三毛猫ミーのクリスマス 第17話 弱いものをいじめて快感を得る人間がいるってニャ?

https://note.com/tanaka4040/n/n9c0d16eb0a28から続く


筆 者 注
前回16話から23話は、猫同士の戦闘シーンが苦手でしたら、読まないほうが無難です。

24話までお進み下さい。
24話から御覧になっても(7話分とばしても)繋がるストーリーになっています。
では、どうぞ、お進みください


カシラのジロチョー

 カシラのジロチョーは、
「カタギの猫さんを巻き込むわけにゃいかねえ」
と止めたが、負けず嫌いのあたしは、
「だって、今日の船で、帰っちまうかも知れないんだよ?そうなったら、一巻の終わり」

 もの知りリューが、その先を引き取り、
「やつらが、武装しているということは、その気で、島へ来た証拠です」
 ボス猫ハローが質《ただ》した。
「その気って、何なら?」
(何なら=山陽地方の方言で「何だい?」。岡山県・広島県・山口県あたりで生まれ育ち、捨てられた猫な証拠)

「猫を殺したり、いじめる目的です」
「なんでえ分かる?」
「はい。三つの理由があります。先ず、猫さらいでは無いこと。猫さらいなら、生きて捕《と》らえて売り渡そうとしますから、洗濯ネットで充分です」

もの知りリュー

「二番目は?」
「軽くて、小さくて、安価な、洗濯ネットで充分なはずなのに、重くて、大きくて、高価で、持ち運びにくいクロスボウを、わざわざ持参して来たということは、島へ来る前から、危害を加える意思があった証拠です」
「三番目は?」
「ストレス発散です。猫のみならず、自分より弱い者をいじめて快感を得る人間は沢山います」
「快感を得る?」
「快感を得るという表現が不当でしたら、面白がる、楽しむと言っていいでしょう」
「面白がる?楽しむ?」

「小動物をいじめたり、殺したりする様子を、誇らしげに、インターネットで公開し、逮捕された輩《やから》がいるくらいです」
「自分の楽しみで、いじめたり、殺したりするなんざ、狂っちょる」
「そうでもありません。告白していないだけで、結構います」
「なに?」
「本人の好むと好まざるに関わりなく、産まれながらにして加虐《かぎゃく》性の強い人もいれば、経験によって加虐嗜好しこうになる人もいます」
「サドか」
「はい。サディストやSMといえば、分かりやすいかも知れません。個人の趣味として楽しむ範囲でしたら、問題ありませんが、危害を加えるとなると、加害者になる危険性があり、犯罪になる危険性が高く、要注意です」
 ボス猫ハローが「むう」と腕組みして黙り込んだので、あたしが代りに尋ねた。

「強さを誇示《こじ》するのとは違うの?」
「そういうサディストもいます。弱いものを制圧することで、自分は強いと誇りたい弱者ですね」
「他には?」
「幼児性です。子供が虫を殺して遊ぶのと一緒で、誰にでも、攻撃性や、残虐性はありますが、成長するにつれ、制御、自律するようになります」
「わかる」
「一方、それが出来ない人もいます。図体だけ成人した子供は、あおり運転にしても、痴漢にしても、犯罪行為を自制する能力に欠けます」
「頭の中は、小学生のままってこと?」

「突き詰めれば、犯罪心理学の分野になりますから、詳しくは学問に譲るとして、いじめたり、殺したりして、ストレスを発散する、犯罪者予備軍よびぐんがいることは確かです」
「誰が予備軍なのか、わかるといいのに、ね」
「犯罪者になるかどうか、見た目では、判別つかないだけに、厄介です」
 確かに、事件が起きるたび「あの真面目そうな人が」とか「普通の人でした」といったインタビューを見聞きするが、世の中は、普通の人だらけで、異常に見える人は、ごく少数。むしろ、異常が故《ゆえ》に、普通を装《よそお》う。
 それに、異常だから事件を起すとは限らない。普通の人の狂気が、事件を引き起こす。
「人は、誰しも、誰かに認めてもらいたい、誰かと繋がっていたいと思う、社会性を持っています。だから、電話したり、Eメールを交わしたり、集団になって徒党《ととう》を組みますが、おそらく、今回の犯人たちも、徒党を組んで武器を持たなければ、弱いものさえ、いじめることができない、弱者であろうと推察できます」
 弱いから、武器を持つ。なるほど、北斗神拳の使い手が、武器を持つ必要は、ない。

「か弱い女の子だって、拳銃があれば、プロレスラーを斃せるからね」
「引き金を引くことができれば、の話です」
「どういうこと?」
「引くのが、狂気です。引かないのが、正気です」
 ということは、見た目に普通な狂気の弱者が三人、猫を殺傷《さっしょう》して楽しんでいるに他ならない。
「彼らは、もう既《すで》に、一匹しとめましたから、歴《れき》とした犯罪者です」
「犯罪?」
「動物の虐待を、法律で取り締まる国は多く、日本の場合、殺したり、傷つけた者は、二百万円以下の罰金。またはニ年以下の懲役」
「他の国では?」
「オーストラリアの場合、五百万円の罰金が課せられます」
「払えなければ?」
「身柄を拘束され、強制的に、刑務所の中で、作業させられます」
「刑務所!」

「働く場所が刑務所内ですから、実質的には、懲役刑と同じです」
「アルバイト先が、塀の中とは」
「日当五千円換算かんさんで、払い終わるまで働かされます。五百万円ですと、千日間、刑務所の中で、働くことになります」
「三年くらいタダ働きするのね」
「それには、法の裁《さば》き必要です」
 裁かれてこそ犯罪者であって、裁かれなければ、何も無かったかのように、のうのうと、島を後《あと》にするだろう。
「その犯罪者が、もしかしたら、今日の船で、帰っちまうかも知れないんだよ?そうなったら、もう仇《かたき》は討てない」
「味をしめて、また、いつの日か、再来するやも知れません」
「その時は、人数が、増えているかも」
「もしも、今日の船で帰らなければ、最低一週間は、滞在することになります」
「一週間あれば、どれだけ犠牲が増えるやら」
「もしかしたら、二週間。三週間。一ヶ月以上の滞在だって有り得ます」
「長ければ長いほど、次々、襲われる危険性が高くなる」
「次に狙われるのは、誰か分かりません。ボス猫ハロー親分かも知れませんし、カシラのジロチョーさんかも知れませんし、三毛猫ミーさんかも知れませんし、黒猫クーかも知れませんし、僕かも知れません」
「いずれにしても、今ここで仇を討っておかなくちゃ、また誰かが殺される」
「そういうことなら、力になっちゃるけん」
と、ボス猫ハローが言った。

「狙われるモンより、狙うモンのほうが強いんじゃ」

https://note.com/tanaka4040/n/nd3a9c76ca64bへ続く



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