三毛猫ミーのクリスマス 第16話 キティ組の若いモンが殺られたって?

https://note.com/tanaka4040/n/na7896bb8ea1bから続く


筆 者 注

この16話から23話は、猫同士の戦闘シーンが苦手でしたら、読まないほうが無難です。

24話までお進み下さい。

24話から御覧になっても(7話分とばしても)繋がるストーリーになっています。

では、どうぞ、お進みください


 飲まず食わずで、一晩中、宙吊りになっていたシャドーを、念のため、動物病院へ連れて行くことにした。
 動物病院の前は、黒山の猫だかりで、立錐《りっすい》の余地さえなかった。おそらく、千匹は下るまい。
「こんなに混んでいる動物病院を見たのは、初めてですよ。どうしたんでしょう?理由が分かりません」
と、もの知り猫のリューが困惑していると、黒猫クーも、
「院内だけじゃなく、外まで、猫が溢《あふ》れかえっているなんて」
と驚いている様子だった。そこへ、
「おおう?黒猫のクー坊じゃねえか」
と、クリーム色の猫が近寄ってきた。

 顔の中心部のみ黒く、全体的にクリーム色ということは、シャム猫の混血種なのだろう。
 細身のシャムにしては筋肉質だが、無数の傷跡《きずあと》で、つややかな被毛《ひもう》が、所どころ禿《は》げている。美しき歴戦の勇士といったところか。
 黒猫クーも近寄って、
「あっ、カシラのジロチョー。この混み具合は、どうしたの?」
「どうもこうも、ヘタすりゃ、戦争になるかも知れねえ」
と、組頭《かしら》のジロチョーと呼ばれたシャム系の猫は、狼狽《ろうばい》しつつ、事情を説明してくれた。組頭《かしら》ということは、どこかのグループのナンバー2に違いない。
「ウチの若いモンが、矢を打ち込まれて、殺《や》られているのが、猫ヶ森《ねこがもり》で、見つかったってワケよ」
「え!」

 あたしたちは顔を見合わせた。あの時の断末魔の悲鳴は、やはり、猫だったのか!
「そいつを、ここへ来る途中のカクサーが見つけ、運んできてくれたってワケよ」
 矢を打ち込まれたとなると、人間の仕業であることは明白。
「奴らの仕業に違いない」
と、あたしが呟《つぶや》くと、カシラのジロチョーが、
「姐《ねえ》さん、何か知ってるのかい?」
と訊《たず》ねてきたので、今朝の襲撃《しゅうげき》事件を話して聞かせた。すると、
「姐さん!ちょっと来ておくんなせえ」
と言い捨ててから、病院前にたむろしている猫たちへ向かって、
「やい!てめえら、道を開けろ!」
とカシラのジロチョーが命じたとたん、海が割れたように、一本の道が、病院の玄関へ延《の》びた。威令《いれい》が行き届いている組織の猫で埋め尽くされている様子が見て取れる。
「さ、さ、こちらへ」

 両側を塞《ふさ》ぐ猫の壁に守られるが如《ごと》く、一本道を、カシラのジロチョーが先頭に立って進む。その後を、あたしたち四匹が続く。
 病院内へ入ると、診察室へ通された。診察台の上に、矢の突き刺さった猫が横たわっている。
 その猫を見下ろすかたちで、眉間《みけん》にシワを寄せた猫が、診察台の上に立っていた。
 気難しそうに口元をヘの字に結んでいるのは、エキゾチックという猫の特徴である。
 エキゾチックは、いつも困っているような、怒っているような、泣いているような、感情を読み取りにくい顔で、ムッツリしている。

 その猫の元へ、カシラのジロチョーが進み寄り、何か耳うちしたかと思うと、エキゾチックは、
「何じゃと?」
と、あたしへギョロリと視線を向け、
「そいつは難儀《なんぎ》じゃったのう」
と、深々と頭を下げた。
 黒猫クーがヒソヒソ声で、
「あのエキゾチックは、この島で最大の縄張りを持つ、キティ組のボス猫ハローだよ」
と囁《ささや》くが早いか、低くドスの利いた声で、
「わしゃあ、ハローっちゅうモンじゃあ」
と名乗った。

 あたしも負けじと低音《ていおん》で、
「あたしゃあ、三毛猫のミーっちゅうモンじゃあ」
と自己紹介した。
 ボス猫ハローは笑って、
「面白い姐《ねえ》さんじゃのう。ところで、あんたを襲った三人組の顔、見たんかいのう?」
「見えなかった。いや、見る余裕さえなかった」
「ほうかい」
「暗視《あんし》ゴーグルを付けていたし、ね」
「それじゃあ、見たとしても、面《めん》は割れんのう」
 見ていないと答えているのに、見たとしたら?と仮定するあたり、相手の言葉を容易に信用しない用心深い性格が覗《うかが》える。あたしは一言半句《いちごんはんく》に注意しながら、
「唯一わかっていることは、クロスボウという飛び道具を持っていること」
と証言し、横たわった猫に突き刺さっている矢を一瞥《いちべつ》してから、

「あの武器には、敵《かな》わないよ」
と、正直な感想を吐露《とろ》した。すると、ボス猫ハローは、
「そがな考えしとると、隙《すき》できるぞ」
と忠告した。
「殺《や》られると思えば、逃げ腰になる。逃げようとすれば、敵に後ろを見せる。敵に後ろを見せれば、スキができて、殺られる。そんなもんじゃ」
「そうね」
 確かに、あの時あたしは、戦わず、逃げようとした。もしかしたら、逃げて逃げまくった末《すえ》、殺されていたかも知れない。
 たとえ戦ったところで、殺されていたかも知れない。いずれにしても、殺されていた可能性は高い。
 ところが、殺されたのは、あたしじゃなかった。

 言い換えれば、あたしの身代わりになった猫が、今、目の前に、側臥《そくが》している。
「許さない」
 怒りに身を震わせていると、黒猫クーが、
「冷静に、ね?」
と抑止した。しかーし、しかし燃え始めた怒りの炎は容易に消えない。
 すると、カシラのジロチョーが、
「お天道《てんと》さまは許しても、俺らが許さねえ」
と、フーッと牙を剥《む》いた。
 ボス猫ハローも頷《うなず》いて、
「わしらが仇《あだ》を討《う》たにゃあ、死んだモンに、スマンけえのぉ」
「あたしも、やるよ」
 それを聞いた黒猫クーと、もの知りリューと、ロシアンブルーのシャドーの三匹が、
「エッ?」
と驚いた。
「一人でも、やる。最初に狙われたのは、あたしだからね」

https://note.com/tanaka4040/n/nf4629274450eへ続く




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