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ウエイトリフティングにおけるInternal FocusとExternal Focus〜内的焦点と外的焦点〜

はじめに

ウエイトリフティングのコーチング

「もっと膝を伸ばせ!ケツに力を入れろ!」
といった指示は、ウエイトリフティングやクイックリフトの指導現場でよく聞かれますが、初心者にとっては適切なフォームを取ることが難しくなる場合があります。運動中に何を考えるかが、トレーニングの成果に影響を及ぼします。

内的焦点と外的焦点という考え方があり、内的焦点は自分自身の筋肉の動きに意識を向けることを指し、外的焦点は、重量やバーなどの外部要因に意識を向けることを指します。

内的焦点と外的焦点の違い

記録を伸ばすための方法

ウエイトリフティングにおいて記録を伸ばすためには、筋力が非常に重要です。そして、この筋力を向上させるために、筋肥大を効率的に行うことも重要な要素です。

筋力向上を目的としたトレーニングと、筋肥大のためのトレーニングの2種類がありますが、どこに注意を向けると考えると効率的なトレーニングになるのか、考えてみましょう。

Internal Focusとは何か?

Internal Focusの定義

Internal Focus(内的焦点)とは、運動やトレーニング中に自分自身の身体の感覚や動きに意識を向けることを指します。つまり、自分の筋肉や身体の動きに意識を集中することで、運動のパフォーマンスを向上させたり、フォームを改善させることを目的とした考え方です。

例えば、ショルダープレスの際にバーベルを持ち上げることよりも、肩関節に焦点を置き、三角筋を強く収縮させることに意識を集中させるといった方法があります。また、デッドリフトの際にも、バーベルを上げることよりも、身体の一部分の動き、筋肉の動きに意識を向ける方法があります。

Internal Focusのメリット

Internal Focusは、特に筋肉を肥大させるトレーニングを行うボディービルダーなどによって、よく実践されています。

ボディビル競技では、複数の筋肉を同時に鍛えるのではなく、単一の筋肉をより強く収縮させることに焦点を当てます。一般的には、単関節運動で単独の関節や、筋肉の収縮に内的な焦点を置くといった方法で用いられる傾向があるようです。

また、ウエイトリフティング競技においては、フォームの修正に関わる場面でよく使われます。たとえば、背中を締めるように、肘を伸ばしたりするよう指導されることがあります。

個人的な見解としては、Internal Focusのメリットとして、焦点を当てた部位が選択的かつ優先的に収縮するため、その部位が疲労することによって筋肥大すると考えています。また、複合関節運動においては、焦点を置いた関節が他の関節に対して優先的に力発揮することが期待できます。たとえば、スクワット動作において、ニーインしてしまう選手に対して、股関節を外旋させる部位である臀部に焦点を当てることで、正しいフォームに近づくことができると考えられます。

ただし、Internal Focusが筋肥大に寄与するとする研究はまだ少なく、その効果については結論が出ていません。以下にいくつかの研究例を紹介します。

筋肥大
測定された3つの筋のうち、肘関節屈筋の肥大のみが群間で統計的に差があり、大きな効果サイズが内部焦点条件で支持された
(F1,24 = 10.64; h2p = 0.307; p = 0.003)。
大腿直筋と外側広筋については、それぞれ外部焦点と内部焦点に有利な小さな効果サイズが観察された
(F1,22 = 0.68; h2p = 0.030; p=0.418 および F1,24≈0; h2p≈0; p=0.999) (Table II)。

Differential effects of attentional focus strategies during long-term
resistance training. Article in European Journal of Sport Science · March 2018 Brad J Schoenfeld et al.

