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江國香織「前進、もしくは前進のように思われるもの」を読んで

みなさん、こんにちは。江國香織の「号泣する準備はできていた」に収録されている「前進、もしくは前進のように思われるもの」を読んだ感想を書いていきます。

あらすじです 

※ネタバレを含みます。

長坂弥生という40代の女性が主人公です。ある日。アマンタという女性が日本に遊びに来ます。アマンタは19歳の学生。しかも、弥生が学生時代に世話になったホームスティ先の娘であり、当時2歳でした。弥生はアマンタと会うことに対して、ほぼ初対面に近い状態です。

弥生はアマンタの母がかつて自分にしてきたのように、振る舞なくてはいけない。という使命感を抱いていました。なので、アマンタが東京に滞在するあいだは、自分の家に泊めてやることにしました。しかし、ある問題がありました。

それは、ゆうべ、夫が猫を捨ててしまったのです。

猫といっても、夫の母が育ていた猫です。その母は最近入院してしまい、認知症と診断され、途方に暮れていました。最初、弥生は夫が猫を捨てたことを咎めていました。しかし、猫は弥生と夫に対して懐きもせず、悪さばかりしていました。元々、弥生は猫を好きではないのでうんざりしていましたが、

とりあえず、探しにいこう

と考えていました。しかし、それが本心なのか、分かりません。

そんなモヤモヤな気持ちを抱きつつも、アマンタのことを再び考え始めます。

夫はその件について

わざわざ家に泊まらせる必要なんて、ないんじゃないの? 第一、ホテルがあるだろう

と言います。弥生も同感だが、学生時代にお世話になったアマンタの母のお願いを断るわけにはいけないと押し通します。

空港に着くまで少し時間があり、弥生は、再び夫が猫を捨てたことについて考え始めます。夫は社会的地位や金銭も安定しています。一緒にいることで何もかもができるような、そんな気にさせてくれます。

しかし、猫を捨てたという謎の行動に疑問を募らせる弥生に対して夫は

そんな目で見なくても、いいじゃないか。猫よりも人間の生活のほうが大事だろう

と言います。

弥生は

いつから、お互いに分かり合うことができなくなったのか

について考えますが、開き直ろうとします。

それから再び、アマンタのことを考え始めます。かつて自分が19歳だった頃を思い出し、照らし合わせます。仲のいい友達、かつての恋人。夫が結婚するはずだった女性。甘酸っぱい青春、友人の夢、結婚当初の夫に対する浮気疑惑など、それぞれ自分と分かり合おうと奮闘していました。今はお互いにそれなりの地位や財産もあり、家を車も持っています。しかし、子供はいません。それに猫もいません。

弥生は再び猫を思い出しそうとしますが、必死に振り払います。

やっぱり、夫が猫を捨てるなど、そんなことできるはずがない

過去の自分ならそう考えているだろうと思い浮かべます。

やがて、アマンタと再会します。アマンタは恋人と一緒に日本に来ていました。

私、ホテル予約しているので大丈夫です

暗黙の了解的な雰囲気を漂わせ、弥生も「うん、そうよね」と納得します。

その後、お互いに挨拶をし、弥生にお土産を渡し、空港を後にします。


感想です


弥生という女性は、やたら「名誉」の問題を気にしているように思えました。本文にも「名誉」という言葉が多く散りばめており、それに近い類語や表現もありました。

「名誉」という名の、

社会的地位や世間体はこうすべし

恩を受けた相手はきちんとそれに応じた対応をすべし

などの思いを抱きつつ、解決するまでモヤモヤしている印象でした。

それでも、猫とアマンタを交互に思い出している姿には、過去の自分や今の自分の立ち位置を照らし合わせ、頭の中で奮闘していました。

その問題を解決しようと、少しでも前に前に進み「名誉」を維持する。

気にし過ぎですが、弥生は階段を昇るように「名誉」を築き上げたので、今更妥協は許されないといった、変なところに自尊心が少し高いようにも思えました。

「名誉」という問題は、人それぞれ形や大きさも違い、問題によって分かり合えないこともあると思います。それでも、少しずつ前進することで分かり合える人に出会えることを信じて、生きていきたいですね。


最後まで、読んで頂きありがとうございます。

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