を跳ね上げる。


準備にバタバタするのと同時に、
迫ってくるバスの時刻に、心臓がどきどきし始める。

久しぶりに会う友人たちは、どんな風に変わっているのだろうか。



「これ、お昼の離乳食。冷蔵庫の一番下の段に入ってるから。
 レンジでチンしたら、冷ましてから、ちゃんと自分の唇で熱くないか確認してからあげてね。」

「はいは〜い。わかってるよ〜。」


と、こちらを振り返りもせずに返事をする。

夫一人に子供を任せて出かけるのは、子供が生まれてから初めてのことだ。
たった2時間足らずのことだけど、不安がないと言ったら大いに嘘となる。

そうは言っても、私だって自分の時間を確保していかなくてはやってられない。
これは私自身、ひいては家族の明るい未来のための試練なんだ、

と心に言い聞かせる。


鏡の前で、髪型と化粧の仕上がり具合をチェックする。

もう少し、リップを塗った方がいいかな。


そう思い、唇に色を重ねていると、廊下を歩く夫と鏡越しに目が合った。


「そんなに頑張っても、変わったところは隠れないよぉ?」



そう歌うように言い放った夫は、トイレへと入っていった。

カチッと鍵が閉まる音がした。




鏡の中の自分が改めて目に飛び込んできた。

さっき塗ったばかりのファンデーションが、もう目元で2、3重に線を描いていた。
目の下のクマも、ファンデーション越しにうっすら透けて見えている。

濃い方がいいと思ったリップは、改めて見ると「たらこ」みたいに膨れて見えて、そこだけ取って付けたみたいに見える。


さっきまでどんどんと加速していた心拍数が、急激にスピードを落とすのがわかった。


指先の冷たさを急に実感する。

そういえば、指先がささくれだらけだ。
ネイルだって、もうずっとしてない。



トイレの水が流れる音がする。




なんだか急に、





ひとりぼっちな気がした。


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