400字の部屋 ♯5 「海外旅行 5」

 いつか熱帯雨林の森に入りその奥の奥に眠る何かをこの目で捉える。この世の秘密。異への入口。
 サキはその何かを「ウラン」と呼んでいて「ウラン」を想像すると現実を生きる力がほんの少し込み上げてくる感覚がある。
 サキは想像する、「ウラン」はきっとまだ猿もタランチュラもナナフシも、否凡ての生物の眼に触れていないに違いない、或いは「ウラン」はモノではないかも知れない、「ウラン」は何かが生まれる兆のような現象でしかないかも知れないし観測されると消えるようなものかも知れない、が、「ウラン」は確実に存りそれは地上で生命の密度が最も濃い濃緑の森に在る事を確信していた。
 春の気配を感じる三月の午後の授業でサキは「ウラン」の事を想像して二次関数上の任意の点での微分係数はその点の接線の傾きに等しい等等滔滔と話すネパール人のような顔をした教師の言葉を刹那遮断する。想像は数学を支配する事をサキは知っている。

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