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めちゃくちゃ失敗したゲーム開発の話

今から4〜5年ほど前。
起業するか〜、お金どうしようかな〜、とりあえず自分の名前で仕事作ってみるか〜と漠然と考えながら、業務委託である会社のゲーム開発を手伝った時の話です。
※けっこう端折ってます。そのうち細部も書き起こすかもしれません。

その会社はゲーム産業としてはどマイナーで、社長もゲームのことを全然知らない、時代的には2008年ぐらいのガラケーでのソシャゲを作っていたみたいな、そんな会社でした。そこには僕の友人が勤めていて、僕が「何か困っていることあったら教えてくれい」と問い合わせたところ「今まさに困っているからちょっと社長と話をしてやってくれ」と。
当時まだリーマン経験しかなかった僕は、小さい会社とは言えいきなり社長と話ができるってことに対してめっちゃええやんと興奮して、勇んで伺ったわけです。

「このゲーム、○○社(オモチャとかアニメの会社)と一緒に作っているんだけど、開発陣がみんなゲーム作ったことなくてさ……」
「よくこの案件取れましたね」
社長の口からは驚くべき発言ばかりが飛び出すのです。
開発費は月数百万(1人月80万で20人〜30人かけるのがデフォの時代)
一応プロデューサーがゲーム開発経験者(聞いたことないオンラインゲームの会社でカスタマーサポートをやっていたらしい。それは開発経験とは言わないのでは)
もう来月にはリリースしなきゃいけない(全然できていない)
異業種の人には伝わりにくいかもしれませんが、めちゃくちゃヤバイ案件だったのです。
「それで、このプロジェクトを引き継いで立て直してほしいんだよね」
「わかりました」
しかし僕は2つ返事で引き受けてしまいました。
協業先がけっこうな老舗だったので、ここで上手いことやれば良い実績になると思ったからです。

参画して、チーム構成を知り愕然としました。
プランナー×1(ただのゲーム好きなおっちゃん)
クライアントエンジニア×2(1人は学生、もう1人は非ゲーム系の経験のみ)
サーバーサイドエンジニア×1(ちゃんとした人)
デザイナー×2
ここに、その元CSのおっさんを加えた7人で作っていました。1人月あたりの費用は50万で計算されていました。みんなの給料いくらなの…?

とにもかくにもと思ってやることリストを作っていったわけなのですが、そこでまた社長が降臨します。
「来月ぐらいにはどうにかなるよね?」
ならないのです。
まだ開発が完了していないどころか、仕様がめちゃくちゃなのです。
普通、スマホゲームにおいては各機能が循環するように作るのですが、これはそういったものが全く考慮されていなかったのです。既存のソシャゲの良いところを適当にツギハギしただけ……そう、各部位が拒絶反応を起こしまくっていたのです。
「来月は絶対に無理です……というか申請(AppStoreに審査してもらう)しなきゃいけないので、それも考えると普通に来週とかに提出しなきゃ間に合わんのです。でもまだデバッグもしていないのです。あの、わかりますか?
わかった!じゃあ一回出してみよう
もちろん、バグがあれば審査は落ちます。もちろん落ちました。
しかし社長は言います。
「Appleに返事して。気持ちは伝わるから
もちろん無視して、僕は事業計画を引き直しました。

この会社では毎週マネージャー会という会があって、そこで各事業の進捗を報告し合います。この会社はゲーム以外のこともやっていたので、そういった事業の報告も聞いたりしていました。
僕は業務委託だったのに、その会社の色んな情報がガンガン落ちてきたのです。
そしてマネ会で、僕は新しい事業計画を発表しました。
「……ということで、あと10ヶ月はかかります。……すみません、今まで何やってたんですか?
ブラックホールって何だろう?
重力レンズって何だろう?
そのくらいの好奇心で、僕は尋ねました。
まぁ答えなんか返ってこなかったんですが、社長がまたまた降臨しました。
「うーん、10ヶ月は長い!6ヶ月で何とかしてほしい!」
値切るなと。
北海道の市場でカニを値切る感覚で来るんじゃないよと、僕はここでも唖然としながら「まぁ機能削ればどうにかなるか……」ともろくそ妥協して了解しました。
確かにより上位の経営判断もあるでしょうし、いつまでにリリースできないと株主や協業先に対するメンツもあるでしょうし。

ちなみに半年でリリースとなると、開発に当てられるのは4ヶ月未満ぐらいで、あとはデバッグと、そこで上がってくるバグの修正に時間が持っていかれます。なので、やりたいことの半分ちょっとを削りながら「これは運用しながら並行して実装しよう」とか考えていました。

そして何とかリリースできました。
しかし……
1日の売り上げは数千円から数万円という、月の売り上げは数十万円という、僕への業務委託費すら賄えないぐらいの惨状でした。
褒められる点は、リリース後にバグが1個も出なかったということ、そのゲームは原作つきだったのですが、原作ファンがとても喜んでくれたこと、その2点のみです。Twitterアカウントには「運営わかってんじゃん!」みたいな、原作モノに於いてはある意味至上の褒め言葉をもらったりもしました。

