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映画「子供はわかってあげない」プロダクションノート

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カントク沖田の妄想プロダクションノート 全部嘘です。嘘じゃないかもよ。
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2020年8月の記事一覧

#1 はじまり

本来ならば、先日にも、映画『子供はわかってあげない』は、めでたく公開を迎えるはずであったのだが、やむなく延期となったので、それまでに、なんとなく、忘れられないためにも、監督である沖田が、ここに制作日記を書こうと思う。定期的に連載していこうかと思う。できるだけ、間違いがないように書こうと思う。  映画『子供はわかってあげない』は、まずプロデューサーT氏とN氏に呼び出されることから始まった。高い塔の上であった。一人待っている私の横には、一匹の猿と、極彩色の小鳥たちが部屋中を

#2 脚本を書く

原作「子供はわかってあげない」の漫画本を渡されてから、数日後、私は、公園で一人、輪の形をした芋スナック菓子を指にはめながら、一人、頭を抱えていた。田島列島さんが描かれた、この面白さを、どうやって映像にするべきか。菓子の匂いにつられ、近寄ってくる鳩を嫌がりながら、私は、途方に暮れていたのである。そもそも、田島列島さんは、男性なのか、女性なのか。どんな人なのか。こんな優しげでユーモアのある漫画を描く人が、実際は、全身刺青だらけという可能性もある。 やはり、麻薬捜査官のご飯もの

#3 脚本を書く2

脚本が書けず、酒に溺れ、激しい女遊び、悪いドラックにも手を出し、もはやボロボロの私を助けてくれたのは、その人であった。たしか、渋谷の路上で、タチの悪い脚本を売っていたのだと思う。フラフラした千鳥足の私に、そっと潜り込むように近づいてきて、ガラガラの、酒にやけた声で「お兄さん、いい脚本かくよ」と声をかけてきたのだった。 この世には、いい脚本家と悪い脚本家がいる。いいほうは、だいたいテレビ局にいて、悪いほうは、だいたい、こういった小汚い路上で、あやしげな脚本を売っている。私は

#4 脚本を書く3

再び塔の上にいる私の肩には、極彩色の小鳥が乗っている。猿は、もう、私を無視するように、1人でガラス張りの窓から、渋谷の街を眺めていた。私は、桃の果汁が贅沢に搾られた、細長い紅茶のペットボトルを飲みながら、N氏を待っている。ようやく、社員証でドアの開く音がすると、N氏が入ってきた。 「お待たせしました」 N氏がなぜか、細長い、物干し竿のようなものを片手にしている。珍しく、今日は汗ひとつかいていない。私は、ひとまず挨拶をする。そしてN氏は、いつものように、猿を存分に可愛がる。

#5 脚本の国にて 上

前回、脚本の国について書いてから、このプロダクションノートが、嘘ではないかという人が続出しているという話を聞いた。 ・・・信じてほしい。ただ今は、そっと私の話に耳を傾けてほしい。 私は、ゆっくりと、時間をかけて、回想している。映画作りは長い旅である。過去の記憶をゆっくりとたどるように、私は思い出し、時には涙を流しながら、この原稿を書いている。今一度、このプロダクションノートに一切の嘘がないことを、誓おう。そして、願うなら、このプロダクションノートが、これからの若い映画監督

#6 脚本の国にて 下

原稿用紙が燃えている。おそらくボツになったものだろう。それを焚き火にして、彼ら兄弟が、肉を焼いている。見上げた空は満点の星。アパートのベランダで、私とN氏は、彼らから接待を受け、ご馳走を振る舞われている。酒もある。しかし、飲んだことのない味である。聞けば、頑張って書いたのに、映画やドラマにならなかった原稿をまとめて発酵させて作るものらしい。だからかな。少し悲しい味がした。 「あなたが会われたのは、おそらくみつ彦のことでしょう」 炎に揺らめいた、いち彦が、酒をつぎ、ゆっ

#7 渋谷にて

さて、冗談はともかくとして、「子供はわかってあげない」という原作を映画にするという話があり、私は脚本家にお願いすることにした。映像化ではなく、映画化を。映画として、よりよいものを。映画が漫画に似ていれば、それでいい、私はそれが嫌だった。まずは、原作にないセリフで、台本の会話を埋め尽くそうとしたのだ。セリフのうまい人、それで思い出したのが、ふじきみつ彦さんであった。以前、シティボーイズライブの台本を書いており、そのコントが面白かったのを覚えていた。なんだか、仕事をするのは、

#8 金の話

さて、今回は少し堅苦しい話になるかもしれない。金の話である。プロデューサー志望の方なら、読んでおいて損はないだろう。現在、日本映画の多くは、製作委員会方式が一般的となっている。いわゆる、出資企業の集合体である。一本の映画に対して複数の企業が事業費(製作費+配給宣伝費)を出資し合い、資金のリスクを分散する仕組みだ。各企業の出資金の額により、出資比率が決まり、映画公開後の収益から出資比率に沿った額が各企業に配分される。構成するメンバーには、出来上がった作品を映画館に営業する配