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「短編」ナンキンハゼの木の叔父さん②

「なー。健はバカって嫌か?」

僕はあの日から叔父さんと会うと良く近くのファミレスでご飯を食べるようになった。

叔父さんはチキンステーキの横にある小さなコーンをフォークで刺しながら僕に聞いてきた。

「バカかー。僕はなりたくないけれどきっとバカなんだと思うよ。今日も仕事で失敗してマネージャーにこっ酷く叱られたところさ」

「そっか。お前はバカか。頭がパーなんだな」

叔父さんは嬉しそうに爪楊枝で歯を弄りながら大声でそう言った。周りのお客さんは一瞬こっちを見てまた自分たちの話に戻った。

「そんな大きな声で言う事ないだろう」

僕が少し恥ずかしそうに怒ると叔父さんは笑いながら続けた。

「なー。ジャンケンはグーとチョキとパーがあるだろう。グーは人を殴ってチョキは人を斬りつける。でもパーはそんな奴らも包み込める。健はパーみたいなそんな男になれな。」

叔父さんはそう言って「ちょっと、小便」っと言うと、トイレに歩いて行った。

「パーみたいな人間」

僕は席を立ち僕用のオレンジジュースとおじさん用の野菜ジュースを注ぐと席に戻った。

叔父さんも席に戻っており、僕から野菜ジュースを受け取ると一気に飲み干し「ここ、割り勘な」っと言って僕に一万円を渡してきた。

僕が会計を済ませてお釣りを渡すと「いらねー。」っと言ってスタスタ路地裏に入って行った。

僕はいつもの様に叔父さんの後をつけて行った。

「あー。こらー。また人が増えてるな。不景気で仕事なくしまったんだろな」

叔父さんは見ない顔の人を新入りっと呼び一人一人と話を始めた。一本タバコをあげて吸い終わるまでその人たちの話を聞き続ける。フィルターに火がつきそうなくらいまで話を聞き込み時々「大変だったんだな」とか相槌をうちながら話を聞いていた。

叔父さんはその時は多くは語らない。
後からその事が疑問に思って聞いたのだが、

「路上に来た時はまだ、多くは語れないのさ。何故、俺が。何であんなに頑張ってたのに。って思う人もいるもんだから、今の現実を受け入れるのに大人は時間はかかるんだよ。俺はだから多くは語らない。そーかい。そーかい。って聞いてあげれば、現実にに叩きつけられるんじゃなくて、静かに着地できると思ってる。それからまた、飛べばいいじゃないか。俺はそんな思いで聞いてるよ」

叔父さんは一通り路地裏を歩き回ると、またネオンの光る街へと戻った。

「路地裏とネオン街。一体どっちが幸せなんだろうな。俺にはどちらもどっこいどっこいだと思うがな。」

叔父さんはタバコに日をつけコンビニの前に腰を下ろすと目の前をせかせかと歩く帰宅途中の会社員を見つめながら言った。時刻は23時を越えていた。

「健は今、葬儀屋で働いてるがどうだ。楽しいか?」

「んー。楽しいかと聞かれたら分からないけれど、ありがとうって言われたら嬉しいかな」

「そうかい。その嬉しさは歳取って目が曇っても忘れん様にしなきゃだな。」

そう言って、よっしゃ。っと腰を上げるとコンビニの裏にある段ボールを担ぎ路地裏に入って行った。

「多分、最近路地裏に来た人達は寝方を知らないから教えに行ってくるわ。健は帰れ。」

叔父さんはそして暗闇に消えて行った。

それから叔父さんは一時の間その人達と路地裏で過ごした。

ある日、僕が仕事の帰り道ネオン街を家の方へ歩いていると、叔父さんとホームレスの人が道脇に座り缶ビールとタバコを吹かしながら楽しげに話していた。その前を早足でスタスタと歩く着飾った人達。僕は何だか叔父さん達の方が羨ましく思えた。コンビニで追加のお酒とつまみを買い込み叔父さんの所に向かうとすぐ叔父さんは僕に気づいてくれ手招きして呼んでくれた。

「叔父さん、これ授業料だからみんなで呑んでくれよ」

僕は両手一杯の袋をおじさんの前に置いた。

「おっ。授業なんてお前にした覚えはないが貰っとくよ。ほれ、この前路上デビューした、田中さんだ。」

そう言って田中さんを紹介してくれた。

「田中さんはこの前まで鉄骨工場で作業長してたらしくてな、でも会社が倒産し路頭に迷って流れに流れてここに来たみたいなんだ。この前は俺の横で寝てて犬みてぇーにわんわん泣いてたんだがな。慣れてしまえばこっちも楽しいもんよって今では俺に早く帰れって言う始末さ。頼もしいもんだな。」

田中さんはおじさんの肩をグーで殴ると、

「ここはこの人が居なければ楽しいんだけどね。毎晩酒持ってくるから迷惑なんだ。でも、こんなに腹の底から笑ったのは、十年来覚えてないな。ありがとよ。高浜さん」

叔父さんはそれを聞くと「うるせー。早く職探してここから出てけ」っと嬉しさを誤魔化す様に悪態をついた。

僕は叔父さんに「明日も仕事だから帰るね」っと言うと、「おう。ちゃんと暖かくして寝ろよ」っと袋からパンを取り出し僕にくれた。

「授業料の報酬もらったから分け前だ。持ってけ」

僕はパンを貰うとネオン街の波に逆らいながら家に帰った。


〜つづく〜

tano


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