春を食す
最近続けて、旬のお野菜をいただく機会があった。
一つ目は幼い頃教わっていたピアノの先生からお裾分けでいただいた菜花。先生と久々にお会いする機会があったのだ。私が小学生だった頃からの成長をずっと見守り続けていてくれた大人の1人だ。
かくいう私も最近息子が生まれ、立派な大人なのだが、どうも先生にお会いすると、子供だったあの頃に戻ってしまう。先生にも「あら、なんだかまた若返った?小学生だった時のtsumikiちゃんを思い出すわぁ〜」なんて言われてしまった。褒め上手の先生に褒められるのが嬉しくて、一心にピアノを練習していた子供時代。もう20年も前のことなのに、昨日のような気さえしてくる。
とはいえ、「息子にもピアノを習わせたいんです〜」「習わせるとしたらやっぱり先生に見てもらいたいなー」なんて言っていると、やはり20年という月日がまるっと経ったのだ、などと今更実感して驚愕したりもする。
いただいた菜花はまずお浸しにした。旬のお野菜はシンプルに調理するのが1番美味しいし、栄養も取れる気がする。
お出汁がしっかり染み込んだ菜花はほんのり苦く、春の到来を告げる味だった。
残りの菜花をどう調理するか、散々悩んだ挙句、アサリと炒めてペペロンチーノにした。緑の菜花、赤い唐辛子、黄色のパスタにアサリと、見た目にも華やかな春の贅沢料理。パスタはいつもよりちょっぴり多めに茹でて、目にも口にもいっぱいに春を堪能した。
二つ目は母からの芽キャベツ。
子供達3人がそろそろ巣立ち、孫が生まれるというタイミングでバッサリと仕事を辞めた母は、持て余した時間を費やすべく農業を始めた。
と言っても、市が運営する農業講座に参加し、種まきから収穫までを農家さんの畑を借りて、農家さんに教わりながら実践するというもの。昨夏、炎天下で植えた冬野菜の種はすくすくと成長し、母は毎度両手に抱えきれないくらいの収穫物をもって帰宅するのだ。
ちょうど昨秋に、私は生まれたての息子とともに実家に里帰りしていた。産後の私に栄養を与えるべく、母は採れたて野菜をせっせと持ち帰っては、泥を洗い流して、美味しい料理を振るまってくれた。
採れたてカリフラワーのミルクスープ、採れたて大根が入ったおでんに漬物や豚汁、採れたてキャベツとお肉の煮込み料理、採れたてカブの煮物…。里帰り中に食べた母の手料理の数々は今思い出してもすでに懐かしく、恋しい。
そして、里帰りも終え、自宅に戻って育児も軌道に乗ってきた今日この頃、久々に会った母は収穫したての芽キャベツを渡してくれた。
初めての育児にてんてこ舞いで料理も手抜きしがちの私だが、旬のお野菜が手元にあるとなると俄然料理のやる気が湧いてくる。せっかくの芽キャベツ、どう料理するのが1番美味しいかなと悩むのも幸せな時間だ。
あれこれ悩んだ挙句、芽キャベツのあの苦味が大好きな私は、シンプルにグリルして、オリーブオイルと塩だけかけていただくことにした。
その美味しかったこと。表面だけちょっと焦げて香ばしい芽キャベツは口に頬張ると、じっくりグリルして引き出された甘みと苦味が、噛めば噛むほど一緒に滲んでくる。「授乳中でなければ日本酒が飲みたいー!」なんて思いながら、大事に大事に味わった。
生まれたての息子を抱えてた里帰りの頃は冬野菜の収穫が始まるぞ!という季節だったのに、いつのまにか息子は寝返りの練習なんか始めちゃって、最近は笑ったり怒ったりと表情もくるくると変えられるようになった。目まぐるしく成長する我が子を前に、春野菜を食しながら、季節の移ろいを感じている私なのだった。