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テロメニア魔導記3(連載第五回)ポーラの眼

掲載期間:テロメニア魔導記3『覚醒者の歌声』出版まで
(2024年 第2~第3四半期 出版予定)
次回更新:5月25日(土)予定
(出版後は1話ずつしか掲載できません※ 製品版をお楽しみに!)

※Amazonの規約により、Kindle以外の媒体に10%以上の文章は掲載できません

登場人物紹介

第二章 魔法学院の残滓


 1 ポーラの眼

 円を幾重にも重ねた球体が宙空に浮いている、円形かつドーム状の不思議な大広間。
 その渾天儀こんてんぎから発せられた光は、半球体の天井に小さな光の粒を映し出し、それがこの広間全体に無数の天体を浮かび上がらせている。壁面を渦巻き状に伸びる緩やかな坂道は、天頂に至る頃には直角に近い角度になるが、この広間を忙しそうに行き来する賢者達は、特に何の苦もなく壁に足を付けて歩みを進めていた。
 ここはレートの塔の最上階に位置する『星読みの間』。すなわちテロメニアの十二賢者達の拠点である。そこに突然、一人の女が血相を変えて飛び込んでくると、十二賢者の統括者に向かっていきなり大声で報告した。
「すまないキール、緊急事態だ!」
 紺碧のローブを纏った魔導師は、その人物の来訪が余程意外だったのか、眼鏡の枠に手を当てながら彼女のことを二度見する。
「これは幻か? 確かお主は、地下の縦穴に幽閉したはずだが?」
 帝亀座の賢者キールの厳しい声が響き渡ると同時に、この広間で星読みに従事していた他の賢者達の視線がそこに集中する。暗緑色あんりょくしょくのローブに身を包み、三色の異なる宝玉をくわえた三匹の蛇が絡まったワンドを持つ若き女魔導師は、幻影ファン魔法タズムの使い手。大蛇座のリーンに違いなかった。彼女は『星読みの間』を一通り見回してから口を開く。
「トールは居ないようだな。不躾ぶしつけは重々承知だが、火急のことゆえに失礼する。彼奴きゃつが来る前に、どうしてもキールの耳に入れておかなければならない問題が発生してしまったのだ」
「一体どういうことだ? 如何いかにお主が練達した幻影魔法の使い手と言えど、あの縦穴から抜け出すことなど不可能なはず。それとも自分は、幻でも見せられておるというのか?」
 二人のやり取りから不穏な空気を察した十二賢者達は、皆誰かの指示を受けることもなく、広間の中央に集まり始めた。更迭されたリーンが勝手に縦穴から抜け出してしまうなど、絶対にあり得ないことである。彼女がキールに何を伝えようとしているのか、それはまだ不明だが、誰もがこれから起こるであろう波乱を予感せずにはいられなかった。
「キール、そして十二賢者達も聞いてくれ。これは我等、十二賢者の問題でもある! 神鳥座の賢者、トールのことだ!」
 五人の魔導師が中央に集まったところで、リーンはそううったえ始めたが、帝亀座のキールが大声を出してそれを制止する。
「待てリーン! 誰がしゃべっても良いと言った? お主の話を耳に入れる価値があるかどうか、それを判断するのはお主ではない。ポーラ!」
「はい、ここに」
 朱色のローブに身を包んだ魔女は、自分の名を呼ばれると、一歩前に歩み出た。
「真実の眼を行使せよ」
「承知しました」
 キールの指示を聞いた十二賢者達の間から、どよめきのようなものが沸き起こり、『星読みの間』は一瞬にして騒然とした空気に包まれた。紺碧の魔導師の指示を受けたポーラは、うやうやしく一礼してから呪文の詠唱を開始する。
「深淵の底をのぞき見る、真理の探究者達よ。の両のまなこに宿した聖光を、いま我が瞳に授け給え……」
