見出し画像

逆・タイムマシン経営論 書評

この本は、稀代の名作、「ストーリーとしての競争戦略」の著者である、楠木建先生が書かれたということで、手にとってみた本である。

結論から述べるとすると、「企業経営のトラップ」が書かれている本である。経営を一気に塗り替える飛び道具は要注意。激しく動くと見せかけて、じっくりと世の中は動く。遠いものほど良く見えるように見え、近いものほど悪く見えがちである。つまりは、「〜と見せかけて〜」というという罠を過去の歴史から紐解いている。
経営学の本には、「こうすればうまくいく!!」というおめでたい本が非常に多い。MBAにもまるで方程式を組むように物事を見る人もいる。この本は、そんな夢想家へのタックルのような本だ。夢見すぎな諸君が目を覚ますにはもってこいの本である。

この本は1.飛び道具トラップ2.激動期トラップ3.遠近歪曲トラップの大きく分けて三部に分かれている。一つ一つ、ざっくりとした要約と感想を残すとしよう。

1.飛び道具トラップ

いつの時代も必殺の飛び道具トラップが世の中には出現する。これは「ビジネスモデル」や「ベストプラクティス」と言われる。その代表例として「サブスク」が紹介されている。サブスクには、近年ではアドビが成功を収めている。しかし、アドビが成功を収められた理由は結局のところユーザーからの必要性が高いからである。逆に言えば、ユーザーからの必要性が低く、簡単にスイッチor 退散させられるような商品やプロダクトでは「サブスク」は特に良い打ち手ではない。また、サブスク単体でやったところでそれが差別化になることはなく、サブスク発動までの戦略ストーリーの方がはるかに重要である。
就職活動では、ビジネス未経験のキッズたちが大人の社会に対して「提案」をしなければならないのだが、そこには「サブスク」という言葉が非常に飛び交い、まるで必殺技かのように発動される。是非ともプレイヤーにも審判にもこの言葉を吟味してほしいと痛感した。

2.激動期トラップ

世の中ではいつの時代も「今こそ激動期」と叫ばれている。そして、未来はこうなるという予測に簡単に流されてしまい、「今こそ激動期!」という言説を信じてしまう。しかしながら、未来予測はとことん外れ、大きく動くようでほとんど動かないのが世である。
例えば、自動車業界。自動車業界では、エレクトロニクスが組む込まれることが予測され、50年が経過した一方、それは達成されていない。なぜならインフラの整備が進まないからである。技術的にできるのと実際に行われることへのギャップは明確に存在しており、「激動!」と叫ばれても実際に前に進まないのが現実的な考え方である。

3.遠近歪曲トラップ

人々は、遠いものほど良くみえ、近いものほど粗が目立つという認識バイアスを抱えている。例えば、シリコンバレー。シリコンバレーには、アップルやフェイスブックのような稀代の成功企業があり、皆シリコンバレーはすごい!東京はだめ!となる。しかし、シリコンバレーにもポンコツ企業は多いのが現実であり、シリコンバレーはむしろ消えた企業数では大きく上回る。

感想としては、さすが楠木先生ィ!と思うようなメタファーが飛び交い、表現としての面白さが残る「面白い」本である。また、上記では紹介されていなかったが、なぜ罠に引っかかるのかについてもいくつかの要因の相互作用によって説明されており、やはり稀代の論理家だと痛感した。

ここで挙げられた具体例が役立つというよりかは、ここで一貫して伝えられていた論理が役立つであろう。つまり、結局のところ「マジックワードに釣られずに本質を追い求めろ。」という話である。

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?