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善と、悪と、愛と

連続殺人鬼に次いで爆弾魔か。いったいどうなってんだ、この街は。名探偵でも住んでるのか?だとしたら、さっさと容疑者を全員集めて、真犯人を指さして欲しいもんだ。

「ぅあっぢぃっっ!!」

…何やってんだ、小林。

「えー、野上さんじゃないスか、コーヒー淹れてくれって言ったのー」

ああ、そうだな。火傷をしろとは言ってない。

「うわっ、ヒドッ。そんなんだから捜査本部から外されるんスよー」

うるせぇ。あと一歩だったんだよ。あと…一歩の、ハズなんだよ…。成果ばっかり見て、現場がわかっちゃいないんだ、お偉方は。

「そうっスねぇー」

何にニヤついてんだ、気色悪い。それに、外されたのはお前も同じだろうが。

「自分は野上さんの直属の部下だからっスよ。まぁでも、自分は殺人鬼より爆弾魔の方がいいっスね」

なんでだ?

「だって今回の連続殺人、被害者はみんな絞殺されてるんスよね?絞殺って苦しそうじゃないスか。自分は死ぬんなら爆死がいいっス。苦しむ間もなく一瞬で弾け飛びたいっス」

縁起でもないことを言うな。というかなんで死ぬ前提なんだ、お前。爆弾魔だけでも先に捕まえるんだ。これ以上被害が広がっちゃあ、警察のメンツ丸つぶれだからな。そして、さっさと捜査本部に戻って、殺人鬼の野郎を…。

「分かってますって。一つの街に凶悪犯は、ふたりもいらないっスもんね」

ひとりもいらねぇよ、バカタレ。分かったら、さっさと資料に目ぇ通せ。

「うーっす。ふー、あちち…」

(ヴーヴッ!ヴーヴッ!ヴーヴッ!)

はい、野上。…そうか。場所は?…分かった、すぐに向かう。小林、出るぞ。

「あいっ。…あの、コーヒーは?」

「しっかし、爆破予告なんて。警察ナメてんスかね」

さぁな。爆弾魔の気持なんかわからん。それに本当に爆発物があるかもわからんしな。

「うへぇ、罠かもしれないってことっスか」

ああ、可能性はゼロじゃない。が、行かないわけにもいかんからな。こういう放火や爆破を好む犯人は、自分の成果を見るために現場近くにいることが多い。

「犯人は現場に戻るってやつっスねー。殺人鬼も案外、現場近くにいるとか?」

どうだかな。あっちの方は、かなり厄介な相手だ。こっちがどれだけ厳重に捜査網を張っても、それをすり抜けてくる。捜査本部の何枚も上手…いや、文字通り2手3手先まではっきりと掴んでやがる。

「べた褒めじゃないっスかー」

褒めてなどない!ニヤニヤするな、気持ち悪い。どこまで行っても、所詮はただの人殺しだ。無差別に命を奪うなど、人間の心なんか持ち合わせておらんのだろう。いったい何のために…

「あっ、そこ左っス」

…もっと早く言えよ。ていうか、聞いてたか、俺の話?

…思ってたよりも広いな。遊具はないが、屋根付きのベンチに、トイレ、小川に掛かった橋、ゴミ箱、街灯、ランニングコースに並んでる植木…これは骨が折れそうだ。

「野上さん。公園内の一般人の避難は完了してるらしいっス。爆弾はまだどこにあるか不明で。このあと追加で応援も来るとのことっス。爆破まではあと…40分ほどっスね」

よし、分かった。じゃあ俺たちも探すか。見つけたら処理班に報告。もし予告の時間ギリギリだった場合は、すぐにその場を離脱しろ。周りに応援がいたら、近づかないように指示を出せ。

「了解。じゃあ、自分はあっちを見てきます」

そっちは出口だ。向こうの屋根付きの方を頼むぞ。

「…はーい」

っっどごおおおおお!!!!ぉぉぉぉんんんん…

クソっ、やられたか!…向こうの方だな…!

「野上さん!大丈夫っスか!」

ああ、大丈夫だ!爆発があった方に行くぞ。爆弾がひとつとは限らん、警戒を怠るな!

「了解っス!」

…いや、待てよ。…逆だ。公園の外周に行く。

「…犯人がいるかもしれない、っスか?」

ああ!外から爆発が確認できる場所だ。…西にあるトイレ横の入り口…!行くぞ!

「はいっ!」

…ックソ!思ったより人が多い!そりゃあそうか、あれだけの轟音だもんなぁ!…どこだ…どこにいる…。丹精込めて設置した我が子なんだろう…。必ず見届けに来るはずだ…!

