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対話と僕㉑:行動の有無と質の分離

・はじめに

この数か月、社内で案出し段階の打ち合わせに参加する事が増えている。
そんな中で進行の人が「なんでも言ってみて!」と言ってもなかなかアイデアが出ない、そこから発展しないというケースに遭遇する。
打ち合わせや会議に限らず、受け手は歓迎していても送り手が二の足を踏んでしまって行動として現れないケースはよくあることなのではないだろうか。

前回は意見を表出させるための会議の小技として『条件設定』『言い出しっぺにやらせない』という2点について書いた。
今回はタイトルにある通り『行動の有無と質の分離』について書いてみたいと思う。

・行動に対するリアクション

今回書いていきたいのはタイトルの通りの内容なのだが、もう少し詳しく書いてみたいと思う。
読んで字のごとくなのだが、先ずは恐らく多くの人が遭遇したことがあるであろうパターンを書いてみたいと思う。

  • 「なんでも意見を言って!」と言われたのに「実現性が無い」という指摘を受けた。

  • 「細かい事でも報告して!」と言われたのに「何故そんな状況になってるんだ!」と叱責された。

  • 「いつでも質問してね」と言われたのに「なんでそんな事もわからないの?」と問い詰められた。

これらに共通している事は、行動に移した側に「○○して良いよって言われたからやったのに」という感情を生み出す事だと思われる。
こういった感情が生み出されるとどうなるだろうか。
推奨された行動であったとしても進んで実行に移さないのではないだろうか。
そこに罠があるのにわざわざかかりにいく人は少数派であるはずだ。

一方で指摘や叱責などのリアクションをした側はどう思っているのだろうか。
これは僕の経験上の話だが、特に意識もせず「行動の質が低かったから指摘した」という人が殆どである。
また、行動が減ってくると「何故○○してくれないんだ」と行動の少なさを指摘してしまうケースも多い。
気付かないうちに自分が促していたはずの行動を消してしまい、求めていた事と逆の結果になってしまっているのである。
こういった現象を学術的な観点からも見ていきたいと思う。

・行動分析学:嫌子出現による弱化

指摘した側は内容自体に言及しているのだが、指摘された側は発言という行動自体を控えるようになってしまう。
こういった状況を解消するためには行動分析学の視点で見てみるといくつかヒントを得ることができる。
行動分析学とは心理学の一部であり、行動の原因を個々を取り巻く外的環境に求めていくという学問である。
この視点で前述の状態を図示してみよう。

図1:言われたとおりに行動したのに否定された

上図を端的に言うと「何でも提案してと言われたのに現実でないと否定された」という状態である。
そこに行動分析学の要素を当てはめると【結果】の部分が「嫌子」であり、指摘した側は【行動】の中身に言及したつもりでもそれは【行動】の部分に影響を及ぼす。
どんな影響かと言うと前述の通り【行動】が減少するのである。
これを「嫌子出現による弱化」と言い、「嫌子」はある行動を減少させる機能を持つものであり、「弱化」とはある行動を減少させることを指す。
つまり【行動】の直後に「嫌子」が現れた事によって「提案」という行動が減少してしまう(弱化)のである。

・行動分析学:行動の減少を避ける為に

では、こういった状況を避ける為にはどうすればいいのか。
それが今回のタイトルにもなっている『行動の有無と質の分離』である。
アプローチとしては至ってシンプルで、行動が現れた時にいの一番に感謝することである。
よくよく考えたら当然のことで「○○をしてほしい!」という要望に対して○○をやってくれたら感謝するのが普通の反応である。
そのあとに内容について質問をしたり提案をするフェーズに移る。
この手順を踏むだけで反応がかなり変わるはずである。

それでもやはり内容の指摘をしてしまう、内容の指摘は必要だ、と思われる方は前述の行動分析学について知識を付けることを推奨する。
感情を抑えることは難しいが知識を有することで咄嗟の反応を抑制することはできる。
後ほど紹介するが入門的な書籍は複数あるので読んでみてほしい。

また、以前書いた『モードの切り替え』や『「送り手」と「受け手」の問題Ⅱ』で書いたような「発散の場だという前提で挑む」や「理解しようとする努力」辺りはスキルも役に立つと思われる。
こちらも改めて読んでみてもらえると良いと思う。

・書籍紹介

今回紹介するのは『行動分析学入門 ―ヒトの行動の思いがけない理由』である。
行動分析学は、人の行動を『刺激』と『反応』の関係性から紐解き、行動の原因を心や脳だけではなく個人が置かれている外的環境などにに求めるものである。
本書は心理療法などにも応用されている行動分析学の入門的な書籍である。

実用的でないという指摘もあるが、こういった知識は一旦飲み込んだうえで自身の環境に合わせて実践に移すべきだと思う。
答えというよりはヒントであり、以降の行動は各々の決断になる。
とはいえ様々な検証、実験を繰り返して導かれた理論であるので、先ずは理解をしたうえで身近な事例に当てはめてみてほしい。
そこには必ず新しい気付きや次のアクションに繋がるヒントがあるはずだ。

・さいごに

書籍紹介でも言及したが学術的な背景を持つ『理論』は、いくら実験を繰り替えして検証しても言ってしまえば確率論でそれに当てはまらないケースに遭遇する事は十分にあり得る。
だからと言っていわゆる経験から培った『勘』だけで行動を起こすのも同じように当てはまらないケースはある。
そういう意味では遭遇したケースに合わせて効果的な選択をする為に『勘』に加えて一定量の知識も必要になるのだと思う。
培った『勘』と『理論』が掛け合わさる事で新たな解決策が見つかる事もあるはずだ。
唯一の答えを見つけるのではなく選択肢を広げて確立を高めるという事を意識しながらこれからも『対話』について述べていきたいと思う。

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