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【セブン&アイホールディングス】第2回(全2回) 好調のセブンイレブンは次の未来を描けるか

第1回で紹介したように、セブン&アイの主力であるセブンイレブンは日本と世界で1番利用されているコンビニです。2020年2月期も増益と、好調を維持しています。

しかし一方で、24時間営業問題や、オムニ7の見直し、7payのサービス停止といった問題も、近年耳にするようになりました。

今回はこのセブンイレブンを中心に、セブン&アイがどのくらい大きな会社なのか?、どのくらいもうかっているのか?、を決算の数字と共に紹介し、その強さの理由から、近年の問題までを紹介したいと思います。

(前回の記事)

1.セブン&アイって、どのくらい大きいの?

営業収益は6兆7912億円、、、大きさが想像できますか?

セブン&アイの営業収益は6兆7912億円(※1、2)です。

、、、いきなり6兆と言われても、大きすぎて想像できないのではないでしょうか? 今回は、その大きさがイメージできるように、もう少し詳しく見ていきます。

(※1)営業収益と売上高の違い:会社は決算の時に、物を売った時の収入を「売上高」、賃料やライセンス料などの手数料をもらう時の収入を「営業収益」と使い分けます。(両方含まれているときは割合が多い方)セブン&アイは手数料ビジネスのセブンイレブンが大部分なので「営業収益」を使用しています。 (※2)2019年2月期の営業収益です。記事は統合レポートを元にしているため、2019年2月期の情報で統一しています。なお、2020年2月期の売上高は6兆6444億円です(前年から2.2%減)。

日本では、毎日、2400万人が、900円の買い物をしている

まずは、買い物の量で考えてみます。すると、日本では実に365日毎日、2400万もの人がセブンイレブンやイトーヨーカドーなどセブン&アイの店で買い物していることになります。買い物金額としては1人1日900円ほど(※3)です。

毎日、日本人口の5人に1人が、1つの会社のお店を利用しています。これは、セブン&アイのお店が「日本人のほぼ全員の近くにあり」、「365日いつでも営業しており」、「買いたい商品が置いてある」ことで、ようやく実現できる数字と言えます。

(※3)セブン&アイの営業収益はセブンイレブン本部が店舗からもらう手数料の金額なので、これを店舗での商品売上に直して計算しています。国内での店舗売上金額としては約7兆7200億円としています。(セブンイレブンジャパンのHP:チェーン全店売上高推移を参考に計算)

日本ではほぼ飽和状態といえるシェア

この規模を市場シェアという視点からも見てみましょう。日本の食品小売業界のうち、コンビニ業界の割合は37%です。これはアメリカと並んで世界トップの利用率です。その大きな市場の中で、セブンイレブンは実に44%のシェアを有しています。

既に47都道府県にも進出済みで、日本全国に広く根づいていると言えます。

海外はまだ伸びる余地あり

一方で世界を見てみると、セブン&アイの海外戦略はほぼセブンイレブンのみの話となります。

セブンイレブンの利用者は海外で1日4000万人程度います。しかし、実はコンビニは食品小売としては少数派の販売形態です。世界ではスーパーや、個人店がまだまだ主役で、コンビニの比率は5%ほどしかありません。コンビニの市場規模自体は、アジアを中心に伸びており、海外ではまだ拡大余地を有していると言えます。

実際にセブンイレブンも近年、海外での拡大を加速しています。2017年には米国のSunoco社からコンビニ事業の一部を取得し、店舗を1000店ほど増やしました。また、その前年の2016年にもアメリカのCST Brands社とカナダのImperial Oil社の買収を行っています。

2020年にも、米石油精製会社マラソン・ペトロリアムのガソリンスタンド部門のスピードウェイ買収(約4000店)の交渉がニュースになりましたが、こちらは金額の折り合いがつかず断念しています。


2.どのくらい儲かっているの?