 それは全てのまやかしを見破り、幻影や嘘を見抜くという、真実の眼を宿す看破魔法だった。鳳凰座の賢者ポーラは、真相看破や解除魔法など、看破ディヴィネ魔法ーションを得意とするディヴィナーなのである。リーンは目を閉じてポーラの呪文を受け入れるつもりのようだ。もし彼女が何らかの幻影魔法を仕込んでいたなら、呪文の完成と同時に全て暴かれてしまうことになるだろう。キールはその様子を注意深く観察しながら、自分の意図を説明する。
「リーン。お主は経験の浅さこそ否めぬが、逆の見方をすれば、若くして十二賢者まで上り詰めたたぐいまれな才覚を持った魔導師であるとも言える。ましてやお主は、あのビーンの血統を引くイリュージョニストでもある。用心に越したことは無い」
 十二賢者達は皆、固唾を飲んで状況を見守っていた。やがて朱色の魔女の詠唱が佳境を迎え始める。
れは晦冥かいめいを見通す燎火りょうかにして、われを揺るぎなきことわりへと導く道標みちしるべの者を覆い隠す偽りの外套がいとうを取り払い、いま真実の姿を暴き出せ!」
 詠唱が完成すると同時に、彼女の目に真実を見通す力が宿った。そしてポーラは帝亀座の賢者に向かって小さく頷いて見せる。どうやら目の前に居るリーンは幻の類いではなく、間違いなく本物のようだ。それを確認したキールは高らかに宣言する。
「よし、良いだろうリーン。その緊急事態とやらを申してみよ! ただし、心せよ。お主はあくまで、ポーラの視界の中でそれを告げねばならぬのだ。嘘や誤魔化しは一切通用しない。もしお主が嘘をついたり、そのファンタズムワンドで怪しげな幻を展開しようものなら、即座に全てが見破られることになるだろう。その時はリーン、お主を十二賢者から追放する!」
 するとリーンは、特に難色を示すこともなく、紺碧の魔導師に向かって大きく頷いてみせた。
「分かった。一度は任務に失敗し、更迭された身だ。その条件を受け入れよう。だが、今から私が提供する情報に価値があるとキールが認めた時には、私の更迭を取り消して、引き続きシェヘラザード探索の任務を続けさせて欲しい! 私はまだやれる! 曽祖父ビーンから受け継いだ大蛇座の誇りにかけて、魔法王国テロメニアの為に尽力したいのだ!」
「よかろう。だがお主の情報の価値を決めるのは、お主では無い。今お主の目の前に居る十二賢者の統括者、帝亀座のキールであるということを忘れるな」
 キールの承諾を得て、全ての準備が整ったと見たリーンは、淡々と要件を語り始めた。
「さっきも言い掛けたが、緊急事態とは神鳥座の賢者トールのことだ。信じられないかもしれないが、トールは謀反むほんを企てている! 彼は帝亀座の賢者であるキールの命令を無視し、既に確定した多くの情報を秘匿ひとく隠蔽いんぺいしているのだ」
「なんだと!」
 紺碧の魔導師はそれを耳にして驚きの表情を浮かべたが、即座にポーラに視線を移してその真偽を確認する。
「真実です」
 朱色の魔女は小さく頷き、リーンの情報が嘘でないことを証明した。キールは一度、深呼吸とも溜め息とも取れぬ大きな息を吐きだした後、眼鏡のフレームの中央に人差し指をあてがいながらリーンに話の続きを促す。
「続けろ。トールは一体、何を企んでいるというのだ?」
「トールが現在調査中の男装の娘だが、実はあの娘、シェヘラザードに破壊を命じた竜の卵、つまり古代竜ベルゼリーディア=バルバリアの卵から産まれた、特別な娘であることが既に判明している」
 大蛇座の報告を聞いた瞬間、ここに集まった十二賢者達は皆、一様に驚きの声を上げ始めた。
「なんじゃと! ベルゼリーディア=バルバリアの卵から産まれ出た娘じゃと!」
「そそ、それじゃ卵はもう、ととと、とっくの昔にかえってたんじゃ?」
 キールも驚愕の表情を浮かべていたが、すぐに気を取り直すと、朱色の魔女に視線を移す。すると鳳凰座のポーラは小さく頷きながらこう告げた。
「真実です」
