短編ファンタジー小説『夢のハワイ、ハワイの夢』#4カミガムの森の入口
#4カミガムの森の入口
カミガムの森は、太古、火山の噴火口だったカルデラ盆地の底にある。
私を乗せた列車は、噴火口の内壁に当たる山腹を、螺旋階段がぐるりと1周するように大きく迂回しながらゆっくりと下りていく。
車窓から、はるか下に青い湖とうっそうと茂った深い緑の森が見えている。
半分くらい下りてきたところに中間駅がある。行き違い列車を待つため停車する。停まっている間にトイレに行けと言われる。トイレには行きたくないが、タバコを吸いに降りる。プラットホームは線路の傾斜がきついので斜めになっている。
一番上の端が喫煙場所で、灰皿が置いてある。そこまで上って、タバコに火をつけた。
プラットホームから山側を見上げると、木々の間にどぎつい赤や毒気のある黄色の、原色系の花があちこちに咲いている。空気がじっとりしている。タバコの煙が青白く漂っている。
盆地の底からのろのろと、あえぐように列車が上ってきた。貨物列車だ。
スピードが遅い上に編成が長い。行き違いが完了しないと出発できない。
1両2両3両・・・、20、30・・・101、102、103、104、コンテナの列が延々と続く。羊を数えているわけではないので眠くはならない。
(というか、これは夢ですでに寝ているのだ・・と薄々は気づいている)
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谷底の駅に着いた。カミガムの森の入口。
列車を降り改札を出て山門のような鳥居のようなゲートをくぐると、「Kamigum Visitor Center」に着く。
「ここから先はガムを噛んではいけません」
ガイドが今まで何千回となくすべったであろうジョークを言う。もちろん誰も笑わない。
「カミガム・ビジターセンター」は、ジャパニーズスタイルにチャイニーズスタイルをこね混ぜて、コロニアル様式を隠し味にして、ワビサビをトッピングした古めかしい建物だ。
10畳ほどもある玄関には大きな銅鑼が吊り下がり、虎皮の敷物が恨めしそうに来客を見上げている。
靴を脱いで玄関を上がり、建物の左側を回り込む濡れ縁を進めば、右手に障子で仕切られた小部屋がいくつも連なっている。
濡れ縁の左側は森の周縁部につながっている。荒れた庭、落葉と苔、日が差さないので陰鬱な表情を見せている。
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建物の一番奥に百畳の大広間があると聞いている。そこでガイダンスとウエルカムパーティーが行われることになっている。
が、濡れ縁は行き止まり。
大広間に行くには、どこか部屋の中を通り抜けるしかない・・。手前の部屋の障子を、そっと開けて中を見る。4畳半の薄暗い部屋だ。突き当りの襖の向こうには大広間に続く廊下がある、となぜか知っている。
部屋の真ん中に薄汚ない布団が敷いてある。万年床だなあ・・。
布団の中央がなんとなく人の体の形に盛り上がっている。いやな感じ。
布団を踏まないように、そーっとそーっと、つま先立ちで進む。
足音を忍ばせて部屋の奥までたどり着いて、襖にそっと手をかけた。
瞬間。
足首をつかまれた。布団から黒く長い手がぐいっと伸びてきた。
ヴヴワヴァーーーッ!
声にならない叫び声を上げた。息がバクバクしている。多分、一瞬、心停止したと思う。
>>第5話『#5ガイダンス(未発表原稿)』へつづく
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