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「短編」天獄島内覧ツアー   (下)


 食事を済ませるとラギュエルはサッとテーブルセットを片付け「歩くのは疲れましたね。それにまだまだ道なりは遠いですし、馬車でもご用意しますか」っとステッキをクルリと回し、白と黒一頭づつ合わせて2頭の馬に繋がれた白と金のラインが入った立派な馬車を出した。

 馬車に乗り暫く荒野の畦道を行くと、右側に湖が見えて来て、湖と地面を隔てる様に丘があるのだが、そこには一面綺麗な花で埋め尽くされており、1人の男がお花畑の中心に座り何やら描いている様だった。

 ラギュエルは馬車を止め「坂木様。この国の有名人ですよ。ご挨拶に行きましょう」っと馬車から降りる様促し、促されるように馬車からおりると、その青年の元へ近づいていった。

「スティーブンソンさん。作品を描いておられるのですか?」

「これは、これは、ラギュエルさん。お久しぶりです。そうですね。綺麗な湖畔に綺麗なお花畑を作ってイメージして、今描いているところですよ」

「え?この風景もスティーブンソンさんが作ったって事ですか?」

「そうですよ。スティーブンソンさん。こちら坂木様と言いまして、今、内覧ツアー中なんですよ」

 ラギュエルは俺をそう紹介すると、スティーブンソンさんはこの国の唯一の画家で風景から作り上げ、そこから受けたインスピレーションで絵を描き、この国色んな場所で個展を開く有名人だと紹介してくれた。

「それはそれは、そうでしたか。この国はね、色んな面がありますが、それがまた芸術的でね、旅をしながら絵を描くにはもってこいの場所で、私は凄く気に入っていますよ。もし、こちらに住むとなった際は家に私の絵を一つ飾ってくれると幸いです」

「絶対飾りますよ。もうすぐにでも、こちらに住もうと思っておりますので、来た際は直ぐに伺いますね」

「それは、嬉しい。しかし、すぐにでもって決めない方がいいですよ。ここにいるって事はまだ、全体を見ていないでしょ。見てからの方がいいですよ。だって……」

「それでは、スティーブンソンさんごきげんよう。ささっ、坂木様行きましょうか?」

 スティーブンソンさんが何か言おうとしたが、ラギュエルはそれに割って入る様にせかせかとその場を離れようとした。俺はスティーブンソンさんの言わんとしている事が少し気になった。

 馬車に乗り込みその事をラギュエルに伝えると「そんな事言ってましたか?クックックッ……」っとはぐらかされた様に感じた。

 その後、馬車は森に入り小鳥の囀りに木々から漏れる木漏れ日の中をただただ時々聞こえる自然音の中を進んだ。

 その時何処かから、ドゴっ。ザザっ。ドゴ。ザザザっと硬いものがぶつかった後に乾いた植物の倒れる音がする。

「はぁ、またご近所トラブルですか……。私のお役目上見にいかなければいけないので、坂木様少し寄り道しますが、お付き合い願いますか?」

「大丈夫ですよ。ご近所トラブルも解決しなきゃければいけないとか大変ですね」

「これもまた、調和の天使のお役目ですよ。しかし、これから見る光景は稀ですから、びっくりしないでくださいね。クックックッ……」

 馬車を停めると、その音がなる方へ進んだ。すると、目を疑いたく光景が目の前に広がっていた。

 男2人が向かい合いに立ち、石で頭を殴り合っているではないか?しかも、グシャっと重い音がし、1人の音が倒れるとすぐまた起き上がり、もう1人の男を尖った石で殴り、また立ち上がりを繰り返していた。尖った石で殴られた男はでこの辺りが一直線に切れていたが、立ち上がるとその傷は癒え、痛みを忘れたかの様に殴り合っている。

 「田中さんと橘さん次はどうしたのですか?」

 ラギュエルはいつもの事の様に2人の間に割って入る。

「田中の野郎が、スティーブンソンの絵は俺の物だって言いやがって俺の家に忍び込んで持って行こうとしやがってな、たまたま家に帰って来た所、それを見つけて追いかけて、石で頭を殴ってやったら、こいつも俺に殴りかかってきやがった」

「いや、違うだろ。お前が俺ん家に来て、スティーブンソンの絵を盗んだんだろうが」

「待って下さい。スティーブンソンさんの絵をあなた達は何枚持っているんですか?」

「俺は2万点はあるぜ。橘よりは持ってるな」

「なにをー?俺は3万点はあるぜ」

 2人はお互いに意地を張る様に睨みつけそしてまた殴りかかろうとしていたが、ラギュエルは2人の間に体を入れ静止していた。俺も田中さんの体を後ろから押さえつけ、喧嘩の仲裁に加わった。

