400字の部屋 ♯4 「海外旅行 4」

 かつて文学界を席巻した作家が海の事を「絶対の無秩序者(アナーキー)」と表現していたが、この暗青のアナーキーが我が惑星において傲岸不遜なるアナーキーでいられるのは海による物象の破壊こそが凡ての物象の存在の源泉であるからだ。破壊と再生は循環していて大地を砕き文明を埋没させる海による破壊があり初めて微塵となった命の核が偶然に繋がり新しい生命体が誕生するのであろう。生命の持つ不可思議な命のパズルは容易には解けない。生命誕生の過程には西暦3000年のコンピュータでも解析出来ないアナーキーによる究極的な暴力が絡んでいるのだから。Bresは眼下に遥遥と広がるアナーキーを眺めて、そんな事を考えていた。
 Bresはジェットセッターで年の半分は機内で生活して残りの半分は五大陸を転転とする、そんな暮らしを5年程している。ふと、Bresは彼方の海上でオレンジ色の光が明滅しているのに気付いた。命が爆発していた。

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