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#文学

村上春樹『短篇小説のつくり方』(MONKEY Vol.9掲載)

村上春樹『短篇小説のつくり方』(MONKEY Vol.9掲載)

イケてる文芸誌『MONKEY』最新号が短編小説特集で、そこに載っている村上春樹のインタビューが面白い。

冒頭でレイモンド・カーヴァーとグレイス・ペイリーという、いずれも唯一無二の短篇作家について触れている。ふたりとも主流派的な(アメリカの大学の創作科的な)書き方はしていない。二人とも学歴がほとんどなく、”自分で身銭を切って”文体を作っている。

僕も小説家を発掘するような仕事をしているのでわかる

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『ナイン・ストーリーズ』(J.D.サリンジャー/柴田元幸 訳)

『ナイン・ストーリーズ』(J.D.サリンジャー/柴田元幸 訳)

多分現実の世界で出会ったら絶対に関わりたくないであろう、ナイーブで問題を抱えた人達の、気の滅入るような、しかし救いがたく美しい9つの物語。

これらの物語に、教訓めいたものは何一つない。ただ、サリンジャーの眼差しを通じて、読者は弱さへの優しさを思い出させられる。僕らはきっと、ナイン・ストーリーズを通じて、自分や周囲の大切な人の弱さを受け入れているのだ。それこそが救いなのだ。

『大いなる不満』(セス・フリード)

『大いなる不満』(セス・フリード)

寓意小説である。

いびつに歪められ、不条理に充ちたその世界で、登場人物達はその仮説的現実から目を背けたり、受け入れたりする。彼らは世界観と同じくらい奇怪で滑稽だが、読み手はどうしても他人事として割り切れず、居心地の悪さを覚える。

フリードのシュールな世界観は現実から離れたところにあるわけではなく、私たちの世界のある側面を、ねじって取り出して、大きく引き延ばしたものだ。そこでのたうちまわる人々も

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『罪悪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ)

『罪悪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ)

渋谷の奥、以前済んでいたところの近所にある本屋SPBS(Shibuya Publishing & Book Sellers)で見つけた本。予想外の本に出会うには、シブパブくらいの規模でセンスよくセレクトされた書店が一番だと思う。

著者は ドイツの刑事弁護士で、ナチ党全国青少年最高指導者を祖父に持つという。まるで小説の主人公のようなプロフィールだが、実際にこの小説の語り手はシーラッハという名の弁護

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