本日のおすすめ本 森見登美彦『【新釈】走れメロス』

「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下」「百物語」をそれぞれパロディにしているのですが、いやあ、笑ってしまった。とりわけ「走れメロス」のラストは百%全開の笑いです。

パロディを楽しもう 森見登美彦『【新釈】走れメロス』 

昔、北大に恵迪寮というのがございまして、今も一応存在はしておりますが、あれは建て替えられたものなので、本物の恵迪寮とは申せません。本物の恵迪寮は、女人禁制というわけではないものの、女子は玄関からちょっと中をのぞいただけで、怖気をふるって逃げ出してしまうという、悪の巣窟、じゃなかった、でも何か恐るべきものの巣窟としか申し上げようのない、おぞましきアウラに包まれ、とりわけ冬になって、しんしんと雪が積もると、「恵迪寮ジャンプ大会」なる怪奇な催し物が開かれまして、赤フン一枚という鳥肌の立つような出立ちの男子学生たちが、次から次へと寮の二階の窓から雪山へ、決死の飛翔を試みたものでございました。

水谷は昔、「テレビを見るんだっ。お前と同じ大学のやつが、ふんどし一枚でジャンプしてるぞ!」と親に言われ、「いっしょにするなー」と思ったことがございます。

で、なんで恵迪寮なのかというと、『【新釈】走れメロス』を読むと、もう最初の一行目から、気分は恵迪寮。小説に出てくるのは寮ではなくて木造二階建ての古ぼけた下宿とかアパートなんですが、それでもやっぱり気分は恵迪寮。今の大学にもこんな恵迪寮的要素が残っていたのかと、水谷は懐かしゅうございました。


原作を楽しもう 中島敦『山月記』 

高校のとき、『李陵』と『山月記』を熱く語っておられた菅原先生が、もし今でもご健在だったなら、森見の「山月記」を読んで、なんと仰せられたか。「僕のころにはこんな学生ばかりでしたよ」とかなんとか、笑いながら言っただろうなぁ。中島敦の文体は、カッコいいので好きでした。

原作を楽しもう 芥川龍之介『藪の中』

高校のとき、夏目を熱く語っておられた田中先生いわく、「芥川が剃刀だとすれば、夏目は鉈である」。そうだ、そうだ、私もそう思うぞ。

田中先生のおかげで水谷は、すっかり夏目フリークになってしまいました。『藪の中』は、人間の一面を鋭く描き出した短編、ということでして、もちろんそのこと自体は価値のないことではない。ただ、芥川は面白いけど、あんまり残らない。『こころ』とか『行人』とか『それから』とか、夏目はずしんと残る。あくまで個人の感想ですが。

原作を楽しもう 太宰治『走れメロス』

太宰中期の傑作『源実朝』戦時中に書かれています。戦時中というのは、われわれの想像に反して、健全すぎるくらい健全で明るい時代だったそうです。若いころ破滅的な生き方をしていた太宰は、戦時中、きわめて健全に作家生活を全うし、『源実朝』『新ハムレット』を始めとする面白い小説をたくさん書きました。

ところが、戦争が終わったとたん、彼は再び自己破壊の方向へ突き進んでいきます。たとえば短編『トカトントン』は、何かをしようとすると、突然「トカトントン」という音が聞こえて、「きょろり」となるという、太宰の戦後の虚無感をあらわした傑作です。太宰を読むなら、『トカトントン』の収録された『ヴィヨンの妻』が個人的には一番面白いと思うな。

原作を楽しもう 坂口安吾『桜の森の満開の下』

これは怖い話ですねぇ。今回の五つの原作の中で、水谷が一番好きなのは多分のこの作品です。と、思うせいか、森見パロディもこの作品では、自由闊達な生彩をやや欠いたのではないか、と。安吾ヘの敬意を表して、『堕落論』から一節引用。「戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に対して鋼鉄のごとくではあり得ない。人間は可憐であり脆弱であり、それゆえ愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる」
か、かっこいい…。

原作を楽しもう 森鷗外『百物語』

この作品は読んでいません。森鷗外は『舞姫』一作で苦手になってしまいました。仕方ないので、鷗外の軍医としてのエピソードをひとつ。鷗外はベルリン留学して、当時最新だった実験医学を学びました。ところが帰朝して、帝国陸軍の主食を麦飯にするか白米にするかで、彼は非科学的かつ政治的に行動します。軍上層部は兵卒を募るために、「軍隊に入れば銀シャリが食える」ことを宣伝文句としていました。栄養学的には麦飯の方が良いという科学的に根拠のある意見を述べる学者に対し、鷗外は上層部の意を汲み、白米こそ科学的にもよろしいと主張し(鷗外の論戦好きはとても有名です)、とうとう相手を言い負かしてしまったとか。日本帝国陸軍には、ビタミン不足で脚気にかかった兵士がわんさかと出現したそうです。


註:個人の好みで作品を選んでいます。また、下記から購入する必要はまったくありません。便利かな〜と思って貼り付けただけなので。図書館が再開されたら、図書館でも読めます。

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