セブンイレブンはすごく儲かっている。他の事業も黒字だが利益は少ない

セブン&アイの営業利益の事業別割合

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(セブン&アイ統合レポート2019より)

セブン&アイグループの営業利益は4115億円です。このうち、コンビニ事業の3389億円(79.5%)と、金融事業(セブン銀行)の528億円(12.4%)で、およそ9割と大部分を占めています。

営業収益の3割弱を占めるスーパーストア事業の営業利益は211億円(5%)ほどしかなく、百貨店事業にいたっては37億円(0.9%)ほどしかありません。各事業とも黒字ではあるものの、その利益額には大きな偏りがあります。

しかし、事業規模も異なり、事業ごとの業界の平均利益率も異なります。このため単純に、スーパーや百貨店が弱いとも言えないかもしれません。そこで、どの事業が他社と比べて優れているのか、各業界での順位も比べてみました。

セブンイレブンはコンビニ業界ではダントツの1位

下のグラフのように、セブンイレブンは国内のコンビニ3強の中では抜きんでた営業利益率を有しています。

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(会社法計算書類、有価証券報告書より)

イトーヨーカドーは競合のイオンと共に、低い利益率

イトーヨーカドーが営むGMSの業界では競合会社としてイオンがあげられます。GMSは元々大量仕入れと低価格を特徴とする業界のうえ、近年は衣料専門店やディスカウントストアに押され非常に苦戦しています。

このため、近年は両社とも営業利益率が1%を下回っています。

なお、セブン&アイグループのスーパーストア事業には食品スーパーのヨークベニマルもありますが、こちらは営業利益率2%ほどを稼いでおり、こちらは利益に貢献しています。

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(会社法計算書類、統合レポートを元に作成)

そごう西武は、百貨店業界の中でも低い利益率

最後に、百貨店のそごう西武ですが、こちらは厳しいといわれる百貨店業界の中でも、低い利益率となっています。

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(以前の記事のグラフを元に作成)

さて、改めて見るとコンビニ事業以外は業界の中でも平均的または苦戦しています。ではなぜ、セブンイレブンだけが規模、強さともに突出しているのでしょうか?

3.セブンイレブンはどうしてこんなに強いの?

強さの秘訣は「基本の徹底」×「変化への対応」

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セブンイレブンのの強さの理由は、昔から分析がなされていますが、まず紹介されるのは「基本の徹底」と「変化への対応」の2つのスローガンです。

「基本の徹底」は、上の図のような4つの基本原則が含まれます。そして、もう一つセブンイレブンの強さを示すのが、「変化への対応」です。

セブンイレブンは創業から社会の変化に合わせて常に変化に挑戦し続けてきました。今回は、セブンイレブンが日本初、あるいは今では欠かせない、というような大きな挑戦だけ紹介します。それでも、僅か40年足らずの間に6つもあります。

1974年 日本初のコンビニの開始

米国の7-Elevenとライセンス契約を結び、日本で初めてコンビニエンスストアを始めました。もともとは、スーパーが食品小売市場を制圧していく中で、危機に瀕し反発する個人商店に対し、「既存中小小売店の近代化と活性化」、「共存共栄」を図るという理念で始められました。

1975年 24時間営業の開始

生活スタイルの変化する中で、深夜の営業ニーズを捉え、今では当たり前となった24時間営業を開始しました。

1976年 日本初の共同配送の開始

当時、大手メーカーは自社の物流で各店舗に配送をしていたため、店舗に来る配送車は1日に70台にもなりました。このやり方は、コストにも環境にも優しくありません。

これに対し、セブンイレブンがメーカーと交渉し、違うメーカーの商品を同じ車両で配送するという日本初の共同配送を、商品ごとに順次実現しました。

1982年 日本初のPOSとバーコードの導入

セブンイレブンはアメリカでレジの打ち間違いや不正防止目的で使われていたPOSシステムを日本に持ち込み、世界で初めてマーケティングに活用しました。

1987年〜2001年 社会インフラへ~公共料金収納からセブン銀行設立

1987年に東京電力の料金収納代行を始めたことを皮切りに、公共料金の収納代行や郵便物の取り扱いなど社会インフラとしてのサービスを充実させていきました。特に、2001年には自らセブン銀行を設立し、営業時間が短く不便だったATMを、いつでも近くで使える便利なものにしました。

2007年 セブンプレミアムの開始

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(セブン&アイホームページより)

2007年からはプライベートブランドのセブンプレミアムを開始しました。イオンに比べると後発でしたが、10年で売上高は1兆4000億円まで増加しています。単身や共働き家庭に便利で、味の良い商品を多数提供しています。


ご紹介した6つの変化は、どれもセブンイレブンのみならず、今のコンビニ業界や私たちの生活に欠かせないものばかりです。いったいなぜ、1つの会社がここまで大きな挑戦を続けてこれたのでしょうか?

