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【短編未満】 夜の街

飲み屋を出た後、近くにあるブックオフに寄った。特に何か買うわけではなかったけど、ぶらぶらと店内を徘徊する。

小説やビジネス書のコーナーを見ていると、ちょっと飲み過ぎたのか、急に気持ちが悪くなって「ごめん」と友人をおいて先に店を出た。

店のすぐ目の前に、いい感じに座れそうな場所があったので軽く腰掛ける。

3月になり夜風が気持ちいい。22時を過ぎていたけれど、大勢の人が行き交う東京の街は賑やかだった。

夜風を浴びていると、むかむかと気持ち悪い感覚が次第に収まってきて、ふうっと息を吐く。年々お酒が弱くなっている気がしてちょっとだけ悲しい。

しばらくすると、友人が出てきて私の隣に腰掛けた。

「何か買った?」と聞いたら、「なーんにも」と言って笑う。だいたいこの辺りで飲んだら、帰りにブックオフに寄るのが定番だった。

「こうやって夜に外で話すのってなんか楽しいよね。学生時代思い出しちゃう」

「わかる。なんで10代の頃はあんなに爆笑していたんだろうねえ」

学生の頃、友人と自転車に乗りながら地元の街を爆走したことを思い出した。社会人になって仕事が終わった後にみんなで飲んだこと、電車に乗るのがもったいないと言って夜の街を延々歩いたこと。

なんてことのない、ただの思い出である。でもあの頃は、夜に友人と話すことや、あてもなくぶらぶらと街を歩くのがとても楽しかった。

「飲んだ帰りにブックオフの前で喋っているだけ…って何してんだよって感じだけどさ、こういうのエモいよね。楽しいね」

「そうだね」

事件も奇跡も何も起きない、ただの帰り道のワンシーン。

でもこういう時間がたまらなく好きだった。生きてる感じがする。

大人になればなるほど、こういう夜の時間を過ごせなくなるのかな…なんて考えて、ちょっとだけセンチメンタルな気持ちになった。夜の街、夜の気配、全部全部好きだなあ。

「帰ろうか」と友人が腰をあげて、歩き始める。ぼんやりしていたので慌てて後を追った。春はもうすぐそこだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!短編小説、エッセイを主に書いています。また遊びにきてください♪