こちらの研究によって、特に肘関節屈筋の肥大において、有意な効果があると認められました。内的焦点と筋肥大の相関関係についてある程度のエビデンスが得られたことが分かります。ただし、完全ではないため、今後の研究が必要です。

個人的な感想ですが、私はウエイトリフターがアームカールをする際に、極端に反動動作に頼った動きを多く見かけます。これは、ウエイトリフター特有の外的焦点でバーベルを持ち上げるイメージから、肘関節だけの運動であるアームカールが、バーベルを持ち上げるというタスクを効率化するために、無意識的に全身運動に転換され運動が最適化されているのではないかと考えております。

筋肥大を効率的に狙うためには、ボディビルダーのような内的焦点で肘関節の運動のみに焦点を置き、単関節運動でアームカールを行い肘関節屈筋群にのみ刺激を与える方法が良いと思います。

External Focusとは何か?


External Focusの定義

External Focus(外的焦点)とは、バーベルや、体の外の空間のなどの外的環境に対して意識を向け、目的の運動を行うことを指します。

例えば、スクワットを行う際に、上半身や膝の角度などの身体の内部的な要素に注意を向けるのではなく、バーベルを動かすことや、地面を強く押すなどの外部的な要素に意識を向けることで、より強くスクワットを行うことを目的とする方法です。

また、デッドリフトやプルを行う際には、目標の高さまで上げることに注目することで、より強力な引っ張りを実現することができるといった考え方があります。

External Focusのメリット

External Focusを用いることで、身体の内部的な要素に意識を向けることが少なくなり、自然な動きをすることができるため、トレーニングの効果が高まるとされています。また、研究によると、

急性的な効果に関するメタ分析では、外的焦点が筋力に対して有意に正の効果を示した(SMD:0.34(95%CI:0.22-0.46))。長期的効果に関するメタ分析では、筋力増加に対する内的焦点と外的焦点によるトレーニングの間に有意な差はなかった

Sports (Basel). 2021 Nov 12;9(11):153. Acute and Long-Term Effects of Attentional Focus Strategies on Muscular Strength: A Meta-Analysis.

外的焦点のトレーニングでは、特に短期的な筋力向上を狙うことができると考えられており,

その結果,内的焦点に比べ外的焦点の方が,フリースローの精度が高いことが示された.また、上腕二頭筋と上腕三頭筋の筋電図活動は、内的焦点よりも外的焦点の方が低かった。このことから、外的注意は運動の経済性を高め、微細な運動制御を妨げ、運動の結果を信頼できなくする運動系内の「ノイズ」を減少させることが推定される。

Increased movement accuracy and reduced EMG activity as the result of adopting an external focus of attention
Tiffany Zachry a, Gabriele Wulf a,∗, John Mercer a, Neil Bezodis b
a Department of Kinesiology,

この研究からは、フリースローなどの全身運動において、特定の筋肉から負荷を分散させることにより、より効率的な運動ができる可能性が示唆されています。

前述したウエイトリフティング選手のアームカールにおけるチーティング動作からも、無意識的に単関節運動を複合関節運動に変えてしまうという競技特性が見られることが分かります。これは、単にバーベルを効率的に持ち上げたいという外的焦点に集中することによるものでしょう。

例えば、スクワットやデッドリフトでは、主に活動する筋肉から負荷が集中することを避け、全身を使って効率的にバーベルを持ち上げることが重要です。外的な焦点を持つことで、単純な局所的な負荷を避け、全身を使った効率的なトレーニングにつながることが示唆されます。すなわち、デッドリフト、スクワット、ウエイトリフティング種目において、外的焦点を持ってバーベルを上げようと意識することは短期的に筋力向上につながり、練習の質が向上することによって長期的な観点からも記録を伸ばすことができると考えられます。

まとめ

Internal FocusとExternal Focusの違い

上記の違いから、筋力向上を目的としたトレーニングの場合は、より外部に焦点を置いたトレーニングが重要になる可能性があります。一方、筋肥大トレーニングでは、内的焦点を置いた筋肉の収縮に焦点を当てたトレーニングを取り入れることが効率的になるかもしれません。