「いくら、怪我しても治るからと言って駄目ですよ」

「なら田中。盗んだスティーブンソンの絵を返せよ」

「だから、これは俺のだ」

 拮抗する2人の意見にラギュエルはじゃんけんで決めればよいではないです?っといい、真剣にじゃんけんを行い、橘さんが負け、解決した様に見えたが「田中お前、後出ししたろ?それとも、俺の心よんだか?」っといちゃもんを付け喧嘩は更にヒートアップした。

 段々と2人の喧嘩に我慢がいかなくなったラギュエルは2人に「これ以上私の前で喧嘩をするなら、許しませんよ?神様に報告して宜しいですか?」っと2人を睨みつけ言うと、2人は言い合うのを辞め「クソが」っと各々森の奥に消えていった。

 「ふう。あの2人は時々ああして、喧嘩をするんですよ。嫌になりますね」っとずれたハットを被り直し、木に立てかけたステッキを持つと馬車に戻った。馬車に戻った後、2人が消えたはずの森の中から、ドゴっ。ザザザっと聞こえて来たが、ラギュエルは聞こえない振りをした。

「ささ。仲裁に付き合い頂きありがとうございます。時間を取られましたね。もう、日も傾き始めましたので急ぎましょうか?」っと鞭で馬を叩くとスピードを上げ、山道を走り出した。

 それから、日も傾き夜になった頃山道も抜け、ある丘に差し掛かった。そこは家族連れやカップルに大勢の人が集まっており、丘の先に大きな光の後にドーンっとまるで花火の様にとても綺麗な光景が広がって大勢の人は光と音の後に「おー」っと拍手を送っていた。

「今日はまた一段と綺麗な花火ですね」

 ラギュエルはそう言って馬車を止め、丘に降りると、シートを出しそこに座る様に促した。

 俺はシートに座ると山から漏れる大きな光の後に漏れる光を楽しんだ。

 すると、あるカップルが俺たちの方に近づいて来て、「ラギュエルさん。今日はいつもより激しいですよ。私を争ってこんな事するとかおかしいですが、綺麗だからまぁいいですよね」っと女性がニコニコしながらラギュエルに言っていた。

 「ん?私を争ってってどう言うことですか?」っと俺がその女性に尋ねると、「んんっ」っとラギュエルは咳払いをし、余計なことはっと意味を込めていたが女性はそれに気づかず「いえね、山の向こうで、私の事を妾にって争って2人の男が戦争をしていましてね、その光と音がこの辺では風物詩になっていますの。馬鹿ですよね。私にはもうこんな素敵な殿方がいるのに、知らないなんて」

「こらっ。イランカさん。余計な事を坂木様に言わないでください。内覧ツアーのお客様ですよ。それに、この問題は神様には言ってまして、あなたにも問題があるんですからね」

 神様に報告しているっと聞いて、イランカさんは顔色が変わったのか、その場から「ごきげんよう。ゆっくりしていらしてね」っと立ち去って行った。

 この光の奥でイランカさんを争う戦争とそれを楽しむ人々……俺はそれを知らずに楽しむこの光景にゾッとした。

「坂木様……行きましょうか?」

「はい」

 俺たちはまた馬車に乗り込むと静寂と暗闇の丘の中を走った。

そして、またドンドコ、ドンドコっとポップな音楽が朝日が登ったと同時に聞こえてくると「さっ。これで、天獄島内覧ツアーは終わりです」っとラギュエルが言った。

 そして、始まりの一丁目っと呼ばれる所に着いた時、綺麗な服を着た人々は踊り、子供達は鬼ごっこをしていた。

 「ラギュエル。昨日もこの人達踊ったり、鬼ごっこをしたりしていたけれど、いつもそうなのかい?」っと俺が聞くと、「もう彼此私が覚えているだけで200年はこんな感じですよ」っと言った。

「眠りも休憩もせずにかい?」っと聞くと「坂木様も眠くなかったでしょ?私が眠くならない様に御呪いをしましたからね」っと言った。

 馬車を天獄島っと書かれた金の看板の前に停めると「それでは、これから1日考えて来て下さい。明日、お返事を伺いに行きますので」っと深々とラギュエルは挨拶をした。

「あっ、そうそう。最後に質問はございますか?」っと聞かれたので、「何故、テンゴクのごくって国じゃなくて獄なんだ」っと地面に書いて聞いた。

すると「さあ、天獄島って私が決めたわけじゃなくて、ここに住んでる人が付けたので、分かりかねます。すみません」っと首を傾げながら言った。

 「そっか」っと言った後、俺はラギュエルに軽く挨拶を交わし、「それじゃ、考えてから明日返事をするよ」っと言うと天獄島を後にした。


おしまい

-tano-

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