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ポカリスエットのようなもの

笑顔が多かった。

3連戦の最終日。ミスはありつつも快勝したヤクルト。終了も1時間ほど早く、ファンの心、身体に優しい試合だった。試合終了後に行われる「関東一本締め」(いわゆる一本締め)をDJの声に合わせて行い、ほぼ満員のスタジアムを後にする。

球場から銀杏並木への道は緑のユニフォームを着た仲間たちで溢れていた。心なしか、みな笑顔に見える。暗がりの中だから表情は見ないのだけれども、きっとそうだ。その理由は3連勝で終わったこと、快勝したこと、もしかしたら全く別の「なにか」かもしれない。でも、あまり理由は関係なかった。元気な笑顔という結果がすべてなのだから。

この日のぼくは疲れからか、球場でアルコールを摂取しなかった。元気をもらうために口にしたのはポカリスエット。空になったペットボトルをゴミ箱へ捨て、手持ち無沙汰で渋谷への道を歩く。寂しくなった唇に水分を補給するために、外苑前の駅にあるセブンで「ほろよい冷やしパイン」を手に取った。気分的にはレモンサワーが飲みたかったけれども、ないものはしょうがない。

夏限定のそれを開け口にしながら唇を潤す。骨董通り手前にあるdysonのショールームは閉まっているが、中のモニターはうごめいている。岡本太郎作の「こどもの樹」は今日も表情豊かだ。風が適温だった。毎日のように通る道。景色はいつも同じだ。それでも、目に入るもの、見えるものは毎回違う。ちょっとした気分の変化でこうも変わるのか、と思うほどに。

べつに、悩んでいるわけではない。様々なことが起こり、心身に影響を及ぼしていたのかもしれない。でも、野球を見るという日常は変わらない。負けても勝っても毎試合のように足を運ぶのは、もはやルーティンワークに組み込まれている。朝起きて顔を洗うように。そんなルーティン内で身体や心に優しいことがあるとやはり嬉しいものだ。

嬉しさ、悲しさ、寂しさ…こういった感情の積み重ねでぼくは形成されている。

この日の試合は疲れたぼくに癒やしを与えるポカリスエットのようなものだったんだ、きっと。

7月27日:ヤクルト(11-2)中日

こちらサポートにコメントをつけられるようになっていたのですね。サポートを頂いた暁には歌集なりエッセイを購入しレビューさせて頂きます。