「野上さん…!あれ、見てください」

ん?あれは…ドローンか?…そうか!ドローンなら直接、自分が現場に残る必要はない…。操縦の電波が届く範囲となると…下ではなく、上か!

小林!お前はドローンを追え!さすがに直接手元に帰還はさせないだろうが、手掛かりがつかめるかもしれない!

「分かりました!野上さんはっ?」

…俺は、向こうだ。ドローンが回収出来たら、応援を呼んでくれ。

「…向かいの、マンションっスか?…なるほど、了解っス!」

(ダンダンダンッ!!)開けろ!…はぁ、はぁ…。ここだろう!!はぁ、はぁ…ふぅー。中年のおっさんをこんなとこまで走らせやがって…。(ダンダンダンッ)おい、開けろ!…ッチ、仕方がない。…いちにいの…さんっ!!(ドンッ!!)…いっ…つぅー…。ドラマみたいみゃ行かねーか…。(ガチャガチャガチャ!!)開けろー!おいっ!

…まぁいい。どうせ逃げ場なんかないんだ。そのままで聞け。今すぐ出てくれば、ある程度こっちで酌量してやれんこともないぞ。それとも、何か。このまま、一生この部屋から出ないつもりか。一か八か窓から飛んでみるか。ナイアガラの滝に落ちて生きていた人間もいるくらいだ、マンションの8階なんて屁でもないだろ。そうだ、お得意のドローンに助けてもらえばいい。

「野上さん!」

おお、小林。早かったな。

「…はぁ…はぁ、ドローンが急に停止したんスよ。っふー…ほらこれ。」

じゃあやっぱりこの部屋で間違いないな。何とか開けられんか、これ。

「ぶちやぶりますか、ドラマみたいに」

よし、二人なら出来るかもしれん。…行くぞ、いちにいの、さんッ!

(バゴンッ!!)

…っふー。悪いね、おもちゃで遊んでるところ。

「これには爆弾ついてないんスねー。ていうか、なんでこの部屋ってわかったんすか?野上さん」

ドローンの操作が可能なギリギリの距離、見晴らしのいい高めの階層、その中でも窓が開いていた部屋はここだけだった。長距離飛行の場合、出来る限り遮蔽物が少ない方がいいもんなぁ、少年。何、間違っていたら…

「間違ってたら?」

謝ってたさ。悪いことをしたら、ごめんなさい、だ。

「…自分、野上さんの方がよっぽど怖いっス」

ふん、お前に毒されたのかもな。…さぁ、大人しく捕まってくれるか。っ!!

(カチャッ!)

小林っ!打つなっ!…銃下ろせ。君…こんな狭い部屋で、そんなもん爆発させたら、どうなるかわかってるんだろうな…?まださっきのドローンに乗って窓から脱出の方が現実味があるぞ。…まだ人的被害は出ていないんだ。見たところまだ若いだろう。このままじゃ連続殺人鬼と同じになっちまうぞ。取り返しがつかなくなる。分かったら、それを床に置け。抵抗しなければ、こちらだって何もしない。…小林、下ろせ。

「…野上さん。やっぱり野上さんは、捜査本部にいるべき人間っスよ。自分、かくれんぼより鬼ごっこの方が好きなんで」

お前、何言って…止めろっっ!!!こばやs…

っっぼごおおおおおおおお!!!!ぉぉぉぉんんんん…

目が覚めたら病室だった。

俺の左腕は、小林に届かなかった。

爆心地に居た少年も、当然のごとく即死だったらしい。

俺はというと、差し伸べた左手が爆風に巻き込まれ、飛び散った破片などによって、神経が裂傷、再起不能となった。が、偶然、搬送先の病院で同日に事故死した者がおり、移植手術を受けることができた。と言っても、ずっと気を失っていて、まったく覚えていないのだが。

今はまだうまく動かせないが、リハビリ次第では現場復帰も出来るということだ。移植手術の規定で、ドナーを知ることはできないらしい。感謝してもしきれない思いが伝わって欲しいと願うばかりだ。

その夜、俺は息苦しくて目が覚めた。

…んぐっ…ぐ…が…何、だ…!…ぐ…ゲホッ!ゴホッ!!…ゴホッ!…はぁ、はぁ…誰だ!!

どうやら、何者かに首を絞められていたようだ。首にまとわりつくものを払いのけ、周りを見渡したが、誰もいない。病室のドアが開いた形跡もない。窓は…開いていない。自分が映っているだけだ。右腕で、左腕を必死に抑えている自分が。

…そうだったのか。ドナーは。犯人は。…お前だったか。

左手の小さな火傷を見つめ、大きく、息をついた。

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