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【感想文】うらおもて人生録/色川武大

『血だまり麻雀倶楽部』

将棋や囲碁に詰将棋、詰碁がある様に、麻雀にも「何切る?」という問題演習がある。これは要するに、ある対局状況においてどの牌を捨てる(=何を切る)のが最適かを考える思考トレーニングである。

以下に例題を示し、私と色川武大の回答についてそれぞれ吟味する。
※なお、前述の「色川武大の回答」とは、色川氏が実際に切った牌ではなく著書『うらおもて人生録』を加味した私の推論である。

       【例題】

■対局状況:
 南4局 0本場 6巡目

■ドラ:
 1S
 
■持ち点:
 東家34000 南家22000 西家30000 自分18000
 
■手牌:
 二四四四五五六七⓶⓶⓷11
 萬萬萬萬萬萬萬萬PPPSS
 
■ツモ牌:
 九萬

以上の問いは、打ち手の意見が割れるであろう実践向けの良問かつ難問である。

◎私の回答:
私なら⓶Pを切る。
ここで、2位以上の条件は、跳満ツモor西家へ6400以上の直撃が必要になる。となると、得点源のドラ1Sはまず切れない。かといって、四萬を切って七対子ドラ2を狙うのは、西家に単騎待ちで直撃するしかない為、現実的ではない。では二萬はどうかというと、四萬or五萬とドラ1Sのシャボ待ちテンパイが予想され、待ちは悪い。
以上のデメリットを考慮した結果、私は⓶Pを切ることで「一通・平和・ドラ2(または清一色)」を理想形としながら「平和・ドラ2」を緊急時の妥協ラインとしたのである。

◎色川武大の回答(推論):
色川ならドラ1Sを切るであろう。
その根拠は『うらおもて人生録』に歴然であり、<<だまされながらだます>>、<<八百長じみた贈り物>>、<<大きな得点を与えれば>> の章によれば、自身の目的達成の為には相手にも得点を与え、星の貸し借りを念頭に五分五分の線を維持することが肝要である、としているからである。つまり、色川はドラ1Sを切ったのではない。与えたのである(そういえば、■対局状況 に書き忘れていたが、じつは自家はこの対局前に4回連続トップを獲得していた)。
また、1S切りのさらなる裏付けとして、色川は <<前哨戦こそ大切>>、<<動いちゃいけないとき>> の章において、博打場には総合的運気があり、麻雀は点棒ではなく運気のやりとりだとしている。この局でラス目の自家は運気のポイントが低い。下手に動いてはいけない。ではどうするか。
他家のエラーを誘発すればよく誰かがエラーするまでは我慢せよ、と色川は言う。
つまり、あえてドラ1Sを切ることで、他家をエラーに誘い込むのである。なぜなら、老頭牌(=1,9牌)というのはアガリ役が限定される為、非常に扱いづらく、もし、ドラに誘惑されて1Sを鳴いてしまった者は、得点が変動しやすいオーラスにも関わらず、ドラを抱えたせいで柔軟な対処ができなくなる。それを見通した色川のドラ1S切りは正しい。後はじっくり腰を据えて戦うのであろう。

以上を総合すると、勝ちたい一心でセオリー通り手順を踏むことは必ずしも正解とは限らない事が分かる。かくいう私は南4局の事しか頭に無く、合理性を重視した打牌となっており、勝負を大局的に捉えられていなかった。やはりプロは格が違う。

といったことを考えながら、私も色川氏を見習って1Sを切ったところ、対面のおじさんが『兄ちゃん悪ィな、そいつだ...』と牌を倒し『リーチ・イッパツ・ピンフ・イッツー・メンチン・表3・裏3・赤1』と言った。

以上

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