 どうやら彼女の両眼に宿った真実の眼の魔法を介して見ても、リーンは嘘を付いていないようだ。それは信じられない報告だったが、しかし真実である以上、キールは十二賢者の統括者として、しかるべき手を打たなければならなかった。
「お主はその情報をどうやって得た? 否、それを誰から聞いた?」
「無論、トール本人から。この事実を突き止めたトールはこれを伏せたまま、秘密裏に古代竜の娘を逃がそうと画策している。私はトール自身の口から、この事実を聞かされた上で、古代竜の娘を逃がす計画の協力を求められたのだ!」
 リーンの報告を受け、十二賢者達の間に戦慄が走る。『星読みの間』に突如もたらされたこの情報は、彼等に衝撃を与えるには十分過ぎる内容だった。キールの鋭い視線を感じ取った朱色の魔女は、彼に対して小さく頷いてみせる。
「真実です」
「なるほど、道理で妖蝶座のシェヘラザードが、どれだけ竜の卵を探しても見つからぬ訳だ。彼奴きゃつがいつ戻って来るつもりなのかは分からぬが、まさか既に卵がかえっておったとはな。だがせぬ。古代竜の娘が既にこの手の中にあることが判明したにも関わらず、何故トールはその事実を隠し、わざわざ古代竜の娘を逃がそうとしておるのだ? そんなことをしてしまったら、数百年前に訪れたという『約束の時』の災厄を、再び招いてしまうかもしれぬではないか!」
「それは……」
 暗緑色の女魔導師がキールの質問に答えようとしたその時、『星読みの間』の下層に当たる前室から、物々しい足音と共に黒灰色こっかいしょくの魔導師アーデンが飛び込んできた。
「トール! 急ぎ、ターニャの手当をう!」
「騒々しいぞ、アーデン! トールは今ここにはらぬわ! 大方、ライール神殿で念仏でも唱えておるのだろう」
 キールは不機嫌そうな声でそう吐き捨てたが、しかしアーデンが両手に抱えている魔女ターニャの姿を見て只事ただごとで無いことを察すると、何があったのか彼に問いただす。
「これは一体、どうしたというのだ! 酷い重傷ではないか!」
「『神々の道』に配置したゴーレムのメンテナンス中、偶然にも妖蝶座の素体『風纏う者』と遭遇。獅子座と共に捕獲を試みたが、『風まとう者』とその従者達の力あなどれず。ゴーレムは貯水池に転落。獅子座は詠唱中に矢を被弾。われは敗走を余儀なくされた」
 その報告を受け、萌木色もえぎいろのローブを纏った老魔導師は腰を抜かして驚いた。
「馬鹿な、信じられんわい!」
「たた、ターニャとアーデン、それそれそれにゴーレムが居ても捕獲できないんじゃ……もも、もう妖蝶座を捕まえるのは無理……なんじゃ?」
 鳶色とびいろのローブを纏った背の低い女の言葉に、キールも深くうなずく。
「セライナの言う通りだ。にわかには信じられぬ。従者が付いているとは言え、妖蝶座はいつの間に、それほどの力を手にしたと言うのだ?」
 獅子座のターニャは十二賢者の中でも、最も強力な破壊エヴォケ魔法ーションの使い手である。そして猛牛座のアーデンも、別の意味で最強の力を持った魔導師だった。彼等の力をもってしても妖蝶座を捕獲できないのだとすれば、シャーレが初めて『風纏う者』と遭遇した際、それを取り逃がしてしまったことも、決して彼の怠慢ではなかったのだろう。だがアーデンは首を横に振って、十二賢者達の言葉を否定した。
「違う、そうではない! われが破れたのは妖蝶座にあらず。既に妖蝶座は、『風纏う者』の体の中にはらぬようなのだ!」
「なんだと! それは一体どういうことだ?」
「つまりわれは、純粋に冒険者『風纏う者』と、その一行との戦いに破れたということ。『風纏う者』の従者は、自らカーリーと名乗り、われにこう言った」
 そして黒灰色の魔導師は、その時の言葉をキールに告げる。
(我らがリーダーはシェヘラザードにあらず! 彼の名はカータ! かつて『風纏う者』と呼ばれ、その名を世にとどろかせた、真に勇敢な最後の冒険者だ!)
