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毛布のなかで眠りたい

眠らないまま明けた。個展1週間を切った冬の夜は、あたたかい毛布が恋しい。

ふらふら工房から出てリビングに行くと、キッチンで毛布がまあるく膨らんでいた。象をまるのみしたウワバミか?

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「なにこれ?」ぱたぱたと出かける準備をしている息子に聞く。

「鶏むね肉でつくってる」。

相変わらず言葉たらずで、ウワバミは象でなく鶏をまるのみしたのか?と、情報は遠いほうに更新されただけだった。

昨日、ひさしぶりに休みだからと焼きそばをつくってくれたばかりなのに、またなんかつくってくれているのか、ありがとうと頭をさげるとふらふらした。完全な寝不足だ。

「ああ、焼きそばべちょべちょだ、失敗した」と、すこし悔しがっていた顔を思い出した。「いやいや、じゅうぶんおいしいよ」と、疲労困憊でも唯一劣らない味覚を主張したが、それでも納得していない表情だった、そういや。


「ウワバミ、ちょっと開けてもいい? 」と、ペロリと毛布をめくる。やめろよという顔をしながらまた言ってる。

「鶏むね肉でつくってる」。

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ようやく、鶏むね肉の説明をはじめるが、しかし時間がないとのことで、情報不足だが、メモしておこう。なんて料理よ?

「トリハム」。


「トリハム」
たぶんな材料

鶏むね肉 1枚
調味料 (たぶん塩のみ※1)
月桂樹の葉 1枚
ジップロック 1枚
熱湯 ※2
土鍋と毛布
※1 追加オリーブオイル
(後日ヒアリングで判明)


詩人ギヨーム・アポリネールは、シュルなレアリスムだなと言っただろう、その料理の光景を。

鶏肉と月桂樹の葉1枚入りジップロックが、黒い土鍋にぎゅっと入っている。そこに沸騰させた熱湯※2 (改訂あり)を注ぎ、土鍋のふたをしめ毛布に包み1時間待っているのだという。途中、もう一回熱湯を追加したらしい。ウワバミ姿は、土鍋保温調理をしたというわけだ。

※2 土鍋で湯を沸騰させ火をとめジップロック入れて保温。(後日ヒアリングで判明)

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もういいだろうと、肉を切る。
ジップロックのなかの汁がおいしい、あとで使うとぶっきらぼうだ、まったく。

「本当は炊飯器でやるんだ」。

良質なタンパク質を必要とするサッカー選手がやってたという。なるほど、アスリートのレシピで料理欲がわくのか、興味深い。


ウワバミがまるのみした鶏は、うすいピンク色だが生焼けであるそれとは違う。ジップロックの汁は気づくと煮こごり状になっており、それをカットした肉にかける。しっとりしていて月桂樹の香りがほんのり漂っていた。塩味もしみている。粒マスタードを添えると、さらに皿の上の世界が広がった。

毛布のなかでよく眠った土鍋は、確かに「現実を超えたよ」と喜んだ。

あとがきコッチョリーノ

▶︎陶芸の世界は楽しそうで夢にあふれていると言われます。現実は歩留まりが相当わるい仕事です。体力も精神力も根こそぎ使います。▶︎昨日も切羽つまるなか成形中にうかつにも穴をあけました。窯から美しい色で出てきたうつわも底に亀裂があり水が漏れました。気が抜けたとたん爪先の痛みに気づきます。粗い土と毎日の大量ヤスリがけで爪はつんつるてんで血が出ていました。▶︎失敗がいっぱいあるから、小さな成功が何倍もうれしくて、日々の素朴な料理がおいしいと感じられるのだと思います。



EXHIBITION
はるのいのち
我妻珠美

2020/02/08-16
🕚**am 11- pm19 **
closed Mon.
CROCO ART FACTORY
横浜市中区元町 1-71 メゾン元町2F
045-664-4078





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