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【性別適合手術と妻へのプロポーズ3】一生続けなければいけないホルモン療法について

このnoteでは、LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。自己紹介はこちらからご覧ください。
自分は男性だと思いながらも、一体何者かわからずに生きてきた私。戸籍も男性として生きていくと決め、私はついに性別適合手術を受けることを決意します。前回に引き続き、現在につながる男性ホルモン注射による治療や性別適合手術、妻とのストーリーを綴ります。

27歳のときに、私は男性ホルモンによる治療を開始しました。乳腺切除手術や子宮・卵巣摘出手術のためにはお金を貯めなければいけませんので、それらの手術はまだ先のことでしたが、まずはホルモン療法を始め、男性らしい外見になりたいと思いました。

手術よりも先にホルモン療法を始めるのには、外見のこと以外にも理由がありました。ホルモン療法は子宮や卵巣を摘出した後も長期にわたって続けることになります。そのため、子宮や卵巣を摘出する前に、ホルモン療法で重い副作用が起きないかどうかを確認しておきたかったのです。
(ただ、日本は、性別適合手術の前に自費でホルモン療法を開始すると、保険適用による手術が受けられず、手術費用の全額を自己負担しなければなりません。私はこの決まりは、今後変わってほしいと思っています。)

私は、男性ホルモンを定期的に注射することにしました。注射の回数は月に2回。ホルモン療法を開始して1か月後には生理は止まり、体毛が濃くなり、体格の男性化が進んでいきました。

ホルモン療法には副作用もあります。血栓症や動脈硬化、肝機能障害などのリスクを高めると言われているため、定期的に検査しなければなりません。幸い、私は今のところ大きな副作用はありませんが、生理が止まったのに、まるで生理中のように精神的にイライラしたり、顔にほてりを感じることがあります。人によっては、生理の周期のように、定期的に精神的に不安定になることもあるようです。

また、男性ホルモンを打ち出して、にきびが増えました。にきびの出方にも特徴があって、私の場合は、男性ホルモンを注射した直後はにきびが消え、次の注射を打つ頃、つまり体内の男性ホルモンが少なくなった頃ににきびが増えるのです。その傾向は、性別適合手術を終えて、ホルモン注射の頻度が月1回になってますます顕著になりました。

男性ホルモンが増えるとにきびが増えることが多いと聞いていたのにまるで逆だなと、医師に相談したところ、「田崎さんは、注射した男性ホルモンがなくなると、自分の体内で男性ホルモンを増やそうとしているのかも」とのこと。そこで、体内の男性ホルモン量の増減の波を小さくするため、注射の頻度を2か月に3回にしてもらいました。

ホルモン注射で少しずつ男性っぽい体つきになっていった私

以前にもお話ししましたが、日本では、「性同一性障害」という疾患に対して投与が認められたホルモン製剤が存在しないという理由から、ホルモン療法は自費で受けなければなりません。私は、性別適合手術を受ける前、ホルモン注射を自費で受けていました。1回の注射の料金は3500円くらいだったと思います。

そして、性別適合手術が終わり、戸籍が男性になった今は、男性として、男性ホルモン低下の治療を受けていることになるため、注射は保険適応になっています。料金は1回800円ほどです。

性別適合手術が済んでも、私の身体はほかの男性のようには男性ホルモンを分泌することがありませんから、ホルモン療法は一生続けることになります。仮にホルモン療法を中止すると、免疫力の急激な低下などの恐れもあります。

大規模な自然災害が発生して、定期的な通院ができなくなることは、ホルモン療法を受けている当事者にとってはまさに生死にかかわる重大な問題です。東日本大震災では、被災地にとどまって注射を受けることができないため、故郷から離れざるをえなかった当事者もいました。

2016年1月の衆議院第190回国会では、被収容者へのホルモン療法に関する質問が野党議員から行われました。これは、男性から女性へ性別適合手術を受けた、東京拘置所に勾留中の被告が、定期的に投与する必要がある女性ホルモンの投与を求めたにもかかわらず、「病気ではない」として東京拘置所から女性ホルモンの投与を認められずに体調を崩したことを問題視したものです。

仮に私が犯罪者となって、あるいは罪などは犯していないのに刑務所や拘置所に入った場合、ホルモン注射をしてもらえるのでしょうか。国は、ホルモン療法については、収容生活上直ちに回復困難な損害が生じるものと考えられないことから、特に必要な事情が認められない限り、国の責務として行うべき医療上の措置の範囲外にあるという考えです。急激に体調が悪化すれば、注射はしてもらえるかもしれませんが。

「犯罪など犯さなければいいじゃないか」と言われるかもしれません。確かにそうです。しかし、罪も犯していないのに自由な生活を奪われる人は現実にいます。私やあなたが、そうならないとは限りません。

国は、「性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針について」という通知で、性同一性障害等を有する被収容者への様々な配慮を施設関係者に求めていますが、こうした事柄についても、みんなの問題としてもっと議論が進むといいなと思います。

次回は、ホルモン注射を始めて、外見が男性らしくなっていった私が選んだ仕事について少しお話しします。当時の私には、ジェンダーバイアス(「男らしさ」「女らしさ」などの 男女の役割に関する固定的な考え方)がありました。だから、「男らしい仕事をしよう!」と、それまでの保育士の仕事とは全く異なる職業を選んだのですが……続きは次回お話しします。

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