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【感想文】外套/ゴーゴリ

『バイト政談』

学生時代、遊ぶ金欲しさにアルバイトをした事がある。

1つ目は「交通量調査」であった。
私が任された仕事は、"ある交差点に侵入する車両の数を「自転車」「乗用車」「バス」「小型貨物」「大型貨物」といった種別に応じて、支給された手持ちのカウンターを用いて計測せよ" という任務であった。要するに、車の数を目で追ってひたすら数えるのである。交通量調査開始から2時間後、私は現場監督の方に腹痛を訴え、現場監督に私の作業を代わってもらい公衆トイレへ向かった。だが、私はトイレには入らず『魚民』に入って生ビールを注文していた。現場には戻らなかった。
なぜというに、この単調な作業が耐えられなかったからである。

2つ目は「キャバクラの送り」であった。
私が任された仕事は、"ホステスの出勤・退勤に合わせて、出勤時は車で彼女達の自宅まで迎えに行って店まで送り、退勤時は店から自宅まで送り届けよ" という任務であった。要するに、送迎車でホステスを送り迎えするのである。で、結論から言うと、私はこのバイトを2日目にして辞めた。原因はハナちゃんであった。というのも、このキャバクラ店は新宿にあり、ホステスのハナちゃんは埼玉県桶川市に住んでいるからで、ではその場合、私の勤怠がどうなるのかというと、まず私は、店がオープンする21:00に間に合うよう、17:00に都内の自宅→桶川へ向けて出発し、桶川に着いたらハナを回収、次に桶川→新宿の店へと向かう道中で、他のホステスを拾いながら店に到着、深夜3:00の閉店後、先程とは反対に、皆を乗せて新宿→桶川へ向かいつつ、各ホステスを自宅まで送り届け、最後に桶川の阿保を(=ハナちゃんを)家まで運搬した後、桶川→都内の自宅に到着する頃には早朝6:00を過ぎる、ということになるのである。
つまり、私は体力的な理由によりバイトを早々に辞めたのであった。

現場監督と桶川のハナちゃんには申し訳ない事をしたと今更ながら反省している。

しかるに、本書『外套』の主人公アカーキイ・アカーキエウィッチの場合はどうか。
彼の仕事は「書類の内容をそっくりそのまま別の文書に書き写す」といった作業であり、もし仮に私がこの仕事を命じられたとしたら、即日辞表を提出するであろう退屈な業務に違いない。だが、アカーキイはというと、
<<こんなに自分の職務を後生大事に生きてきた人間がはたしてどこにあるだろうか。熱心に勤めていたというだけでは言い足りない。それどころか、彼は勤務に熱愛をもっていたのである。彼にはこの写字という仕事の中に、千変万化の、楽しい一種の世界が見えていた>> のであって、<<動詞を一人称から三人称に置きかえるだけの仕事>> ですら請け合えないのである。

思うに、著者ゴーゴリは本書を通して、ひたむきなアカーキイに敬意を表し、崇高な人道精神、労働の価値なるものについて再考する機会を、私の様な偏屈者に与えたのである。

しかし一体誰が知ろう、仏の心を。花の心を。アカーキイの平穏を。況や、我が悲痛なる政談をや。

といったことを考えながら、この内容を友人に話したところ『単にお前がヘタレなだけやんけ』と言われた。

以上

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