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Vol.4 地域の人と共に1900年余、大國魂神社と季節の祭り。

新宿駅から京王線特急電車に乗って20分ほどで到着する府中駅。都心への通勤もスムーズな、東京都府中市のメインステーションです。この駅から歩いて5分、旧甲州街道沿いにどーんとそびえる大きなケヤキの木と大鳥居。ここに、毎年7月20日は色とりどりの露店が並び、朝から人々で賑わいます。大國魂神社(おおくにたまじんじゃ)のすもも祭です。

朝から露天商が店を開け、賑わい始めるすもも祭。午後には神楽の奉納もあり、日暮れ後までにぎわいが続く。まずは大鳥居をくぐって、拝殿を目指す。

からす団扇を片手にすももを買う、府中の夏

この祭りの由来は、平安後期に東国で活躍した武士、源頼義・義家親子が戦勝のお礼参りに大國魂神社にすももをお供えしたこと。やがて境内にすもも市が立つようになり、祭りになったと言われています。

ネットに入ったすももがぶら下がる露店の軒先。甘い香りが辺りに漂う。いろいろな品種が売られていて迷ってしまう。

この日に人々が訪れるのは、旬の味覚、すももを買うためだけでなく、厄除けのからす団扇(うちわ)・からす扇子(せんす)を手に入れるため。古くから、“からすを描いた団扇や扇子で扇げば厄払いになる”と言われていて、すもも祭は夏の厄除け・五穀豊穣・悪疫防除の祭りでもあるのです。

拝殿近くで頒布されるからす団扇(800円)とからす扇子(大・3000円、小・2000円)。この日だけの縁起物を求めて人々が列をなす。7月20日の頒布は朝6時から夜9時ごろまで。

お参りした後にからす団扇を手に入れた人々は、すももを買ったりかき氷を食べたりしながら、露店の並ぶ参道をぶらつきます。まぶしい夏の光の下、からす団扇で扇ぎながら人々が行き交う様子は、大國魂神社の夏の風物詩です。

神社の伝統行事の保護・継承活動などを担う氏子青年崇敬会の奉仕による、〈すもも氷〉はこの祭りならではの味。すももが丸ごと1個ついて、冷たさと酸っぱさが暑気を払ってくれるようなおいしさ。

1900年の歴史を持つ大國魂神社と街の人の営み

大國魂神社は東京都内でも有数の歴史ある神社の一つで、創建は111年。卑弥呼が活躍したとされる時代よりさらに100年以上も前のことです!大化の改新(645年)には、ここに地域の役所である国府が置かれ、武蔵国の中心的役割を果たしました。
大國魂神社は今も「武蔵総社」と称します。武蔵国とは、現在の東京都、埼玉県と神奈川県の一部のこと。大國魂神社に祀られる神様は、この広いエリアを守っているのです。

大國魂神社では、武蔵国の著名の神社6ヶ所をも合わせて祀っているので、「六所宮」とも呼ばれる。

古い歴史を持つ神社だけに、時の武将との関わりも深く、建物や祭りの由来などを紐解けば、あちこちに歴史上の人物の名前があるのも興味深いところ! 
たとえば大國魂神社の前から北に伸びるケヤキ並木。古くは1062年に源頼義・義家によって寄進された1000本のケヤキが始まりだと言われています。その後、徳川家康も関ヶ原・大坂の陣の戦勝のお礼にこの地にケヤキを植えたそう。家康といえば、境内に東照宮が祀られているのも、没後に亡骸を日光に運ぶ途中、ここに立ち寄ったことに由来します。

大鳥居の前からまっすぐに伸びるケヤキ並木はまるで緑のトンネル。大正13年に国の天然記念物に指定された。
2011年に大國魂神社1900周年を記念して改築されたヒノキ造りの門、隋神門。向こうに、大鳥居が見える。

大國魂神社に心を寄せてきたのは彼ら武将だけではなく、武蔵国の人々も同じ。今も地元の人々にとっては、大國魂神社は日常に溶け込んだ風景であり、心の拠り所です。
祭りの日以外に訪れてみると、それをよく実感できる風景に出会えます。地元の人たちが買い物のついでや通勤通学の途中にお参りしている姿。鳥居や門をくぐる時に、頭を下げる姿。その様は、とてもさりげなく、自然です。
大國魂神社の氏子として祭りの運営などを担ってきた大室容一さんは、「1900年も前からこの場所に鎮座してきた神社ですから、この街に暮らす私たちにとって当たり前の存在です。周りで生まれ育つうちに、いつの間にかそういうしぐさが身につくんですよ」と言います。

