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【日本にまだない「探究型の中学」 ラーンネット・エッジに行ってみた】 3:在校生とその保護者は学校をどう思ってる?

教科書をなぞるような授業はゼロ。カリキュラムは探究と教養のみ。いつ卒業するかは自分で決める。そんなめちゃくちゃユニークなスクールが神戸に生まれた。名前は、「ラーンネット・エッジ」。そう、日本の探究型スクールの草分け的存在である「ラーンネット・グローバルスクール」から生まれた、”10代の探究者のためのマイクロスクール”です。

いったいどんな学校なのか、現地で取材をしてきたので、スクールの立ち上げストーリーから、授業の様子、実際に通っている子ども達や保護者の声などを数回に分けてリポートします。

執筆者・中曽根陽子(なかそね ようこ)
教育ジャーナリスト。小学館勤務後、情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。女性のネットワークを活かした企画・編集を行なう。教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、メディアからコメントを求められることも多い。教育雑誌、経済誌、新聞連載など幅広く執筆。海外の教育視察や講演も行なう。2014年、「Mother Quest」を立ち上げ、母親力を育てるワークショップなどを定期的に開催。学びを探究するメディア「Q」コントリビューター。

前回の記事(2)はこちら

ここまで、神戸に新しくできたラーンネット・エッジの様子をレポートしてきましたが、実際に通っている子ども達はどう感じているのでしょう。また、親御さんは何を期待してこのスクールを選んだのでしょう。ここからは、それぞれの声を届けます。

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O.Mちゃん (14歳)
自分のやりたいことに、存分に時間をかけられるのが一番の魅力

【一旦公立中学に行ったのに転校した理由】
幼稚園からラーンネットに通っていて、充分満喫したので、地元の学校にも通ってみようと思い、近くの公立中学に進学しました。最初は「朝礼」でセリフや流れが決まってることとか、テスト勉強に使った時間数を先生に申告するとか、そんなシステムに面白さも感じていましたが、自分の本当にやりたいことは学校の中にはなく、部活にも入っていなかったので、わざわざ学校に行って勉強する理由が分からなくなっていました。そんな時に母からエッジができることを聞いて、転校しました。

【今探究していること】
私は、小さい頃からバイオリンを習っていて、将来は外国のオーケストラに入りたいと思っています。エッジでは、そのとき練習している楽曲について探究しています。具体的にはその作曲家や作曲当時の時代背景について調べたり、自分の演奏をルーブリック評価に落とし込んだりしています。これは、自分の演奏を数値化してみることで、もっと満足のいく演奏ができるのではと考えて作ってみました。演奏を録音して自分で振り返ったり、母に聞いてもらって客観的な評価をもらったりしたことを、数値に置き換えてみています。また「協奏曲」というのはオーケストラと一緒に弾く曲なのですが、それに取り組んでいる時は、自分以外のパート(楽器)がどんな表現をしているか、スコア(総譜)を見て、自分のメロディーと照らし合わせるなどの勉強もしています。

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【ここでの生活について】
ここでは、自分が好きなことをとことんできる点や、ナビや講師などいろんな人から話を聞ける点が、おもしろポイントです。エッジでは自分が一番時間をかけたいことに時間を使えるので充実しています。カリキュラムの中では、「コラボ・ラ」の時間に、みんなで一つのことを作り上げる時間が楽しいです。私は、将来オーケストラで演奏をしたいと思っているので、その時にもこういう体験は役に立つと思います。他にも「アート」や「自由への教養」が好きです。「自由への教養」では矢萩先生自身の豊富な経験談を聞かせてもらったり、「アート」では80分間自分自身に集中できるので楽しいです。ただ、私は一番年上で、しかも中学生が少ないので、もっと刺激しあえる仲間が増えていったらいいなと思います。

【卒業はいつする?】
中学卒業の時期までいて、高校は音楽を学べる学校に行きたいと思っています。そのための勉強は、自分でしています。

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K.Kくん (12歳)
普通の学校にはない新しい発見と、自分で考える機会がたくさんある。

【なぜ入学しようと思ったのか】
小学校5・6年生の先生はまあまあだったけれど、普通の先生は忙しいので、僕の疑問や質問にとことん答えてもらうのは難しいと感じていました。中学校にあがるタイミングで、このまま普通の学校に行くのはどうだろう…、と思っていたところ、お父さんも同じ考えだったので、このスクールを探してきてくれて応募しました。

