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私が管理本部長だ! vol.15

兵どもが夢の跡 中編の2

そんな専務のイベントの最中、別のグループでは、舟盛りに使用された舟に日本酒をなみなみと注いで回し飲みをしていた。

その中心には阿部取締役や竹原がいた。

この二人は人に酒を飲ますのが好きだ。
特に阿部取締役はかなりの酒豪で、飲んでも飲んでも滅多に潰れないからタチが悪い。

「なに~、俺の酒が飲めないってのか~」

阿部取締役のこのセリフを今まで何回聞いてきたことだろうか。そして、飲むのを断ろうものなら、

「よし、わかった。じゃあ俺も一緒に飲んでやろう。舟をもう一隻持ってこい!」

となってしまい、より逃げ道を絶たれてしまうのだ。

ちなみに阿部取締役の扱いがうまい竹原は、「いやぁ、阿部さん、さすがですね!僕も負けませんよ!」などと言いながら、何度もグラスに口を付ける割には酒が減るスピードは遅い。

ただ、この時点で回りの者たちはすでにかなり酔っぱらっているので、そんな竹原の小技には気が付くはずもない。

竹原は隠れた策士なのだ。

*****

そして、宴会が始まって2時間が経とうとする頃、橋間の姿が消えた。

このような会社全体の飲み会の時の橋間の動きにはいつも感心する。彼は終始みんなの中を渡り歩き、各所で起こるあらゆるイベントに顔を出す。
一回の飲み会で、必ず全員と一度は言葉を交わしているのは彼ぐらいだろう。

良くも悪くも持ち前の軽さがさせていることなのだろうが、彼が色々な方面から仕事を任されている理由はそんなところにあるのだと思う。

ただ、誰かが酔いつぶれたり暴れたりした時に、真っ先にその場からいなくなるのも橋間である。彼の『面倒事を嫌う』嗅覚は決して侮れない。

橋間が消えたということは、そろそろ潮時ってことなのだ。

「みなさーん!!」

私は精一杯の声を張り上げた。

「宴もたけなわですが、あと10分でこちらでの宴会は終了とします!続きは各自個別で行ってくださーい!」

はーい。

何となく数人から返事が上がる。

「それでは専務、一度ここで締めておきましょう。一本締めでお願いします」

*****

「ヨォーッォッ!」

パン!

「今年もよろしくー!!」

パチパチパチパチ!

専務の短い一本締めが終わると、みんなパラパラと席を立ち始めた。そこで私は回りを見渡して、比較的まともな意識を保っているように見えた堀と川島に声をかけた。

「堀くんはあっちの右端から忘れ物がないかを確認していってください。川島さんは、宴会場の外廊下でグダグダやっている人たちを、他の宿泊客の邪魔にならないようにエレベーターに誘導してあげてください」

二人にはそう依頼をして、私は宴会場内でウダウダやっている輩をドンドン外に追い出していった。

「高良川さん、忘れ物はコレだけですね」

依頼から数分後、堀はライター3個とタバコを1箱、あとは薄いピンクのショールを私に手渡した。

「ありがとう。じゃあ、あとは川島さんを手伝ってあげてください。私もすぐに追いかけますね」

そして私は、念のためにもう一度忘れ物チェックをした後、お世話をしてくれた仲居さんたちにお礼とお詫びを伝えてから宴会場の外に向かった。

これで一番心配だった夜の宴会は滞りなく終了した。

しかし、本当のトラブルは宴会場の外に待っていたのだ。


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