けど売り上げは月商数十万円。
存続できません。
悲しいことに半年程度でクローズすることになってしまいました。

敗因はたくさんあります。
開発期間を延長したために、広告費を削らざるを得なくなったこと。
1億円ぐらい用意されていたはずですが、何故か500万円になっていました。
絶対にそんなに逼迫させていないハズなので、残りの数千万円はどこかに霧散してしまったようです。
課金したくなる仕組みにできなかったこと。
そもそもそんなに面白くなかったこと。

SUPERCELLっていう、フィンランドのゲーム会社があって、僕はこの会社のことをめちゃくちゃリスペクトしているのですが、この会社がクラロワっていうゲームをリリースするにあたって、バランス調整だけで半年使ったらしいです。バランス調整っていうのは、ゲームバランスの調整のことで、まぁ多岐に渡るんですが、例えばキャラ毎の強さとか、キャラ同士がぶつかって戦った時にどうなるのかとか、ステージに出てくるボスの強さとか、そういうの全部です。
つまりゲームの面白さを決めるのは、ゲームのルール(も根幹なのでめちゃくちゃ大事なんですが)よりもそういうレベルデザイン的なところに依存する、ぐらいゲームバランスの調整っていうのは大事だと僕は思っているんです。
ジャンケンで、グーチョキパー以外に、最強の手であるゴッドハンド、その能力は相手が何を出しても絶対勝つ、相手は死ぬ。みたいなヤツが紛れ込んでいたらクソゲーじゃないですか。全員ゴッドハンドしか使わない。
バランス調整をミスるっていうのは、極端な話そういうことなんです。

しかしながら、その時の改修に使えた期間はデバッグ含めて半年で、まぁ数ヶ月の開発期間ですと僕の経験上プロトタイプを作ってチームで遊んでみて、もっとこここうした方がいいんじゃない?って話をする、それを何回か繰り返す。そのくらいのタイムラインです。言い訳させてください。マジで時間足りなかった。

で、僕は大いに反省しました。
何故社長を説得しまくらなかったのかと。
品質がクソだったら誰も遊んでくれないし、お客さんに認知されなかったら売れないですよ。至極当然のこの話をもっとして、開発期間と広告費をもぎ取るべきだったのです。
ゴチャゴチャ言わずに一撃で面白いゲーム作れよ。
ごもっともです。でもそれはそれ。
というか僕が神と崇めるスパセルより短い時間で面白いゲームを作る、これはもう神以上の存在にならないと無理です。勘弁してください。僕は人間なのです。

この反省はめちゃくちゃ活かされていて、起業した後の予算のもぎ取りはかなり必死でやるようになりました。
ありがちなのが「ちょっとずつおかわりをする」ってパターンなのですが、これはダメです。
あと1ヶ月ください……を繰り返していると、都度都度「1ヶ月でやれること」しかやれないし当然計画もしません。
もう、伸ばすなら半年ぐらい一気に伸ばして、どっしり構えて半年分の計画を練って進めた方が、結果的に絶対良くなります。
そんなにズレるなんて、最初の計画どないなっとんねん。
わかります。
でも最初の計画通りに終わったプロジェクトを、僕は見たことも聞いたこともありません。
今、スマホゲーム開発には1本あたり2年ぐらいかかると言われていますが、あるプロジェクトではキックオフの際に「これ、10ヶ月ぐらいで作れるよね?」と言われました。作る物も決まっていないのに。
そういうもんなんです。
僕が逆の立場だったらもちろんより早く出したいと考えます。
よそが似たようなゲームを出しちゃうんじゃないか、とか、流行が変わってしまうんじゃないか、とか色んな懸念があるので。
そして作っている途中にそういう事が起こると、やはり計画変更せざるを得なかったりします。
まぁ大体最初の3ヶ月で察します。あ、これ遅れてんなって。

もちろん遅れないことがベストだし、遅れて良いとも思っていないし、早く完了させるように頑張っているんですが、結局2年くらいかかるので最初から2年積んどいた方がいいよね、って、最近では開き直って言い張っています。ゲームの面白さを決めるのは企画か?と問われれば僕はNOと答えます。
現場の外での綱引き。ここで環境を整えられなきゃ、どんなに良い企画もメンバーも無為になるからです。

ちなみにもちろん企画は大事です。僕もプランナーからお魚の様に這い上がったので、こんなゲームがあったら絶対面白いよ!っていう気持ち満載で生きていました。しかしそれだけではダメだといことを学び、30過ぎたあたりからは闇落ちして環境整備マンになりました。
本当は僕も企画職として生きたい欲求があるので、手元に1兆円ぐらい手に入ったら好き勝手やってやる、そんな野望を胸に日々頑張っています。

ちなみにもちろん成功体験もいっぱいあります。僕の名誉のために言っておくと。
中心的に関わったタイトル、または自身が責任者だったタイトル、数えてはいないんですが、これともう1本を除いて大体億超えしています。
生存率がめちゃくちゃ低い同市場においては、まぁまぁのヒット率だと自負しています。けどその大半は、やはり潤沢な資金や恵まれた他の仲間によってもたらされた結果だったのです。


ではでは。

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https://twitter.com/kitatsuro


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