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コスモスとオルゴール(前編)

当時ホームページに書いた文章をnoteに載せてみたくなりました。

=2001.10.04の日記=
「コスモスとオルゴール(前編)」

2年前の秋、私は彼女にプロポーズした。

新聞の「コスモスだより」を見るたび、あの頃のことを懐かしく思い出す。

2年前の9月の終わり、私は新聞の「コスモスだより」というコスモスの各地の開花状況を知らせる小さな欄を毎日チェックしていた。私が見ていたのは、能古島(のこのしま)のコスモスの開花状況だ。能古島は福岡にあり、1年を通して季節の花が楽しめる島である。島とはいえフェリーで10分と比較的近く、福岡の中心地からもそれほど離れていない。ここはコスモスの名所として知られている。

私はもう一度ここで彼女とコスモスを見たかったのだ。


[ コスモス篇 ]

話はそれからさらに1年前にさかのぼる。

当時私たちは知り合って2か月が過ぎていた。知り合ってからは週末になるたび、お互いの家を行き来する生活を送っていた。車を持っていなかった私たちは、どこかに遊びに出かける時は電車かバスまたは徒歩という今どきの学生でもやらないような交際をしていた。当然行動範囲は狭い。

そんな私たちが立てた初めての計画が能古島にコスモスを見に行くことだった。とはいえ、彼女の住んでたところから1時間そこらの場所なので、小旅行とさえ呼べないものかもしれない。それでも船に乗って島に行くのだ。気分はすっかり小旅行だった。

それまでの私は彼女とのことを強く意識したことはなかった。毎週会うことがあまりにも自然なことに思えていたから、付き合っているという自覚さえ薄かったかもしれない。しかし能古島に着き、一面に広がるコスモスの花畑を見ながら2人で歩いているうちに、ふいにこんなふうに思っている自分に気が付いた。

「来年もまたここに来て、2人でコスモスを見たいな」と。

2人の将来について初めて考えるようになった場所がここだったのだ。
この日私たちは初めて記念撮影をした。

私たち2人の姿が写った最初の写真。それまでは写真なんていらないと思っていた。だけどこのとき初めて形に残るものが欲しいと思った。記録に残したいと思い始めたのは、彼女が大切な存在になったせいかもしれない。

それから1年後、私はここで彼女にプロポーズすることになる。

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