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『介護と働く』 #10:「ありがとう」が私たちを蘇らせる、何度でも。

介護の役割分担

父の在宅介護が始まり、私たち家族の日常は大きく変わった。

ほとんど身体の動かない父の誤えんや床ずれを防ぐため、24時間誰かが付き添っている必要がある。そのため私たちは、誰がどの時間帯に父の傍にいるか役割分担している。

母は私の仕事を気遣ってくれて、私の平日の担当時間は夕方から深夜の間だ。逆に母は、仕事をほとんど辞めて、私の担当時間に睡眠を取り、深夜からその日の夕方まで父を診てくれている。

一緒にいるのに喋れない父とはコミュニケーションを思うように取れないというのはなかなかにしんどい。しかも、介護だけでなく、当たり前だがその合間に家事などやるべきこともある。

1日に数時間だけその時間を抱える私でさえ、無力感というか寂しさを感じることがあるのだから、母の苦心は倍以上だろう。


チームを支える感謝の連鎖

それでも母はなるべく明るく振る舞って父に喋りかけたり、私にも好きな料理を振舞ってくれたりしている。

その優しさで溢れた労いに、私は幾度となく穏やかさを取り戻した。そんな母の優しさを受けて、私も母の苦しみをできるだけ和らげたかった。

仕事の合間に介護や家事を行うのは当然だが、例えばあったかいコーヒーを淹れたり、外出時にスイーツを買って帰ってきたり。そんな些細なことなのだが。。

ただ、「父の介護」というチームにおいて、がんばりに対する感謝と労いの連鎖が、お互いに再び立ち上がる力を与えてくれるのである。


「ありがとう」の力

そして何より、この在宅介護を通じて改めて実感したのは、「ありがとう」という言葉の力だ。

あまりにも身近でシンプルな言葉だが、この言葉は人の魂を蘇らせてくれる。

なんてことはない食器洗いでも、「いつもやってくれて助かってるよ、ありがとう」と言われると、何度だってやりたくなる。

介護の担当を代わるとき、「今日もありがとう、また明日よろしくね」と言われると、明日もまたがんばろうと気持ちも奮い立つ。

自分は大したこともできていないと思っていても、その言葉を投げかけられると、どこからともなくモチベーションがあがってくる。

そう、「ごめん」という謝りの言葉でも、「えらい」というお褒めの言葉でもなく、やっぱり「ありがとう」が一番効力を発揮するのだ。


伝えるべき「ありがとう」を忘れていないだろうか

当たり前のことだと思われるだろうが、特にずっと一緒にいる人に対してきちんとその言葉を伝えられているだろうか。

同じ部署やプロジェクトの仲間、長年連れ添った友人、家族や恋人、に。

いままで、変なプライドとか、自分を守るためとか、こっちは嫌な思いもさせられたのだからとか、そんな自分都合の言い訳で「ありがとう」を表せず失敗したことが何度あっただろうか。

仕事やプライベートのどんなチームでも、ある程度役割分担をしたときに、分担したのだからそれをやるのは当たり前と割り切るのではなく、感謝や労いを行動や言葉にすることが明日のチームをもっと楽しくするはずだ。

仮に相手の役割における行動が自分の期待に達していなかったとしても、相手のモチベーションを上げたりチームの士気を高める上では、不満を伝える前に感謝したり労うことの意味は大きいと思う。

だから、マネジメントで叱るべきか褒めるべきかが論点に挙げられることが多いが、それ以前に素直に感謝できることが大切なのではないかと思う。「ありがとう」のその一言が、あともう一歩踏み出すエネルギーとなるのだから。



おわり


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