【今探究していること】
小さい時からピアノを習っていたので音楽に興味があったので、入学時は音楽について探究しようと思っていたのですが、天皇の即位のニュースに触れて興味が生まれて調べていました。そこから城に関心が移り、今は姫路城を忠実に再現した模型を作ってみようとトライしています。当時の資料を探しているのですが、寸法を書いているものがないので、今度姫路まで行って、本物の城を見て、資料館で調べて来ようと考えているところです。

分からないことについては、まず自分でどうするか考えますが、躓いたらナビや両親に話してアドバイスをもらって先に進めていきます。最終的には、やはり音楽について探究して自分で作曲をしてみたいと思っています。

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【ここでの生活について】
ここでは、自分がやりたいことに取り組める時間をたっぷり取れるし、ナビゲータがじっくり話をきいてくれるので、思う存分探究できるから満足しています。学年が違う友達と一緒に学ぶのも、違和感はありません。むしろ普通の学校だと学年に縛られるけれど、ここでは上下の差がなく、フラットな関係で意見を言い合えるところがいいです。

【マイスタディについて】
スタディサプリと英語の教本を使って勉強しています。家に帰ったら、まずスタディサプリをやることにしていて、小学校の時より、自分から勉強をしているんじゃないかな。

【成長を感じること】
自分で考えるという習慣ができた点です。また、外から来るナビゲータからは、いろいろな影響を受けています。例えば、石ころアートの毛利先生に出会って、絵を描くということを仕事にして、楽しめるんだということを知りましたし、矢萩先生からは、いろいろな観点から物事を見ること、そして自分の考えを持つことを学びました。他の先生からもいろいろなことを学べるので、毎日新しい発見があります。

【どうなったら卒業する?】
とことん探究できたと思った時に卒業しようと思っています。一応、中学は3年間なので、そのくらいには卒業できるようにしたいですね。

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ラーンネット・エッジを選んだ理由と在校生の親として今思うこと  

K.Kくんお父さん

―― ラーンネット・エッジを選んだ理由を教えてください。 

長男は、もともと好奇心旺盛で活発な子どもでしたが、小学校にあがると、質問しても途中で話を打ち切られて、答えてもらえないと言うようになっていきました。よく廊下にも立たされていて…。本人は悪いことをしていないのに怒られて傷ついていましたから、かわいそうで。もう少し寄り添ってもらえる先生に出会いたいと思っていました。

しかし、いい先生ほど組織の中で病んで辞めていく。そんな様子を見るにつけて、もっと個性を尊重し、子どもに向き合ってもらえる場所はないかと、長男が中学に入るタイミングで、探究をキーワードに探していました。

そんな時に、元ミネルバ大学日本連絡事務所長の山本秀樹さんが「今のオススメはここ!」とエッジのことをツイートされていたのを見て、興味を持ちました。同時に、共通の友人もお子さんを通わせていることがわかり、信頼する二人から推薦されたことが大きいですね。

―― 教育内容について、最も評価した点はどんなところですか?

個を大事にしてもらえる学校だということです。私自身が大学からアメリカに渡り、海外で長く仕事をしてきたので、余計、日本の画一的な教育に疑問を持っていました。日本の教育は、能力を平均化するには最高の教育方法ですが、その形が作られてから150年も経っているので、今の社会には合いません。

これからは、出る杭を伸ばすことが必要だと痛感していて、ラーンネットはまさに、個性を伸ばす教育を掲げている点と、互いを照らしあうという理念にも共感しました。また、妹がいるので、5年生から受け入れていることも決め手となり、ちょうど私が京都で仕事をすることになったタイミングで、入学を決めて一家で移住してきました。

―― 好奇心の強いお子さんが、既存の教育では出る杭として打たれて、良いところを伸ばせないのはほんとうに残念なことです。実際にお子さんが通いだして、お父さまとして、今どんなことを感じられていますか?