特にウエイトリフティング選手の場合は、マッスルコントロールなどの内的焦点を置いたトレーニングが苦手になる傾向があるため、フォーム練習などの弱点部位やエラー動作を修正する際に、単関節の運動や体の一部分の運動を意識したトレーニングを取り入れることが役立ちます。これにより、適切なフォームを習得することができるでしょう。

効果的なトレーニング方法の選択

特に意識が途切れやすい臀部では、力が不十分なためにスクワットや、ディップ動作のボトムで膝が内側に入るなどのエラー動作が起こることがあります。このようなエラー動作を防ぐためには、臀部の活動を高める必要があります。そのためには、クラムシェル、ヒップスラストやヒップアブダクションなど、臀部の活動に内的焦点を置いたアクティベート種目を事前に取り入れ、スクワットやディップなどで臀部の内的な焦点を置きやすくする、また臀部の活動を高めることが有効的でしょう。

また、ウエイトリフティングにおいては、バーベルを身体に引きつけるために広背筋などを鍛えることも重要です。ラットプルダウンやシールローなどでは、広背筋や肩甲骨の動きに内的焦点を置いてトレーニングすることで、プルやフロントラックホールドの際に肩甲骨や、関節などを適切な位置に保持しやすくすることができるかもしれません。

対象部位に触れ、筋肉の収縮や肩甲骨の動きなどに内的焦点を置くことを指示する指導者(イメージ画像)

ウエイトリフティングへの応用

ウエイトリフティング競技は、他の競技に比べて障害発生頻度が低いですが、競技レベルの高い競技者は、高い障害発生率が報告されています。

13歳から16歳を対象としたウエイト リフティングの障害発生率は1,000 athlete-hour(s 以 下 AH)に換算すると 0.013 件であり、比較された 他のスポーツ競技に比べ障害発生率は低く、スポーツ障害の少ないスポーツであると報告している (3)。 競技レベルの高い競技者では、Calhoon and Fly(4)によると、障害発生率は3.3件/1,000 AH、 Raske and Norlin(5) は 2.4 件/ 1,000 AH など、障害発生率が高い報告となっている。

高校生ウエイトリフティング競技者のスポーツ障害
発生状況と障害発生率
Retrospective epidemiological survey of injury rates and pattern amongst high-school competitive weightlifters
2017 阿部 裕一 長野保健医療大学

そこで、私の個人的な仮説ではありますが、ピリオダイゼーションを導入し、筋肥大を目的としたボディメイク系のトレーニングを増やし、高重量での練習頻度を意図的に低くすることによって、関節への負荷を減らして障害発生を予防することができると考えています。
特に、筋肥大シーズンでは、ウエイトリフティングにとって重要なハムストリングスや広背筋の強化に重点を置くことが重要です。筋肥大を目的としたトレーニングにおいては、内的焦点を積極的に活用することが勧められるかもしれません。

筆者の感想

ウエイトリフティング競技に取り組んでいると、「もっと膝を伸ばせ!ケツに力を入れろ!」といった内的焦点を置いたトレーニング方法をアドバイスされる場面が多くありました。しかし、一部の動きに過度に気を取られると、動作全体の協調性が乱れ重量を扱えなくなることがありました。

そのような時に、指導者が「何も考えずに目の前にあるバーベルを挙げろ」と言ってくれたことを思い出しました。今思えば、これはまさにExternal Focusの考え方ではないかと感じます。

ウエイトリフティング競技では、数秒間で最大限の力を発揮する必要があります。最大限の力を発揮するためには、無意識下で複雑な動作をエラー動作が生じないように、実行する必要があります。そのためには、日々のトレーニングで考えながらフォーム習得のための運動学習を進めていき、なるべくバーベルを持ち上げることに焦点を置く必要があると改めて感じました。

お読みいただきありがとうございます。
また、執筆にあたり協力していただけたすべての人に感謝します。

タンク村上

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