見出し画像

【感想文】鷗/太宰治

『ハーバーライトが朝日にかわる』

随筆と散文詩が混然一体となった小説『鴎』は、主人公の心象風景を読み取るのが甚だ困難な作品である。そこで今回は下記、㊙お助けアイテムの力を借りて本書の読解を試みる。

■かもめが翔んだ日(作詞作曲:渡辺真知子)
ハーバーライトが 朝日にかわる そのとき一羽の かもめが翔んだ
ひとはどうして 哀しくなると 海をみつめに 来るのでしょうか
港の坂道 かけおりるとき 涙も消えると 思うのでしょうか
あなたを今でも 好きですなんて いったりきたりの くりかえし
季節はずれの 港町 ああ わたしの影だけ
かもめが翔んだ かもめが翔んだ
あなたはひとりで 生きられるのね

▼1行目:ハーバーライトが 朝日にかわる そのとき一羽の かもめが翔んだ
 ⇒ 本書の発表は1940年の日中戦争時であることから、平和な港町の象徴・ハーバーライトは旭日旗きょくじつきという軍旗にかわったのである。そして「一羽のかもめ」とは太宰自身を称したおしの鴎であり、その鴎が「翔んだ」については歌詞6行目で後述する。

▼2行目:ひとはどうして 哀しくなると 海をみつめに 来るのでしょうか
 ⇒ 太宰に小説原稿を送った「兵隊さん」はなかなかどうして、哀しくなると遠く離れた戦地から祖国の日本海をみつめに来るのだろうか、と太宰は案じている。

▼3行目:港の坂道 かけおりるとき 涙も消えると 思うのでしょうか
 ⇒ 太宰の旧宅は東京都三鷹市の下連雀しもれんじゃくに位置する。歌詞「港(みなと)の坂道」とは、下連雀にある「カーコンビニ俱楽部みなと自動車工業」周辺の坂道を意味しており、太宰が自宅周辺を散歩しながら、<<矮小無力の市民>> であることに卑下の感を抱いている。がしかし、目に溜まった涙のように <<小さい水たまり>> が消えると思うのでしょうか(=いや、思わない)、といった反語表現を用いて芸術への信条を自問自答している。

▼4行目:あなたを今でも 好きですなんて いったりきたりの くりかえし
 ⇒  <<祖国を愛する情熱>> はあれど、<<けれども、私には言えないのだ。それを、大きい声で、おくめんも無く語るという業わざが、できぬのだ。>> という考えを、作中全般においていったりきたりをくりかえしている。つまり、戦争中に文学を志すことは愛国心が無いと思われるんじゃないか、という自意識が卑屈の精神を生んだのである。

▼5行目:季節はずれの 港町 ああ わたしの影だけ
 ⇒ 太宰は冬の横浜港町で、<<出征の兵隊さんを、人ごみの陰から、こっそり覗いて、ただ、めそめそ泣いていたこともある>> 程に、愛国心への後ろめたさが自身の内に暗い影だけを落とす。

▼6行目:かもめが翔んだ かもめが翔んだ
 
⇒ 啞の鴎・太宰による「 <<男子一生の業>> である芸術の世界へ翔んでいけたらなあ」という願望が表されている。連続2回も。なぜ願望に留まっているかというと、今は <<「待つ」>> ことしかできないからであろう。

▼7行目:あなたはひとりで 生きられるのね
 ⇒ 上記は、離婚して独り身となった「寿司屋の女中」に対する太宰の感想である。


といったことを考えながら、お助けアイテムを使うと余計ややこしいなあと思った。

以上

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?