「なんと、それはまことか!」
 紺碧の魔導師はそれを聞いて素直に驚いた。如何いかに『風纏う者』の身体能力を有しているとは言え、ターニャとアーデンの二人が、精神魔法の使い手である妖蝶座のシェヘラザード相手に遅れを取るなど有り得ない。だが冒険者パーティが相手となれば、大きく話が変わってくる。テロメニアの十二賢者と言っても、所詮は魔導師。魔導の道を極めんとする魔導師は、常人を遥かに凌ぐ魔力を有しているものの、しかし戦いの専門家では無い。アーデンいわく、ターニャは詠唱中に矢を被弾したと言っていた。獅子座のアーティファクトは、非接触による妨害から術者の集中力を保護するウィザーズリングである。しかし組織的な戦いに練達した冒険者パーティを前にして、一切の物理的な妨害を受けることなく、長い呪文の詠唱を完成させるのは至難の業なのだ。
「それでアーデン、冒険者『風纏う者』はその後、どこに向かったのだ?」
 キールの質問に対して猛牛座の賢者は、彼等が去っていった方向を思い出しながら口を開く。
「『風纏う者』とその一行は、七階層の方に下りて行った。その目的はまだ分からぬが、もしかしたら冒険者ギルドから、魔法学院跡地の調査依頼を受けているのやもしれぬ」
 ポーラは黒灰色の魔導師から重傷を負ったターニャを受け取ると、彼女を横にして傷の応急措置を施していく。他の十二賢者達がその様子を見つめる中、リーンはさっきキールに聞かれた質問に答え始めた。
「アーデンの言うことは半分正しい。妖蝶座の素体だった少年『風纏う者』は、既に妖蝶座ではない。一方で『風纏う者』の目的は、冒険者ギルドの依頼などでは無い。その目的はただ一つ、彼奴きゃつの仲間である古代竜の娘を連れ去ること! それを知ったトールは古代竜の娘に同情し、彼奴きゃつに協力しようとしている。つまり古代竜の娘を逃がし、『風纏う者』の元に返すことこそが、ライール神の教えに基づく道義的な行動であると、トールはそう信じ込んでいるのだ!」
 リーンの言葉を受けて、鳳凰座の魔女はキールに小さく頷いてみせる。
「真実です」
 何人なんぴとたりとも真実の眼の魔法をあざむくことは出来ない。また、ターニャとアーデンの敗走は、リーンの報告を完璧なまでに裏付けていた。キールは何度も繰り返し頷くと、興奮気味に口を開く。
「なるほど! 古代竜の娘は、シェヘラザードの素体だった少年『風纏う者』と、親密な関係にあったということか! それでトールは、その冒険者『風纏う者』の元に、古代竜の娘を逃がそうとしておるという訳だな! 実に素晴らしい情報だ! リーンよ、約束通り、お主の更迭を取り消そう! 引き続き、大蛇座の賢者として、その任務を全うするがいい!」
 帝亀座の賢者はリーンの情報に、心底満足しているようだ。暗緑色のローブを纏った女魔導師は、その場でひざまずいて深くかしこまった。
「感謝する、キール。私は引き続き、シェヘラザード探索の任に就く。かつて妖蝶座の素体だった『風纏う者』の中に、もう妖蝶座は居ない。だがシェヘラザードは、今も必ずどこかに居るはずだ。私は妖蝶座を探し出し、必ずここに連れ帰る。それがたとえ、死体であったとしても」
 彼女はそう言うと立ち上がり、颯爽と『星読みの間』から退出していく。その目には強い決意のようなものがみなぎっていた。そんなリーンの後ろ姿を見送りながら、キールは考えを巡らせて口を開く。
「愚かなり、売国奴トール! まさか自分の指示を無視して、あの娘の調査を放棄するばかりか、恐るべき『約束の時』の再来を招きかねない暴挙に出ようとは! 古代竜をこのテロメニアの地に放つなど愚の骨頂! 以前より彼奴きゃつは冒険者を使うことを嫌っておったが、ならば自分も最大の策をもってして、これに応じねばなるまい」
 本来、十二賢者の統括者である自分に謀反を起こすなど、絶対に許されないことである。しかしキールは不思議なことに、心躍るような感覚を噛み締めていた。帝亀座の魔導師は自分の考えが纏まると、鳳凰座の魔女の名を叫ぶ。
「ポーラ!」
「はい」
