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『短編』6月のサンタクロース

腐った切り株の年輪は迷路みたいで面白い。
そんな一人遊びをこの森で2年間続けている。

今年で13歳になる。

両親と弟は事故で亡くなって9歳から天涯孤独。

それから一年と少し住んでいた村の家を転々とし、何か家族と言うものに違和感を感じてこの森で一人で住んでいる。

両親の蓄えとかあって生活には困らないけれど、自分が好きで一人を選んだのにそれにも違和感を感じていた。

そんな六月の大雨が降ったある日私はある顎に白髭を生やしお腹の弛んだ一人のお爺さんと出会った。

私が村へ日用品を買いに出た日の帰り道。
ヘロヘロになりながら棒に体重をかけて歩いているお爺さんに会った。

こんな辺鄙な所に何の用かしら。

私は不思議に思ってお爺さんに声をかけた。

「あの。お爺さん。こっちに来ても何もないですよ。村ならあっちの方なので用があるならそっちだと思いますよ。」

私は自分が今歩いてきた方に指を差した。

「おやおや。栗毛の可愛いお嬢さん。ご親切にどうも。でも、村には用はないんじゃ。この先の知恵の樹に用があっての。」

お爺さんは切り株に腰を下ろすとゼーゼーっと肩で息を切らせながら地図とコンパスを取り出し辺りを見渡し始めた。

「多分こっちで合ってる様なんじゃが。」

お爺さんは白のシャツを腕まくりし、私が入りそうな大きなリュックを置いて首をポキポキと左右に振った。

「老ぼれにはこの山はきつうて敵わん。栗毛のお嬢さん名前は何て言うんだい。」

「サリーって言います。お爺さんは何てお名前。」

「ニコラスじゃ。ニコラスじぃさんって呼ばれておる。」

「ニコラスお爺さんは何処からきたの。村では見ない顔だけれど。」

「ワシはずっと北の方から来たんじゃ。今年の一月に出てやっとここに着いたところじゃ。」

私はニコラスお爺さんの前の切り株に座り久々の人との会話を楽しんだ。その時である。

ホオノキの葉に一粒ポタリと雨が落ちたのを皮切りに雲に溜め込んで吐き出された大粒の雨が滝の様に降り始めた。

「こりゃ、いかん。雨宿りできる所はあるかね。」

「なら、私の家が後少ししたらあるから急ぎましょ。」

お爺さんは大きなリュックを背負い木の棒を突きながら私の後を追って来た。森に慣れてる私は少し歩いては後ろを振り返り、ニコラスお爺さんが追いついたら先に行きやっと私の家についた。

「ここよ。さぁ入って。」

「こらぁ、参った。雨なんぞ降るとは。」

「もう、梅雨の時期だからね。さっ、そこに座って。今、拭くものを持って来るから。」

お爺さんはリュックを置くとシャツを脱ぎ、玄関先で絞っていた。

「さっ。これで拭いて。後これに着替えて。」

私は、お父さんの着ていたシャツをニコラスお爺さんに渡した。

「ピッタリね。取っておいて良かったわ。」

「お父さんはいないのかね。」

「お母さんとお父さん、弟は死んじゃったわ。私一人で住んでいるのよ。」

「これは、申し訳ない事を聞いたね。気を悪くしないでおくれ。」

「いいのよ。もう昔の事だから。」

外の雨はさっきより雨足を強め、木造の家の隙間を掻い潜った水滴がポチャリポチャリと家の中に入ってきた。

私はバケツをそこに置き、ボトンボトンなる音に耳を傾けていた。

「そうじゃ。猪の干し肉がある。これで、今日はワシがスープを作ってやろう。」

そう言ってリュックから紙に包まれた塊を出し、「キッチンは何処じゃ。」っと私は案内した。

私はニコラスお爺さんの衣服を洗濯して部屋に縄を張りそこに干した。

キッチンからはハーブのいい匂いがして、少し幸せな気分になった。

「サリー。出来たぞ。お椀を取っておくれ。」

私はキッチンの上の棚にあるお椀を背伸びして取るとニコラスお爺さんに渡した。
お玉に救われたスープがトクトクと注がれ、お肉から出る出しの匂いとハーブの香りが合わさり私はゴクンと喉を鳴らせた。

「ほら。体が冷えているだろう。温かい内にお上がり。熱いから気をつけるんじゃよ。」

私は私の拳位ある大きなお肉にスプーンを通しホロホロと崩れたお肉の塊を口に入れた。
肉のトロける甘い油と歯で簡単に切れる感触。ハーブと出汁を吸い込んだしょなしょなの玉ねぎとホクホクじゃがいものスープは私を無言にさせた。

