コレクション
フランスに住む資産家の男の楽しみは、週に一度、彼の豪邸にやってくる古物商から珍しい品を買うことだった。
その日も、馴染みの古物商がやってきて、広大な庭の青々とした芝生の上に、厚手の絨毯を敷き、一定の間隔で商品がひとつひとつ丁寧に並べられていった。年季の入っていそうなテーブルや、きらきらとした装飾の施された箪笥、玉座のように見える椅子に、何者かの絵画、煌々と光を反射する食器類など、その品ぞろえは多岐に渡っている。
資産家の男は、庭がよく見えるテラスでその様子を眺めながらワインを傾けていた。並べられた品々は、一見すると、ただの豪華な家具や美術品であって、男の興味は別のところにある。それらの品々にまつわる逸話だ。男が収集しているのは、骨董品そのものではなく、その物が持つストーリーなのだ。
商品を並べ終え、歩み寄ってきた古物商に男は尋ねた。
「それで?今日は、どんな品が入ってるんだ?」
「えぇ、えぇ、今日もいろいろとご用意させていただきましたがね。一番のおススメは、あちらに見える置物にございます」
古物商は、並んでいる商品のちょうど中央辺りを指さした。そこには、小さな台の上に人間の頭蓋骨が乗せられていた。
「あちらはですねぇ、実際の人間の頭蓋骨を用いたオーナメントでございます」
「ほほう。いやしかし、ミイラの類であれば、以前エジプトで秘密裏に発見されたというものを買ったばかりじゃないか」
男は、珍品収集家ではあるが、あくまでその品が持つ物語を重視している。ただの人間の骨というだけでは、男のそそるところではなかった。不満をこぼし、他にはないか、とつぶやく男に古物商はつづけた。
「いやねぇ、旦那様。あの頭蓋骨、18世紀に実在したとある伯爵のものでしてねぇ、」
「18世紀…?まさか…」
「そのまさかでございます。奇跡の錬金術師と言えば、名を出さずともお分かりでしょう?その不死の伯爵の頭蓋骨なのでございます。」
「ほう…。しかし、あの不死の伯爵の頭蓋骨がなぜここにあるのだ。不死であればここにあるのは別の人間の者じゃないのか?」
「いいえぇ、不死の伯爵は錬金術のほかにも、時間旅行や予言、転生術など様々な魔術の類に精通しておられました。彼は人から人、また物から物へと転移を繰り返し、今もどこかで生きているのです。そして、あの頭蓋骨は、伯爵の最初の体についていたモノなのでございます」
男は、なるほどと緩く頷き、頭蓋骨を遠目で見つめた。
「まぁ、その話の真偽はどうであれ、珍品には変わりないな。面白い話だ、今週はあれを頂くことにしよう」
「あいぃ、毎度ありがとうございます」
古物商は、頭蓋骨の乗っている台座ごと男の手元まで運び込み、使用人から料金を受け取った。取引が完了すると、広げられた品々を手際よくしまい込み、男に一礼し、豪邸を後にした。
古物商が返ったあとも、男はテラスでしばらくワインを飲み続けた。購入したばかりの頭蓋骨を見つめながら独り言つ。
「不老不死か…。うらやましいもんだね」
すると、どこからともなく声がした。
「そんなにいいものでもないさ」
台座の頭蓋骨は、心なしか笑っているように見えた。
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