「トールを除いたテロメニアの十二賢者を全員、ライール神殿に招集させるのだ!」
 帝亀座の賢者の命令を受けた朱色の魔女は、首を傾げながら聞き返した。
「トール以外、全員……でありますか?」
「そうだ、同じことを何度も言わせるな! ほかにどのような意図があるというのだ?」
 こうなってしまった以上、最早小細工は必要ない。キールは最も正攻法と思えるやり方で、トールの謀反に対応することを心の中で決めていた。しかしポーラは口を開くと、かしこまりながら彼に現状を報告する。
「たった今、リーンはここをってしまわれました。それにシャーレも、大人しく招集に応じるとは思えません。またエリザベータも依然として行方をくらませたまま。招集できる十二賢者は、トール以外にも多いかと……」
「そうであったな、リーンは招集を免除してやっても良い。だがシャーレは招集しろ! そもそも彼奴きゃつはリーン更迭後、その後継として『風纏う者』追跡の任に当たらせておったはずだが、一体どこで何をやっておるのか! 彼奴きゃつが真面目に動いておれば、ターニャが深手を負うこともなかったであろうに! あの不真面目な天馬座は、一体どこに行ったというのだ?」
 不機嫌さを隠そうともしないキールの言葉を受けて、鳳凰座の魔女は呪文の詠唱を開始する。
「大いなる力の泉、知識の源泉よ。われは今、新たなる智見ちけんを欲するものなり。われが欲するは、我の記憶に刻まれし、の者の居処きょしょにあり!」
 それは特定の紛失物や人間の行方を、即座に見つけ出すことの出来る看破魔法だった。術者は探す対象を事前によく知っておく必要があるが、余程遠く離れていない限り、対象の正確な位置を割り出すことが出来るのだ。
「シャーレを見つけました。現在、峡谷きょうこくの底、かなり深い位置に居るようです」
「呼べ、今ぐに!」
 シャーレの居場所を聞いたキールは、苛立ちを隠せない様子でそう命令した。
「はい、ただちに」
 冒険者ギルドの報告によると、眠り人の隠れ里『峡谷きょうこくの村』は既に焼失したという。だとすれば、そのような辺鄙へんぴな場所で、シャーレは一体何をやっているのだろうか。ほかに眠り人の集落が残されているとしても、妖蝶座の探索をしている訳ではないことだけは確かなようだ。
「あと魔導兵も集められるだけ招集せよ。今回の問題、冒険者ギルドは一切使わず、テロメニアの魔導師だけで解決に当たる。きっとトールも、それを望んでおることだろう」
 キールは決してトールのことを、十二賢者から排除しようなどと考えている訳では無い。キールは魔導師としての彼の力を、十分に認めているのだ。だが、ライール神殿の責任者でもあるトールは、魔導師であると同時に、神の教えに準ずる高位の司祭でもある。その異端な考え方は、生粋の魔導師であるキールには到底、理解できないものだった。
 キールの耳に彼の言葉がよみがえる。
(冒険者ギルドを? それだけはおめになった方がよろしいかと……)
(十二賢者の問題は、あくまで我ら十二賢者で解決すべきでしょう)
 神鳥座の賢者は事あるごとに、冒険者ギルドを使うことを嫌がっていた。だからこそ、彼が最も望む方法で、この問題を解決するべきだろう。もしトールが政敵として自分の前に立ちはだかったとしても、キールの方に分があるのは間違いない。帝亀座は十二賢者の統括者として、他の賢者達を取り纏め、彼等を手足のように操ることが出来るのだ。
「そう、これはトール、お主が望んだ結果なのだ。テロメニアの魔導師の力、あなどるでないぞ」
 キールは数の力で神鳥座の賢者を叩きのめすつもりなど毛頭無い。ただ、十二賢者を招集し、彼等を自分の列に並べることで、帝亀座には絶対にかなわない。そうトールに分からせることが出来れば、それで十分だったのだ。

次回、テロメニア魔導記3『覚醒者の歌声』
(連載第六回)魔法学院の残滓は、5月25日(土)更新予定です!
お楽しみに!


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