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経済学によりGAFA等のプラットフォーマーを分析する【『経済セミナー』のまとめ記事です】

「OK Google, おすすめの映画を教えて」、iPhoneを使って「Facebookに近況を投稿」、「Amazonでワンクリックで今すぐ購入」。

私たちの日常生活において、Google、Apple、FacebookやAmazonが提供するサービスは欠かせなくなっている。Google、Apple、Facebook、Amazonは、その頭文字をとって、GAFAと呼ばれる巨大なプラットフォーム企業だ。GAFAは消費者や事業者にとって社会経済的上欠かせない基盤を提供するとともに、市場を寡占化ひいては独占化することにより、その規制のあり方を巡って議論の対象となっている。

当記事では、GAFA等の巨大IT企業と競争政策に関して、データ保護規制等から述べられている。

日本国内では、総務省、経済産業省、公正取引委員会において「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」が開催されている。

「「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」中間論点整理を公表します」(2018年12月12日)
https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212002/20181212002.html 

「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する中間論点整理(本文)」 
「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する中間論点整理(概要)」

当文中では、『経済セミナー』2019年4・5月号(日本評論社)の特集「巨大デジタル・プラットフォーマーが問題視されるのはなぜか」を主に引用し、GAFA等のプラットフォーマーを経済学の視点からみることとしたい。

1. プラットフォーマーが巨大化する理由:規模の経済とネットワーク外部性

経済学では、市場の寡占化や独占の原因を「規模の経済」という概念を用いて説明する。

規模の経済とは、
一定量の物やサービスを生産するのに必要な投入物は、複数の企業が分かれて生産するよりも、1つの企業がまとめて生産する方が少なくて済む、という生産技術の性質である。

仮に、市場が独占状態にあるとする。規模の経済が成立しなければ、新規参入企業は独占企業より少ない量を低い単価で生産し、独占企業よりも低い価格で販売して利潤を得ることができる。そのため、独占は維持されない。しかし規模の経済が成立すると、このような参入は生じない。巨大デジタル・プラットフォーマーの重要な投入物はアルゴリズムである。アルゴリズムは、ひとたび入手すれば利用による追加の費用はかからない。よって、それを使うサービスには規模の経済が成立しうる。

余談ですが、規模の経済のほかに「範囲の経済」と呼ばれる概念もある。

範囲の経済とは、
ある業務で使用している資源を複数の製品の生産や流通に用いることによって費用が減少すること、すなわち事業内容の「多角化」によって生み出されるコストの低減効果です。
(丸山雅祥(2017)『経営の経済学 第3版』p.47より引用)

さらに、学習、専門化、規模、投資などの「経験効果」によるコストの低下を、エクスペリエンス・カーブ(経験曲線)と呼ぶこともある。エクスペリエンス・カーブは1960年代にボストン コンサルティング グループにより提唱された企業の生産量に関するコストの理論であるが、私たちの仕事―終身雇用制度も話題となっているが―年功制を習熟や熟練によるエクスペリエンス・カーブの理論で考えることもできるだろう。経験という学習による習熟等は働き方の生産性を高めていたが、VUCAと呼ばれる内部環境および外部環境の変化が速くなっている現代では、年功および経験効果と経営パフォーマンスの関係は弱くなっていると仮説を立てることもできるかもしれない。私たちは新しいことを自ら学ぶことにより、年功による経験効果をこれまでより高めることも大切だろう。

話題が逸れたので、『経済セミナー』2019年4・5月号を主に引用し、さらにプラットフォーマーが巨大化する理由をみていく。

規模の経済と類似の概念が、消費者側にも存在する。その概念とは、「ネットワーク外部性」である。

ある財について、同じ財を利用する人数が増えるとより高い価値を感じるとき、その財には「ネットワーク外部性」があるという。

つまり、大きければ大きいほどいいというネットワークの特性により、他の条件が等しければ、小さいネットワークより大きいネットワークに接続する方がいいということである。正のフィードバックが強い市場では、一方向に傾きやすい(tippy)市場になる。

たとえば、みんながnoteを使ってブログを書くようになれば、自分もnoteを使ってブログを書く理由が増えるようなものである。

オールドエコノミー(旧産業構造)の原動力は「規模の経済」であったが、ニューエコノミー(新産業構造)である情報経済の原動力は「ネットワークの経済」へ変化している。

2. プラットフォーム競争の特徴

伝統的な経済学では、寡占化した市場の企業は価格を限界費用より高い水準に留める力、すなわち「市場支配力」を持つ。デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会の中間論点整理では、プラットフォーマーの寡占化を指摘する一方、そのサービスが社会経済上不可欠であるとも述べている。市場支配力は市場に存在する企業数や需要の価格弾力性の低下によって大きくなるため、寡占化やサービスの不可欠性によって市場支配力は上がり、価格と費用の差が大きくなる。

プラットフォーマーはネットワーク外部性を内部化した価格付けを行う。あるグループが他のグループに対して強いネットワーク外部性を持つならば、価格を下げてあるグループを呼び込み、ネットワーク外部性を通じて他のグループを引きつければプラットフォーマーの利潤は増加する。

黒田(2010)は、日本のガラケーは、市場支配力の高い消費者向け通信サービスから利潤を得るため、コンテンツ事業者に対して安価な決済サービスを提供していたことを明らかにしている。ターゲットとした市場の顧客を引きつけるネットワーク外部性をどうやって作り出すかが、プラットフォームの重要な競争戦略である。

黒田敏史(2010)「両面市場モデルによる携帯電話コンテンツ配信プラットフォームの価格構造の分析」『東京経大学会誌(経済学)』267号、pp.171-189
http://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/731/1/keizai267-10.pdf 

最後に、ノーベル経済学賞を受賞している米国のポール・ローマー教授は、Google等に対するターゲティング広告課税を提案していることで話題となっているようである。


【参考文献】
『経済セミナー』2019年4・5月号、日本評論社
丸山雅祥(2017)『経営の経済学 第3版』有斐閣
カール・シャピロ、ハル・ヴァリアン(2018)『情報経済の鉄則:ネットワーク型経済を生き抜くための戦略ガイド』大野一訳、日経BP社

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