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あいりん地区から見る貧困と福祉のあり方

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(2017年8月の西成あいりん地区)

白波瀬達也の『貧困と地域』、副題は『あいりん地区から見る高齢化と孤立死』。大阪西成地区が、敗戦後のスラム街から日雇い労働者の町、そして福祉の町へと変貌していく歴史と実情、そして将来展望を分析した本。
今回は、あいりん地区に関する書籍から生活保護、福祉と政治について考えてみたいと思います。



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あいりん地区には、今から三年前と五年前に一回ずつ訪れたことがあります。
いずれも大阪旅行に行った際、大学生の頃のことでした。

あいりんに足を踏み入れたのは、世界に冠たる経済大国、日本の最後の「闇」である日雇い労働者の街に足踏み入れてみたいという野次馬根性丸出しの好奇心からでした。ものすごく緊張しながらあいりん地区の真ん中を突っ切って歩いて、大冒険をしたような気持ちになった記憶があります。実はものすごい安全地帯にいながらスリルを味わうようなその感覚は、ホラー映画やお化け屋敷に入るようなもので、当時の自分が恥ずかしいです。

この本を読み、あいりん地区の実情は当時すでにかなり違っていたことを知りました。
現在のあいりん地区は、日雇い労働者の街というよりは、今後日本が進んでいく社会的弱者を支える福祉の街としての性格を強めています。


敗戦後、日本は高度経済成長、大阪万博に伴う建設業ラッシュ、その後プラザ合意後の低金利政策が生んだ不動産ラッシュ(バブル景気)と、肉体労働の働き手を求めていた時代が続いていきます。もともとスラム街だったあいりん地区は、これらの需要を効率良く満たすべき場所として、ドヤ街、日雇い労働者が集合した特異な地域として発展していきました。西成暴動として有名な活動が度々起こり西成のイメージを決定づけたのもこの時期ですが、本質的な問題に踏み込んだ対策がとられたとはいえず、目先の利益を優先した行政の責任も少なからず存在していると指摘されています。

こうしてできたあいりん地区とそこに住む労働者の生活は、その後どうなったか。日本は現在に続く長期不況、低成長の時代に突入します。あいりん地区もその例外ではなく、むしろもっとも顕著な形でその影響を受けました。
バブル崩壊やその後の平成不況、そしてリーマンショックによって、日雇いの仕事を半減、また条件も劣悪なものになり、人々の生活の自立が奪われました。あいりん地区への新規の人口流入は減り、異常な人口構造(単身の成人男性がほとんどで、女子供のいない街)はさらに進み、失職し持ち家のない高齢者が溢れる街となったのが、今の西成です。

あいりん地区に暮らす彼らは、社会のつながりから(それが主体的にであれ、客体的であれ)排除されて生きてきた人々が多いといいます。大多数が何らかの事情から故郷を捨ており、血縁のセーフティネットに頼ることはできません。これまで続けてきた体力仕事の日雇い労働はいずれできなくなり、家や貯金などの蓄財もない。福祉に頼る以外、生きていく方法がない。

この本の後半からラストにかけて、行政の福祉や宗教やその他のアクターによるあいりん地区の人々への支援の実態を追いながら、自分の認識が大きく間違っていたことに気づきました。それは、あいりん地区の姿は、日本の最後の「闇」ではなく、介護と福祉、そのリソースがとても間に合わなくなってくるこれからの日本の最初の「闇」と言えるのではないか、ということです。



就職氷河期世代が今よりもっと年齢を重ねた時、日本中で程度の差はあれ、今あいりん地区で直面している問題と同じものにぶつかるのではないでしょうか。そうなった時、私たちの社会は彼らにどう当たるでしょうか。

近年、生活保護費減額に関するニュースのなかで、「国民感情を踏まえたもの」という名古屋地裁のコメントを見ました。
生活が苦しくなってくると、見下すために自分より下の存在や、楽をしているずるい敵を作ることは歴史が証明するところです。(アメリカのトランプの固い岩盤支持層を見ると、現在進行形で理解することができるかもしれませんね)
人々はどんどん不寛容になる。それを利用する政治家がどんどん出てくる。

日本でも、例えば自由民主党の片山さつきは生活保護バッシングの急先鋒で著名な人物です。外国人が福祉支援を受けることを批判して支持を集める彼女ですが、この人物自体、国税庁との口利きで不正に金を受け取っていたスキャンダルを起こした張本人でもあります。
(2015年、税務調査を受けた企業の経営者から相談を受け、国税庁に働きかけるための着手金として100万円を請求。企業経営者と片山さつき大臣(当時)の音声データが存在し、彼女が国税局長に電話をしていたという事務所関係者の証言まで存在する状態でした。)

社会的に一番弱い立場の人々への攻撃に民衆は寄ってたかって賛辞を送るが、政治家自身の不正に対しては驚くほど甘い。これが今の日本の現状だと思います。リベラルにとっては都知事選の結果は頭を抱えたくなるような状態ではありますが、正しい政治が行われるためにこれをどう変えていくのか、考え続けなければならないと思います。


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