見出し画像

短編170.『作家生活17』〜”俺”という名のジャンル篇〜

 世界がお前に向けて微笑んでるなんて、幻想。

 一人の命が地球より重いなんて、嘘。

 動物はお前に愛でてもらう為に生きているのではないし、

 花はお前に「綺麗」と思ってもらう為に咲くわけじゃない。

 地球はお前が死んでも廻るだろう。

 今日も明日も電車は走る。

          *

「そろそろ【短編を一日に二本書いて投稿する”もの書き”がいる】というネットニュースが流れても良い頃だと思うんだけどな」
「せやんなぁ。かれこれ二ヶ月近く書きっぱなしなのとちゃいますの?」
「そうさ。何故、話題にならないのか不思議だよ」
 短編小説84あたりから一日二本投稿を続けている。そればかりか自らアイキャッチ画像を書き、それをLINEスタンプ化までした。もう短編小説チャレンジも170に達している。

 私はあとどれだけ書けば認められるのだろう。

 閲覧数は一定不変。相変わらずバズることもなければフォロワー数が爆増することもない。空白のハートマーク。これはお情け頂戴のランドマーク。
「むしろこれだけのペースで書いてもネタが尽きない私の才能が怖いよ」

 毎日、台所の片隅や炎天下の路上で孤独に書いている。急な土砂降りで逃げ込んだ屋根の下、信号待ちの原付の上で。路上こそ我が書斎。私はジャック・ケルアックの生まれ変わりなのかもしれない。

 深夜に三本書き上げたとしても、翌々朝には全て消費され尽くしている。才能の蕩尽。書きながら常に思い浮かぶのは、私の脳みそを片っ端から齧っていくバクの姿だ。

「センセが今取り組んでいる【小説詩エッセイのボーダーレスな作品】は凡人には理解出来へんのとちゃいまっか?」
 ーーーそう。それでこそ我が担当くんだ。前回の冷徹さは今の私には必要無い。褒めそやし、甘やかして貰いたい。手厚い保護を必要とする乳幼児みたいに。
「いつの時代も天才とは生きにくいものだよ」
 私はフィンセント・ファン・ゴッホに想いを馳せた。フランツ・カフカやジョン・ファンテにも。

「でも、センセの作品が書籍化されたら、書店は扱いに困るでっしゃろな」
「愉快だね」
「小説コーナーに置かれるのか、詩か、エッセイの棚か。その本屋のセンスが問われますなぁ」
「私はその枠すら飛び越えたい。つまり」私はハーブティーを飲んだ。気の利く担当くんの差し入れ。前回の編集者くんが私の珈琲を勝手に飲んでいた頃とは雲泥の差がある。「本屋には種別ごとに分けられた様々な棚がある。小説・詩・エッセイなどの文学棚。思想哲学もあれば、マーケティングや自己啓発本が揃った棚もある。児童書や雑誌コーナー、十八禁のエリア。そしてそこに新しく誕生するのが、”俺”という棚だ!」

「センセはもう既に【一つのジャンル】であると」
「新宿紀伊國屋はもう一階を増設する必要に迫られるだろうな」

 私は紀伊國屋の階段に貼られたフロア案内板を夢想した。そこに加えられた私のフロアを。

 そしてエレベーターガールが止まった階で私の名を毎度呼び上げることになることも。





#作家 #作家生活 #ジャンル #新宿 #紀伊國屋 #丸善 #小説 #短編小説 #詩 #エッセイ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?