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短編小説集【恋する20世紀】#3 終電車

Short Short Story
【恋する20世紀~N市発気まぐれ電車】
 電車と電話と煙草のけむりと喫茶店・・etc.の、短い物語6話

この物語6話は『月刊京都かわらばん』1977年9月~1978年5月にかけて、『N市発気まぐれ電車』として不定期連載されたものです。
2002年頃にHP『tanpopo575(たんぽぽはいく)』にWeb版として復刻。
その後、サイト閉鎖に伴い押入れの奥底に沈殿していたものを今回再発掘しました。なお『月刊京都かわらばん』については、後ほど解説記事でご紹介する予定です。

まずは、20世紀の短い物語をお楽しみください。

N市発気まぐれ電車 #3 終電車

 終電車。K駅行き普通電車。

 遅くなっちゃった。アルキメデスやガリレオたちとお酒飲んでたら遅くなっちゃった。途中でマルクスが奥さん連れて顔見せたりしたから、余計遅くなっちゃった。話がはずんで帰りそびれちゃった。

 そうそう、レーニンがパリに行くっていってたっけ。で、せんべつくれ!なんて、せこいこといいやがって。まあいいけどさ。そのかわりお土産たのんじゃったから。ゲーテの詩集の初版本、サイン入りのやつ。

 二軒目のお店のマスターが悪いんだよな。コペルニクスの地動説がどうのこうの・・・なんて話するから…。だから「地球は回っているのだ!」なんて実証的に体験せねばならぬ気になっちゃって。

 四杯目でなんとなく地球が回ってるって雰囲気になったとき、アルキメデスのバカが「いや、俺は天が回ってるように見える!」なんてぬかしやがって。で、ケンカになりそうになって。ガリレオがとめに入ったのはいいけど、反対に火に油そそいじゃって。よせばいいのにマルクスの奴が、ガリレオの法廷戦術はブルジョア的だとかいうもんだから、もうしっちゃかめっちゃか。

 まあ結局はアインシュタインが来てくれたからよかったようなものの。そうじゃなきゃ今ごろ血の雨が降ってるよ、きっと。

 しかし、アインシュタインてのはいい奴だよな。真赤な顔して「ぼかあ、春日八郎が好きでしてねえ」なんて、てれながらいうわけ。で、『別れの一本杉』なんか歌い出してさ。びっくりしちゃった。あれでシラフのとき、むつかしいこといわなきゃ最高なんだけど。ソータイセーリロンとかさ(早退生理論なのかな)。

 あ~あ、眠くなってきたよ。どこだい、ここ。M市駅、やだね、まだこんなとこ走ってるよ。よっぽどきまじめな運転手なんだろうね。N町だとかH川駅とかすっとばしゃいいんだよ。

 ワープしちゃえ、ワープ。エンタープライズみたいにさ。Mr.スポックはなにしてんだろうね。

 行け! ワープ10(テン)!

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----おそれいります。

----Z、Z、Z、

----お客さん、終点です。

----え、なに。

----終点です。

 乗り越しちゃった。ちょっとワープしすぎちゃった。

(月刊京都かわらばん1977年11月号掲載)

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