以前は学校にいくのを嫌がったこともありましたが、今は全くそんなことがなく、二人とも楽しそうに通っているのがなによりです。家で「自由への教養」の時間などに聞いてきたことを嬉しそうに話してくれます。

小学校でのディスカッションは、答えありきでおもしろくなかったですが、エッジでは変な同調圧力がないので、一つの課題について、みんなで好き勝手に考えられる。自由なディスカッションができる場になっているのでしょう。

マジ探究の時間については、正直まだ探究の領域に入っていないとは感じています。しかし、興味の対象は移っていくでしょうし、まだ深掘りするほどの好奇心の対象には出会えてないということだと思います。我慢して見守るしかありません。

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―― そうですね。興味があることに一直線で出会えるなんてことはそうないでしょうからね。子どもの好奇心にどうやって火を灯せるのか、親としても試行錯誤ですね。

同感です。息子が小学校2年の時の自由研究で、静電気で動くロボットを作りたいと言った時に、どこまでできるのかという見極めと、子どもの気持ちにどう寄り添えばいいかをすごく考えました。「やりたい!」というところで止まっている子どもに、どこまで手助けをしていいのか、あるいは手を出さないほうがいいのか、ベストアンサーはなかなか見つからず試行錯誤しています。

―― 基礎学習について、完全に自学自習となっていますが、心配はありませんか?

今の枠組みの中で学ぶ勉強はAIによるオンライン学習等があるので色々組み合わせながら完了できるでしょう。アメリカの学校でも2次方程式は大学に行ってからやっているので、ちゃんと自分で考えられる力がついてから学ぶのでもいいとは思っています。ただ、これまでは一応やらないといけないことはやっていましたが、今はその縛りがないので、どこまで自己コントロールできるようになるのかが課題です。家でゲームばかりやっている姿を見ているとつい口出しをしたくなってしまいますが、思春期ですし、親子での距離感や関わり方には悩みます。

ただ、私自身いろいろなことをやって楽しんでいるので、そんな父親をみてまだ尊敬をしてくれているのはありがたいことです。親子でもがいている時期なので、子どもとの対話を重ねていきたいと思っています。エッジに対しては、今のまま探究とリベラルアーツを基礎において、子どもの個性を伸ばしてほしいと願っています。

K.Kくんお母さん

―― お母さまとしては、エッジに通うことをどう思っていますか?

子どもたちが休むことなく嬉しそうに通っている様子を見て、ここにして本当によかったと思っています。ナビの皆さんが、一人一人をよく見てくださっていて、通知簿代わりにそれぞれの先生からメッセージがいただけたのも嬉しかったです。私たちは、子どもたちに、自分で考えて行動できる人になってほしいと思っているので、自由に意見が言える環境と、じっくり考える機会がたくさんあるのもありがたいです。

―― 成長を実感したことはどんなことですか?

息子は、マジ探究でお城の模型をつくることになり、その設計図作りのために、時間をかけて計算をしていました。その中で、今学んでいる数学が役立っていることに気づいたようです。親からしたら、いったい何をしているのかと思っていましたが、試行錯誤の中で生きた学びができているのだと改めて実感しました。

既存の学校では、小学校は中学校のため、中学校は高校のための準備の場所になっていて、今に没頭できません。ここでは子どもの様子を見守り、必要なときに手を差し伸べてくれるので、安心して没頭できるのだと思います。今後人数が増えてさらに発展し、よい刺激を受け合えるようになると良いですね。

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取材を終えて

2回に渡って現地に足を運び、実際にその空気を吸って感じたことは、ここでは大いなる実験が行われているということです。

それは、人は本来、自分の好きなことや得意なことを持っている。そして、そのことに気づいたときに、人はワクワクして、誰に言われなくてもそれをやりたいと思い、いちずに取り組んだ時に生きる喜びを感じることができるということ。そして、そういう体験をした人は、自分はもちろん、周りも幸せにすることができる人になるということを実証することです。

そのためにこのスクールがやっていることは、「水が自然にしみこむように、少しずつ養い育てること。」つまり「涵す(ひたす)」なのです。

実験の結果がでるのは、すぐかもしれないし、遠い未来かもしれません。

でも確実に言えるのは、今ここに集まっている人たちが、とても幸せそうだということです。普遍的で新しい、10代の探究者のためのマイクロスクール「ラーンネット・エッジ」が、この後どんな道を辿り、どんな景色を見せてくれるのか、じっくりと見守っていきたいと思います。



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