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ビブリオテーク

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読んだ本について紹介。紹介するのは、他の人があまり読んでいない本ばかりかと。
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2020年6月の記事一覧

三体Ⅱ 黒暗森林/劉慈欣

「あの時代は、みんなが死ぬほど怯えてて、莫迦なことが山ほど起きたから」 読み終えた、劉慈欣(リウ・ツーシン)の『三体Ⅱ 黒暗森林』を。 みんなが怯えてて莫迦なことが山ほど起きている状況で。 読みながら、人間は、怯えて混乱して莫迦になってる状況と、怯えにとらわれることなく呆けている状況のいずれかしかないのかもしれないと思った。 ようは、どちらにしても賢い選択などできないのかもしれないのかと。 予測できないことが起こった世界でこの『三体Ⅱ』は、前作『三体』が2006年に連載

偶発事の存在論/カトリーヌ・マラブー

なんともオリジナリティのある本だ。 ほかの本と交わる感じがしない。孤立している。 そんな印象を受けた。 まさに、この本でテーマにされている「破壊的可塑性」そのものだ。 本書でいうところの可塑性とは、主体が外部からなんらかの作用を受けつつ、それを内部での変化へと変換することを通じて自らを作り替える様を示す概念だ。 そこに「破壊的」という形容が加われば、取り返しのつかない形で主体が上書き更新されることを指していることになる。 つまり、破壊的可塑性が作動したのち、主体はかつての主

2020年前半に読んだ20冊の本

読書はなにか特定のジャンルに絞るより、雑多だけど、自分のアンテナに引っかかったものは、とにかく読んでみるのがいいと思う。 外側にあるジャンルでまとまるよりも、自分が読むことで本同士の関係を見つけていく。それにより本と自分の関係も生まれる。本を読むのってそういうことかなと思うのだ。 そこには当然いつ読んだかということも関わってくる。 この半年はやはりコロナ禍ということが本をどう読んだかにも大きく影響を与えていたはずだ。 そこにもともと興味をもっていた持続可能性というテーマ

銀河ヒッチハイク・ガイド/ダグラス・アダムス

あー、答えだけ手に入れたって仕方ないんだなって思った。 特に自分で苦労もせずに、誰かがくれる答えをもらったところで仕方ないんだと。 だって、答えの意味がわかるためには、問いの意味がわかってないといけないから。 でも、往々にして、他人から答えだけ教えてもらおうなんて安易に思っている輩は、問いの意味を理解する力も根性も持ち合わせていない。 だから、高い代償払って延々待ちわびて得た答えの意味不明さに、頭が真っ白になって、「こんなの詐欺だ」と言いだすことになる。 いやいや、詐欺

ノヴァセン/ジェームズ・ラヴロック

まさかこのタイミングでラヴロックの新しい著作が読めるなんて思わなかった。 ガイア理論の提唱者として知られる英国王立協会フェロー、ジェームズ・ラヴロック。 1919年7月生まれの彼の100歳の誕生日に、この本は出版された(つまり、もうすこしで101歳を彼は迎えるわけだ)。 大気学者であったラヴロックがNASA勤務時代に、地球がひとつの生命体のような自律的な統制システムであるというガイア理論を提出したのが1960年代だったから、そこからでも半世紀が経っている。 そのラヴロック

森は考える 人間的なものを超えた人類学/エドゥアルド・コーン

私たちは厚さ数キロメートルに満たない薄いバイオフィルムのなかに生きていて、そこから逃れることはできない─しかもその薄い膜がどんなリアクション(化学変化、地質学的機序や社会への影響)をしてくるのかほとんどわかっていない、と「クリティカルゾーン主義者」なら付け加えるだろう。 「地球に降り立つことへの7つの反対理由 ブリュノ・ラトゥール『クリティカルゾーン:地球に降り立つことの科学と政治学』序論」と題された論考で、社会学者のブリュノ・ラトゥールは書いている。 地球という球体を地図