「ニコラスお爺さん美味しい。これ、美味しいわ。」

「これこれ、お行儀が悪い。口に物が入ってる時は話したらいかんよ。」

ニコラスお爺さんは私が食べているのをパイプを吸いながら眺めていた。

「ところで。雨はいつ上がるのかの。夜に上がってほしいんじゃが。」

「んー。梅雨だから難しいわ。一か月はこの調子だと思う。」

「そうかい。残念じゃ。」

「ニコラスお爺さんが良かったら、気がすむまでここにいても大丈夫よ。」

「ええのかい。サリー。迷惑にならんかの。」

「迷惑だなんて。悪い人はこんな美味しいスープは作れないわ。」

「カッカッカッ。なら一時世話になるとしようかの。」

お爺さんはハードパンを一口齧ると話を続けた。
「よし、サリーなら明日あの雨漏りの屋根を直そうではないか。」

「ニコラスお爺さん大丈夫。結構高いわよ。」

「なあに。ワシの本業は屋根より高い所でするもんだからあれくらい余裕じゃ。」

「なら、無理しない程度にお願いね。」

そして、私達は久々に一人ではない夕食を楽しんだ。

次の日私が起きるとニコラスお爺さんは外で梯子を片付けていた。

「これで大丈夫じゃ。雨漏りはもうするまい。木の油も塗っておいたから一時は大丈夫じゃ。」

「もう、終わらせたの。早いわね。」

「楽勝じゃ。」

ニコラスお爺さんは手を叩くと得意げに顎髭をサユサユと触っていた。

さて、少し雨が上がっておるな。
ワシは少し出掛けてくる。日が傾く頃には戻るよ。

そう言ってニコラスお爺さんは山の奥に歩いて行った。

日も傾き始めた頃、私は保存食用に取ってあったパンを二人分暖炉の上に置きニコラスお爺さんの帰りを待った。

そこへ、大きなお腹を揺らしたニコラスお爺さんが帰ってきて、「サリー知恵の樹を見つけてきたぞ。夜、空に星がかかったらワシについてこい。」

「良かったわね。見つかって。楽しみにしておくわ。ささっ。パンが焼けたわ。ヤギのチーズもあるから食べましょ。」

私達はそんな生活を続けていた。
昼間雨が降っていない時は山水を引くためのパイプを繋げたり、ニコラスお爺さんの料理を習ったり、充実した毎日を二人で過ごしていた。

雨は上がるのだか、雲が晴れずなかなか夜に星が見えることはなかった。夜星が見えたら、ニコラスお爺さんはここから自分のいた街に帰りそうな気がして、私は素直に願えなかった。

しかし、ある日の夜。ニコラスお爺さんが

「よし、サリー行くぞ。準備をしなさい。」

っと言ってきた。

「分かったわ。」

私はいよいよか。っと重い足取りで先を行くニコラスお爺さんの後を追った。

1時間程経った頃。大きなもみの木の前についた。

「これが、知恵の樹。」

私がニコラスお爺さんに聞くと。

「これが、知恵の樹じゃ。これまた大きいのは今まで見たこと無かった。」

そう言ってニコラスお爺さんは大きなリュックから瓶を一つ取り出した。

「星も出ておる。あの星が知恵の樹の真上に来た時捕まえるぞ。」

「星を捕まえる?」

私はニコラスお爺さんの言っている事が良く分からなかった。

「そうじゃ。星をこの瓶に捕まえるんじゃ。捕まえて、それでトナカイの鈴を作るんじゃ。」

「星を捕まえる?トナカイの鈴?」

「ワシらはこの季節に星を捕まえて、冬までにトナカイの鈴を作りクリスマスにプレゼントを配って回ってるんじゃよ。」

「サンタクロース?」

「そうじゃ。ワシはサンタクロースじゃ。」

そう言ってもみの木の下に立ち瓶のコルクを開けると空にかざした。星がもみの木の真上に来た頃、初めは空から細い黄色い糸が瓶に向かって降り注いでいるかと思うと次の瞬間、勢いよく稲妻の様に太い黄色い光が瓶の中に勢い良く流れ込んで来た。

ニコラスお爺さんその勢いに耐える様に足を踏ん張り耐えていた。私もニコラスお爺さんの体を支えて吹き飛びそうな威力に耐えていた。

そして、スンっと勢いがなくなり、辺りはまた真っ暗になった。

瓶のコルクをギュッと力一杯締めると中には黄色い純度の高い蜂蜜みたいにキラキラと光っていた。

ニコラスお爺さんはそれをリュックにしまうと私達は下山した。

家に着く頃には私はクタクタになっていた。そしてそのまま倒れる様に眠っていた。

次の日の朝、目が覚めるとニコラスお爺さんは居なくなっていた。テーブルには手紙と一枚の真っ白なザラザラした紙が置かれていた。

"愛しのサリーへ

ワシは北の街に帰ってトナカイの鈴を作るよ。サンタクロースを辞めてここにいる孫娘の様なお前と過ごすことも考えたが、ワシを待つ沢山の子供達がおる。だから帰るとするよ。

その紙はワシへの願いを書くための紙じゃ。

何でも願いを一つ書けば良い。そして、知恵の樹の前に置きなさい。クリスマスにお前に届けてやる。

いい子にしているんじゃよ。

仕事が終わったらまた帰って来る。

ニコラスお爺さんより"

私はそれを読んで嬉しい様な寂しい様な複雑な感情になった。

そして、私はペンをとり、"えんとつ"と書いてもみの木に置きに行った。

クリスマスになり、私の家には大きなえんとつがついた。ニコラスお爺さんはこれでクリスマスには迷わないですむ。私はえんとつを大事に磨いた。

そして、今年も雨の季節がやって来る。
私は腹を揺らせながら山を登って来るニコラスお爺さんに大きく手を振った。

私のお爺ちゃんはサンタクロースだ。
ゼーゼーと息を切らせながら私の前に立ち止まり、「サリー。いい子にしてたか。」っと私の頭をなでた。

「いい子にしてないと、サンタクロースは来てくれないから。いい子にしてたよ。」

っと私は笑って答えた。


おしまい。

-tano-

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