その理由にはたくさんの人と、組織としての理念や行動の積み重ねがあります。しかし、この記事では、その中でも欠かせない理由の1つを紹介したいと思います。

40年間の変わらぬ変化には、経営者抜きには語れない

これだけの成長を遂げたセブンイレブンは、1973年の創業から2016年までの間1人の経営者によって運営されていました(※4)。流通の神様とも呼ばれた、鈴木敏文さん(現セブン&アイ名誉顧問)です。

その経営哲学や、経営手法は研究され、多数書籍もでています。鈴木顧問という類稀な経営者が、一貫して経営をおこなっていたということは、セブンイレブンが変わらぬ変化の実現してこれたことの、欠かせない要因です。

ただし、鈴木顧問は2016年(当時は会長)に引退を表明し、現在は顧問職となっています。退任のきっかけは、現社長の解任を取締役会に否決されたことに起因していますが、当時既に84歳だったこともあるのだろうと思われます。

(※4)1992年以降は親会社であるイトーヨーカ堂の社長や、会長として経営していました。

「変化への対応」は止まってしまった?

セブンイレブンは、上記の大きな変化を概ね10年ごとに続けてきました。順風満帆に見えるセブンイレブンですが、ホームページの「変化と挑戦の歴史」(下写真)をみていると、一つのことに気づきます。

実はセブンプレミアム以降、大きな変化がなくなっているんです。2015年以降に至っては、店舗展開の場所の拡大のみで、何の記載もありません。

(セブンイレブンホームページの「挑戦の歴史」の一部(2007年以降))

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足元で続く、問題の発生と挑戦の失敗

さらに、2015年以降は問題の発生や、挑戦の失敗が続いています。

人手不足などの状況もあり、セブンイレブンと加盟店との間で、24時間営業に対する問題が発生しました。これに端を発し、経産省も意見を出すなど業界全体で大きな問題となり、セブンイレブンは24時間営業の見直しを迫られ、時短営業の実証実験も開始しています。

また、2015年に開始したオムニ7 (※5)というサービスは、売上高1兆円の目標を立てていましたが、売上高は1000億円ほどの規模で頭打ちとなり、早くも計画の見直しを迫られました。

(※5)オムニ7:百貨店、スーパー、コンビニといった別業態の商品をグループ横断で購入できるECモールのこと。実店舗とECの境界を無くすという、「オムニチャネル」の考えをセブン&アイで実行しようとしたもの。

さらに、2019年には、電子決済サービスの7pay(セブンペイ)を開始しました。しかし、このサービスはセキュリティ上の問題で不正利用のターゲットとなり、7月1日のサービス開始から、何とわずか3か月でサービス停止を決定することになりました。

https://www.7andi.com/company/news/release/201908011500.html

このように、好調な業績とは対照的に、ここ数年は創業からの経営者の変更や、社会変化による問題の発生や、新たな挑戦の失敗なども起きています。大きな変化のタイミングを迎えつつも、その変化に苦しんでいるように見えます。

4.セブン&アイ・ホールディングスのまとめとこれから

優位性を有するセブンイレブンと、苦戦するスーパーや百貨店

これまで見てきたように、セブン&アイグループは、市場で圧倒的優位性を有するセブンイレブンが、苦戦するスーパーストアや百貨店などを支えている会社です。

セブンイレブンは、国内での競争力も高く、海外での拡大余地もあり、非常に有望な事業といえます。今回のコロナウイルスの状況の中でも、コンビニ事業の2020年2月期は前年とほぼ変わらぬ業績を維持しています。オフィス付近の店舗では減収は避けられないものの、自宅で食事することが増えたので、セブンイレブンの利用が増えたと言う人も多いのではないでしょうか?

対照的に、スーパーや百貨店は不採算店舗の縮小を進めていますが、低迷は長く続いており、その改革には時間がかかっているようです。

現在は盤石。30年後のセブンイレブンはどうなっているか?

セブンイレブンは、創業からの変わらぬ挑戦と変化で勝ち取った圧倒的なリードで、この先30年は利益を出し続けることでしょう。

しかし、小売業界の変化は早く、百貨店からスーパーとGMSへ移り、そしてコンビニへと時代は移ってきました。百貨店は生き残りのために再編し、GMSの覇者ダイエーはその名前を消し、コンビニもサークルKやampmがその名を消し、再編が進みつつあります。

そんな中、セブンイレブンも、他のセブン&アイグループも、次の時代への変化を描くのには苦しんでいるように見えます。ここ数年間、セブンイレブンでさえ大きな変化をすることはできていません。

「変化への対応」という理念が変わってしまったのだとしたら、セブンイレブンとセブン&アイの時代もまた、輝きを失ってしまうのかも知れません。

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