神社は市民を守り、市民は祭りを支える

特に、大國魂神社の存在感がぐっと高まるのが、祭りの時。街全体が盛り上がります。大室さんも「こんなに年中、祭りのある神社もそうそうないのではないかな」と言うほど、初詣から始まり、節分の豆まき、酉の市に年末の晦日市まで、大國魂神社では毎月のように神事や祭事が行われています。
中でも最も大きな祭りが、春に行われる「くらやみ祭」です。
「神社を支える氏子として私たちも一年中忙しいですが、特にくらやみ祭の準備は大切。だいたい正月が明けたら、提灯(ちょうちん)や神輿(みこし)の状態を確認する倉庫調べがあり、それから神輿の整備や飾りの準備、お囃子(はやし)の練習などが始まります」

境内の宝物殿に保管されているくらやみ祭の神輿と氏子の大室容一さん。地元の人と大國魂神社・祭りとの関係について教えてくれた。

くらやみ祭は大國魂神社の例大祭で、例大祭は1年間に神社で行われる祭祀のうち最も重要なものと位置付けられています。祭りは4月30日の清めの儀式に始まり、5月6日の早朝に神輿がすべて神社境内に還るまでの1週間、さまざまな儀式や行事が行われます。

こちらは5月4日に開かれる「万燈大会」。花飾りのついた「万燈」の出来栄えや回し技を競います。市内の各青年会が中心となり、高さ3m重さ50kgもある万燈を回す様は、華やかかつパワフル!

くらやみ祭のメインは、5月5日に行われる神輿渡御(とぎょ)。8基の神輿が街の中を巡行します。この神輿渡御が行われるのは、日没後です。かつては夜の闇の中で行っていたそうで、くらやみ祭の名はここから来ているそう。
「神輿の渡御の際には、6張りの大太鼓が神輿を先導します。その音は家の窓に響くほど。ぜひこの大太鼓の音を体感してほしいですね。府中のくらやみ祭ならではのものですから」

大國魂神社の宝物殿に保管されている大太鼓の前に立つ大室さん。6張りある大太鼓の中でも、これは小さい方だそう。

この大太鼓、すごいのは音だけじゃなくて、その大きさ。くらやみ祭では、この直径2m前後の大太鼓が神輿を先導するのですが、上に人が立ち、叩き手が太いバチで太鼓を叩きながら進みます。これぞ大國魂神社のくらやみ祭! 独特で圧巻の景色です。
「かつてはこんなに大きくなかったんですよ。昭和30年代以降にだんだん大きさを競うようになり、新調する度に、より大きなものが作られるようになりました。今では日本のトップスリーの大きさを誇る大太鼓となっています。飾りや展示物ではなく、毎年の祭りに登場する現役の太鼓だっていうことが誇りです」

こちらが最も大きい大太鼓「御先祓大太鼓(おさきばらいおおだいこ)」。神輿渡御の先頭を進みます。丸太をくり抜いて作るくりぬき胴太鼓としては、日本最大のもの。直径は2.5m、重さは27,500kg。

名物の音は意外にも、力一杯叩けば鳴るものでもないんだとか。練習を重ねてようやく響かせることができるようになると大室さんは言います。
「祭りのすべては神社と一緒に地元の人たちが協力して運営し、受け継いできたもの。子どもたちは大人の太鼓を叩く姿や神輿を担ぐ姿を見て育ちます。お囃子のリズムや太鼓の響きは体に刻み込まれ、小学生になったらお囃子を習い始めます。神社の祭りに携わることは地域社会に対する奉仕。都心からも近くて半分都会のようなこの街で、神社を中心としたこういう暮らしが連綿と続いているんですよ」

境内にはお酒の神様「松尾神社」も祀られている。毎年秋の例祭には、東京の蔵元が樽酒を奉納する。10月5日には、東京酒造組合主催の「武蔵国の酒まつり」も開かれる。

都心からほど近い街の真ん中にある緑豊かな大國魂神社。古の時代よりここを中心に街が広がり、神社の年中行事とともに人々の暮らしが営まれてきたんだなあ……そんなふうに思いを馳せるのも、大國魂神社の祭りの味わい方のひとつです。
祭りごとに由来があり、その雰囲気も情熱的だったり静謐だったりとさまざまで、それぞれに味わい深いもの。年間の祭りについては大國魂神社のウェブサイトに紹介があります。少しでも興味が湧いたらぜひ足を運んで、府中の街の人と一緒に楽しんでみてください。

【Vol.5:9月後半公開予定】
次回は、奥多摩町のわさび作りについてお伝えします。お楽しみに!

【イベントは終了しました】8月23日(金)〜25日(日)には、愛知県名古屋市で開かれる「にっぽんど真ん中祭り」にブース出展します。詳細はTAMAワンダーの公式WEBサイトでチェック!

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