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いつものように故郷を求める。


#この街がすき

私は地元が好きだ。上京する前から、高校で自分の地元に友達を連れてきたりして。「いいでしょ!」って見せびらかせていた。その友達達の心にどれくらい響いていたのかわからないけど。

でも、別に小中学生生活が最高だったというわけではない。なんなら中学時代が一番辛かったまである。

それでも地元をこんなに自慢したくなるのは、あの大らかな空と山々と溶けそうな太陽がいつも迎えてくれるからだと思う。

小さい頃から不満とかネガティブな気持ちとかは、自分に収めてしまいがちだった。放出すると言ったら自室の布団の中だ。王様の耳はロバの耳の現代お手軽ヴァージョン。親にも友達にも不満は言わない。言うと驚かれ、「普段あんなにいろんな物事がうまく行っているじゃないの。何をあなたの人生に気に病むことがあるの。」と諭されるのが面倒だった。知るか。

そんなストレスのせいで心に脂肪溜まりまくり中学生を癒してくれたのは、中学校の通学路の途中にある森の中の坂道だった。春は山桜とへたっぴな鶯の声。「鶯も新人だけど頑張って鳴いてる。私もがんばろー」と思えた。夏は樹木の芳香漂う涼風。「私の怒った体を冷やしてくれてありがとう」と思えた。秋は落ち葉の香ばしい匂いと弾けてとろとろと中身が流れる柿の芳醇な匂い。「盛りが終わってもこんなに綺麗で人を魅せられるのだ、私も大丈夫」と思えた。冬は日々赤やオレンジ、ピンクや紫に染まる朝日。「こんなに綺麗な朝焼けが見えるのだったら、もうちょっと頑張って生きよう」と思えた。

今、上京してそれらを見る機会は皆無だ。いつかはあの体験を再度味わうために、地元に帰りたいと思っている。

でも、今でも私の頭の中にはすぐにあの風景と匂いと温かさが蘇る。今の時期だと、春の甘い花の匂いとちょっと臭いような花の匂いが混ざった風。日中の暖かさが終わって冷えたからこそ薫る忍びやかな花の匂い(これはドライヤー後の髪の匂いに似ている。これも私は好きなのだ)。薄いニュアンスカラーの空。たまに見えるピンクの夕焼け。強い風。急な雨。全てが故郷を思い出すトリガーとなる。それが嬉しくもあり、辛くもある。

あと数年間は事あるごとに故郷を思い出しながら都会で暮らすことだろう。どれくらい持つのだろうか。分からないけど、「地元が好き」とニコニコと言いながら地元で暮らせるように今を頑張りたい。故郷に錦を飾るとまでは言わないけどね。

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