モノホシザオ

【小説】

 

 痛ッ!

 ヌンチャクで右側頭部を強打し、三体目を倒したところで後ろからほかのヤツに羽交い締めにされ、左肩に喰らいつかれた。

 そろそろ抜くか――。
 仕込みのヌンチャクの鞘を外し、白刃を後ろのヤツの脇腹に突き立て、怯んだ隙に身を屈め、そのまま腕のつけ根まで一気に切り裂いた。
 噛まれた肩に触れてみる。変態した長い歯牙が深く刺さったようで流血が止まらない。
 やばいな。残り七体すべてを倒すまで持つだろうか――。

 突然の変態だった。一部始終を見ていたが、何がきっかけなのかわからなかった。
 僕は担当する作家との打ち合わせで国営放送近くのカフェに来ていた。店内は満席で客は2~4人ずつテーブルについて寛いで話しているように見えた。それが、背後で騒がしくなったと思ったら、店内のそれぞれのテーブルから一斉に十体の闇が出現した。同行者を襲い、店員を切り裂き、僕らのテーブルに近づき作家の腕を掴もうとした。
 僕はすかさずヌンチャクを抜き、その腕を振り払い、作家を守るように背後においた。そして近づくヤツから順に鉄棒を脳天に喰らわせていく。窓の外には異変に気づいた国営放送の連中がカメラを回し始めた。

 肩からの流血が止まらない。
 僕は作家を庇いながら、残る七体の闇を誘導するように店の外に出る。

 外は眩しいほどの光に溢れている。
 七体の闇はワラワラと僕を囲むように広がり、それを遠巻きにして、報道陣とギャラリーで人垣ができた。

 まずいな。この闘いを見て、あの野次馬のなかから闇が誘発されるかもしれない。榊さん、この映像を見てるなら、早く特殊部隊を送ってくれ。ひとりじゃ、守りきれないかもしれない。

 頭から細長いツノを生やしたヤツが、いきなり突進してきた。仕込みの白刃でツノを切ろうとするが、キーンという金属音とともに、刃がこぼれた。
 硬い。白刃に鞘を戻し、背後に回り込みながら、僕はヌンチャクでヤツの後頭部を思いきり叩いた。ドスッという音をたてて、前のめりにヤツが沈む。

 これで一体。

 次は複数で襲ってきた。前からニ体、後ろから一体。それぞれとの距離を見切って、まずは振り向きざまに腰を屈めて、鉄拳でヤツの心臓のあたりを打ち、翻して飛びながら脳天に一撃。後ろから蹴り倒し、残りの二体の間に転がす。

 よし、次に右のヤツだ。ヌンチャクを両手で持とうとしたら、やられた。鋼鉄棒の片側を別のヤツに握られた。蹴りを入れるがまったく効き目がない。もともと生身の格闘には向いてないんだ。

 生身の格闘……ハイキックの少女……。ふいに北川ミナの闘いぶりを思い出す。こんなときにっ!

 残りの四体がいまにも襲ってきそうだ。
 くっ、〈覚醒〉できたら、こんなヤツら――。

 北川……。

 

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(北川ミナの病室)

 

「お、じ、さん?」

 いつの間にか、背後から端末の映像を覗きこんでいた北川ミナがつぶやく。

「北川、目覚めたのか!」

「怜子さん、あたし、この人を知ってる……気がする」

 この男との接点はできれば作りたくなかった。この男のことを思い出さないまま、北川には再生を完了してほしかった。だが、そんな虫のいい話なんかないか。私はこの男と北川ミナが再び共に闘うことを思い、暗澹たる気持ちになった――。

「あっ、危ない!」北川が叫ぶ。

画面では、あの男が窮地に立たされていた。

 

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 さっき噛まれた肩に背後からもう一度喰いつかれた。前からはゴリラみたいに膨れた腕のヤツが顔を鷲掴みにする。そのまま持ち上げられ、足が地面から離れる。ほかのヤツらに腕や足をとられ、身動きがとれない。

 喰われる!

 全身をアドレナリンが駆けまわり、心拍数があがる。その時――。

 正面の人垣を越えて、巨大な鳥が羽ばたいた。

 それは長い光のようなものを天に突き刺し、跳びながら一気に距離をつめてゴリラみたいなヤツの背中を切り裂いた。光の剣はヤツらの腕や首を次々と身体から切り離し、最後に一角獣のようなヤツの硬いツノを一刀に切り落とし、心臓をひと突きにした。

 すべての闇が倒れ、その真ん中に立っていたのは鳥ではなく、まだ少年の面影を残した和装の青年だった。まるでモノホシザオのように長い剣に付いた血糊を懐紙で拭い、ゆっくりと鞘に収める。

「大丈夫ですか?」

 息も切らさず涼やかな声で、まるで祭り見物でもしていたような落ち着きのこの男は――。

 

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 誰だ、コイツは? あの剣さばき、あの跳躍、素人じゃない。私が把握する〈候補〉には、いない。

「どこかにデータがあるはずだ! この男の身元を徹底的に洗え!」

「榊 特対課長、いま、特殊部隊が現場に到着しました。二人を本部にお連れしますか」

 北川ミナとあの男を会わせたくはない。が、仕方ない。

「あの男を本部の医務室へ運べ。そして、“モノホシザオ”は銃刀法違反で引っ張れ。私が直接取り調べる」

 

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※本作は、マガジン『闇との闘い!』に掲載した以下の作品の続編です。
※本エピソードは、『ハイキックの少女(仮)』から繋がるシリーズです。初めての方はこちらからお読みください。

 

真昼の決闘

3分間の決闘

決闘!ヒーローショー』(全3回連載)

ハイキックの少女(仮)』(全7回連載)

再生

啓蟄

憐れみ

0.0000000003%のリスク

Sparring ーRound 1ー

Sparring ーRound 2-

モンスター

 

tamito

作品一覧

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