見出し画像

なぜうつわが好きなのか

うつわ【器】
1 物を入れるもの。入れ物。容器。「器に盛る」
2 人物や能力などの大きさ。器量。「人の上に立つ器ではない」
3 道具。器械。
(デジタル大辞泉)

人の暮らしの基本は「衣食住」。
その中でも、ある程度の文明社会において、最もダイレクトにその価値が見出されるのは「食」である。

飽食の時代にあって「食」の場面における「うつわ」の重要性は今さら述べるほどでもないと思うが、今あらためて自分にとってのうつわの価値というものを考えてみる。


♦︎料理への干渉

大きく二つあって、
・味そのものへの影響
・見た目への影響
だと思うのだけど、他にあるかなー。

前者に関して、私がこれまで感銘を受けたのは「ビールグラス」。

*鳥取の出西窯で購入。
中が素焼きのままなので、細かい穴がたくさんあいている。これがビールの泡を細かくしてくれるので、炭酸の逃げにくい、泡も抜群においしいビールが出来上がる。
一回、グラスいっぱいまでビールを注ぎ、泡が一旦収まってからそっと縁まで注ぐと美味しくなる、らしい。

出西窯は今かなり有名になっていて都内のいたるところで販売されているが、現地では窯の見学もできるし、うつわ好きにとっては埋もれて死にたいくらいの量の展示がされているのでぜひ行っていただきたい。
車がない場合はタクシーになるが、運転手さんは基本いい人が多い。(1時間半買い物してる間も待ってくれた)

見た目への影響については言葉で説明するのも野暮なので、Instagramで「#うつわ」で検索。
(なお「#ていねいな暮らし」ではあまりヒットしない。)

*これらはすべて、先日旅した沖縄本島で見つけたもの。
やちむんという。おおらかな絵柄で手に馴染みやすい、フレンドリーなうつわたち。


♦︎私がうつわにはまった、もう一つの理由

それは、これらはそれぞれの村単位で受け継がれてきた、最も身近な芸術だということ。

うつわの構成要素は
・土
・火
・釉薬(うわぐすり) で、
これらに人の手が加えられることで、その土地その窯 独自のうつわができあがる。

土と釉薬の組み合わせでバリエーション豊かな色を生み出し、道具を使ってさまざまな模様を描き出す。

*岐阜県高山市の小糸焼。
私がうつわにはまった最初のきっかけ。
使い込んで表面のさわり心地が変わっていくのも素敵。これからもずっと大切に使っていきたい。

ただ、どこの窯であっても、そのものづくりの始まりはアートとしてではなく、あくまで日用品の生産というものであったはずだ。私はそれを思うといつも心があったかくなる気がする。

われものの日用品だから、必然的に、窯業従事者はたくさんのうつわを効率よく生産する方法を昔から考えてきた。
焼くときも、なるべくたくさんのうつわを(窯の熱が万遍なくいきわたるように)焼き上げられるよう、共同の大きな窯をつくって、皆で一斉にうつわを焼いていたのだ。
こういう窯は、今も窯業のさかんな各地に残っている。

焼くときには高い確率で失敗作ができる。きれいにできているかは、焼いて、冷まして、窯を開けてみないとわからない。

失敗しても、陶器はそのままでは土に還らない。
僕らの仕事は、土を削るし木も燃料にするし、地球にはなんもいいことしてないよ。そう話す陶芸家がいたなあと思い出す。

材料の新しい組み合わせは、失敗に終わることもあれば、見たこともない色や柄を偶然生み出すこともある。
そういう発見を伝統に仕立ててきた、名もない陶芸家たちを私は尊敬する。

彼らの無名の手仕事が、まわりまわって自分の目の前にある。
どんなに忙しくても、この小さな入れ物でコーヒーを飲めることが、私の生活の大事な一部になっていると思う。

この記事が参加している募集

最後まで読んでいただき、うれしいです。 サポートをいただいたら、本か、ちょっといい飲みもの代に充てたいとおもいます。